第六膳『初めてのハンバーグ』(閑話)天蓬視点
「しかし、驚いたな」
「「驚いた」」
俺は隣を走っている
「あの三つ目牛、空を歩けるとはな」
水蓮の不安そうな顔を思い出し、「教えてくれればよかったのに」という非難めいた声をあげそうになる。だが、水蓮も知らなかったに違いない。
―― 三つ目牛め。
「ありゃ、牛というより魔獣じゃね?」
「食ったらどんな味がするんだろう」
木の陰から、ヒュンヒュンと風を切る音がして、矢が飛んできた。
「銀は、食う気なのか?」
「だって、牛だぜ? 牛の肉は肉の中でも最高級じゃないか! 柔らかくて、甘くて、脂がじゅわっとしていて……、夕飯のちらし寿司も、チョーうまかった。オレ、また食いたい」
「オレも」
今度は火がついた矢が飛んできた。
「
「おお!!」
俺は右手に持っていた剣を振り上げて、木の上から飛び降りてきたものの剣をはらう。
「全部で何人だ?」
「弓が5、剣が10」と俺の隣で両手を広げ呪文を唱えた
「ずいぶん、軽く見られたものだ。で、こいつらはだれの差し金だ?」
振り下ろされた相手の剣をかるく流す。俺は、自分の剣の向きをかけて相手を突いた。鈍い音をたてて、相手が崩れ落ちる。
「
「なぜわかる?」
「
「ああ、あの呪い人形みたいなやつか」
残念な弟は、自分の部下には羅刹様命と書かれた怪しい人形をつけさせている。確かに倒れている奴にはそれがない。
「それに……。変な妖気を感じる」
「こいつら、全然痛がらないっすよ」
持っていた杖で相手の肩を攻撃していた
「操られてんじゃね?」
「そりゃ、やっかいじゃん。一気にまとめて殺っちまうか?」
「操られているのなら殺すのはなしだ。骨を折るくらいにしろ」
「えー。めんどー」
「
「命令だ。もし俺の言うことを聞かなかったら、水蓮が作る飯はなしだ!」
「「それだけは勘弁を~」」
二人の声がそろう。
―― こいつらも水蓮の作る飯に胃袋を捕まれたな。
確かに、ちらし寿司は、見た目は女が喜びそうなものだった。
思い出すだけで、肉の甘い汁が口の中によみがえってくるようだ。
水蓮が作る料理はどれもこれも俺の心と胃袋をつかんで離さない。茸の
「さっさとやっつけて、水蓮達に追いつくぞ。三つ目牛が空を歩いていくのなら、明け方には西の村に着くだろう。明日の昼までには合流しないと夕飯はまた雑炊になるぞ」
「「了解!! ちゃっちゃと終わらせます!!」」
俺たちはそこから山を走り続け、昼前にはちゃんと西の村に着くことができた。
これで、水蓮のうまい飯が食えると思ったら、水蓮の爆弾発言で俺は固まってしまった。
「今度会ったら、私のために私が食べたいものを作ってくれるって約束したよね? だからね、私、ハンバーグを作ってもらおうと思って、材料を用意して待っていたんだ」
「ハンバーグ?」
「粗いみじん切りのお肉に、脂、食塩、胡椒で味付けし、玉葱、大蒜のみじん切りと卵を混ぜて焼いたもの、うんとね、タタールステーキとか大きな肉団子っていえば通じる?」
とても嬉しそうな顔をして水蓮が、俺に言う。
「料理って、食べるばかりじゃなくて、誰かのために作るのも楽しいものよ。私、
―― 俺のために料理を作るのが楽しい?
「そ、そうか」
少しばかりくすぐったい気持ちになる。
「そうだな。たまには俺が作るのもいいな。とびきりうまいハンバーグとやらを作ってやる。覚悟しとけよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます