第六膳『初めてのハンバーグ』(回答)


―― はい! いただきましたー!!


天蓬テンポウさんの『たまには俺が作るのもいいな。とびきりうまいハンバーグとやらを作ってやる。覚悟しとけよ』宣言! なんかデジャブってるような気もしないでもないけど、よく思い出せない。


「お肉は羊です。村長さんから分けていただきました」


「羊か……」

「水蓮じゃなくて、あるじだって……」


 金炉キンロさんと銀炉ギンロさんが顔を見合わせてこそこそしゃべっている。


「え? 金炉キンロさん達は羊肉、食べれないんですか? 苦手でした?」


 ―― 苦手食材だった?


 でも、天蓬テンポウさんのためならと、生きている羊を一頭、村長さんが提供してくれたんだ。これは、無駄にできない大切なお肉。

 金炉キンロさん達にはリクエストを聞いて他の物を作らなきゃかなと思っていたら、天蓬テンポウさんがガシっと金炉キンロさん達の頭を押さえつけた。


「こいつら、羊の肉はいつも食べているから問題ない。ただ、昨日のちらし寿司で食べた牛の肉が気に入ってな。牛の肉が食べたかっただけだ。気にするな。なぁ、そうだろ? 金炉キンロ銀炉ギンロ


 二人が小さく「「はい」」と答える。まるで、狼ーもとい猪に睨まれたウサギ。


「そ、そうなの? 牛は、……、この村にはハナさんしかいなくて……」


 私はしどろもどろになる。ハナさんの肉を食べるなんて、それはそれで出来ない相談。


「三つ目牛には手をださせん。それに、羊肉はわざわざ村長が用意した生肉。ならば、羊特有の臭みも少ない。問題ないよな? 金炉キンロ銀炉ギンロ

「「はい、さようで……」」

「それに、俺が作るのだ。何も問題ないだろ? なあ、金炉キンロ銀炉ギンロ

「「おっしゃるとおりでございますー」」


 二人は、天蓬さんの手を振りほどいて、逃げるように数歩後ろに下がった。そして頭をさすっている。


「で、俺はどうすればいい?」

「まず、玉葱も細かくしてくれる?」


 天蓬さんは「任せておけ」というと、金炉キンロさんを手招きして呼ぶ。そして顎で玉葱をさす。金炉キンロさんは「妖力の無駄遣いだ」と不満顔だ。


天蓬テンポウさん、私、天蓬テンポウさんに頼んだけど?」


「いや、玉葱は目に染みるからな」と、天蓬テンポウさんがもごもごと言い訳をする。


「ならば、箸を口にくわえたまま切るといいですよ」

「?」

「唾液が出ると涙は出にくくなるそうです」


「そうか。しかしな、それはそれで面倒だし、金炉キンロは細かくするのが得意だぞ」と、さらにもごもごと言い訳をする。


「それはどういう意味?」

「まあ、みてろって」


 金炉キンロさんが、呪文を唱えてポンと手をたたくと、目の前の玉葱がパラパラっと細かくなる。何もしていない天蓬テンポウさんがちょっと自慢げだ。


 ―― あ、なんかずるい……。


 もやもやするけど、まあ、フードプロセッサーを使ったと考えればいいかと思いなおす。金炉キンロさんはぶーっとした顔をして、細かくなった玉葱を見ている。

 

「せっかく細かくしてもらったから、金炉さん、その玉葱を炒めてもらってもいい? ハンバーグには炒めた玉葱の甘さがポイントなのよ。ね? お願い」

「しかたないっす」


機嫌をなおしたのか、金炉キンロさんは、にっこりとした笑顔で私を見た。 金炉キンロさんがなれた手つきで玉葱を炒め始める。


「じゃあ、天蓬テンポウさんは羊肉を細かく刻んでもらってもいい? でも、こんどは包丁でね!」

「……、銀炉ギンロ、手伝え!」

「えー。オレもっすかぁ? じゃ、ちゃちゃっと妖術で」

「だめだ。水蓮が包丁で刻めと言ったぞ!」

「えー。めんどー」


 天蓬テンポウさんが、銀炉ギンロさんを呼びつけて、二人で仲良く(?)肉を刻み始めた。


 ―― 天蓬さんったら。


「水蓮、肉がとんだぞー」

あるじ! 肉になっても羊は生きているのか!?」

「お前が、羊は嫌だとかいうからだ。ふっ。恨まれたな」


 ―― でも……。

 

「水蓮、玉葱はぁ?」

「そこにおいて少し冷ましておいて」


 ぎゃーぎゃー騒いでいるところに、捲簾ケンレンさんがやってきた。


捲簾ケンレン! お前も手伝え!」 

「料理は手が荒れるからやりません!!」

「手伝わなかったらハンバーグはなしだ!」

「えええーーー!!」

「じゃあ、捲簾ケンレンさんはハンバーグにかけるソース作りを手伝って。この鍋のものを焦げ付かないように混ぜているだけでいいわ」

「ただ、かき混ぜればいいならやります」


 こんなにわちゃわちゃ言いながら料理を作るのは……、中学の家庭科の授業以来かも。料理学校では、誰よりも上手に作りたくて、評価の高い人の技をぬすもうと躍起になり、自分の技を盗まれないようこそこそしていた。なんていうのかな。料理を作るのにすごくピリピリして、自分の評価ばかり気にしていた。誰かと一緒に作る料理も楽しいものだって、いつのまにか忘れていたわ。


 ―― 私、今、すごく楽しい。


「じゃあ、お肉と玉葱を混ぜるのは私がするわ。そのかわり、ハンバーグの形にするのは自分たちでしてね」


 肉と玉葱、小麦粉、馬芹クミン、塩、胡椒を混ぜる。それを天蓬テンポウさん、捲簾ケンレンさん、金炉キンロさん、銀炉ギンロさんがもつお皿に分ける。


「丸めて、ぺたんと平たくして軽く真ん中をへこませてね」

「こうか?」

「二個にしてもいい?」

「お好きにどうぞ」

「まだ、残っていますが、それは?」

「私の分と村長さんたちにおすそ分けの分」

「あ、天蓬さん! 私の分のハンバーグは天蓬さんが焼いてね。約束したでしょ?」

「ああ。とびきり旨いハンバーグを焼いてやる!!」





 

 出来上がったハンバーグは、大きさもばらばら。形もばらばら。でも、自分で丸めて焼いたんだ。自分の皿の上のハンバーグを眺め、隣の人のハンバーグを眺め、口々にあれこれ言っている。


 ちなみに、私の分は天蓬テンポウさんが焼いてくれた。ちょっぴり形が崩れているのは、ご愛敬。


 ソースは赤ワインと西紅柿トマトと玉葱をコンソメで煮込んだもの。捲簾ケンレンさんがぐるぐるかき混ぜていてくれたから、トロリとしたソースに出来上がっている。


 私は、トマトソースをハンバーグが盛り付けられているそれぞれのお皿にかけてまわる。


「旨そうだ」

「主、腹がぐーぐーなってますよ。はしたない」

「仕方ないだろ。腹は正直だ」

「「水蓮、なあ、食っていいか」」


 私も含めて5人のお皿の上にソースがかけおえて、私も椅子に座る。


「どうぞ。召し上がれ」



「「「「旨い」」」」


 四人の声が重なる。それからは、それぞれが感想を言っているけれど、わちゃわちゃしすぎていて何を言っているのかわからない。


 天蓬テンポウさんが私のために焼いてくれたハンバーグ。

 ちょっとはしっこが焦げているけど、そんなことはどうでもいいくらい美味しい。

 肉汁がじゅわっと口の中に広がる。羊特有の臭さは全然感じなれなくて、牛肉と違って肉自体が柔らかい。少しレアで食べてもいいかもっと思ってしまうくらい美味しい。



 この日みんなで作ったハンバーグはサイコーに楽しくて、美味しいハンバーグだった。






*****


羊肉のハンバーグ、食べたことがないので……(笑)

食レポは……難しかった……。

(飯テロなのにごめんなさーい。でも、みんなで作る楽しさは伝わったかな?)













 








 

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