第三膳『シチューと苦手料理』(回答)
―― うん。おいしい。
たっぷりの茸のうまみが混ざり合い、牛乳と溶け合い、複雑なハーモニーをつくる。炒めてさらにパワーアップした茸の香りが口の中に広がって鼻からぬける。ふふっと思わず笑みがこぼれた。
―― このぷりっとした食感。これは、
―― こっちの白くて花びらは
私は、スプーンの中にある茸をひとつひとつかみしめる。
『みんなちがって、みんないい』
遠い昔この世界に生まれる前に覚えた詩は、このあとなんだったっけ、そんなことを思いながら
―― 今日は、パンの咀嚼回数がやけに多いんじゃない?
それに、コップから水を飲むのがかなりゆっくりだ。鼻のあたりにコップをあてて、息をしているようにも見える。
―― こんなにおいしいのだもの。一口食べれば、きっと、美味しい、美味しいと言って食べてくれると思ったんだけどな。
なんとなく楽しくなくて私の頬がぷうっと膨れていく。反対に、
―― なんかへんなの。
いつもと違う
――
美味しいものを作れば
それを見て、
「茸は小さなころ苦手だったんだ。まあ、それは克服したが……」
―― えっ、茸? 克服した? じゃ、なんで?
「この体になって、嗅覚が強くなったせいか、今朝、この家から漂ってきた硫黄と脂が混ざった匂いは、正直こたえた……」
―― 匂い!! 匂いなの?!
「ごめんなさい! そんなこととは知らなくて!!」
私は、慌てて立ち上がると、窓という窓を開けた。そして、『雨もへっちゃら乾かしてみせ妖具』を最大能力で動かした。(もちろん冷風で! 扇風機使用!)部屋の中に湿った冷たい空気が入ってきて、空気が変わっていくのがわかる。
「そんなに窓を全部開けなくても問題ない。もう、匂いのもとの
「わ、私の方こそごめんなさい!! 茸の匂いがダメだなんて、知らなくて!! 食わず嫌いは人生を損するなんて言っちゃって!」
あわてて平謝りに謝る。私の気持ちだけを押し売りして、料理を作ったのがいけなかった。おいしいというのは私の感覚で、
―― なのに
「知らないのは、俺が話さなかったからだ。まあ、俺も、茸の匂いがダメだということは、俺自身、今日まで知らなかった。そうなると、説明のしようがないな」
「
お酒で炒めるか、煮れば、茸の臭みも半減する。ちょっともったいないけど、水洗いするっていうのも手かな。
あれこれ考えていると、
「今からわざわざ作り直すことはない。それよりも、今日は大事な話がある。水蓮は何も聞かず、俺も居心地が良すぎて、お互い楽しければいいとなあなあで暮らしてきた。しかし、状況が変わった。とりあえず、おすすめのお茶をいれてくれないか?」
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