食事のあとは蜂蜜入り加密列茶

 咖喱カリーを食べ終わり、蜂蜜入りの加密列茶カモミールティを差し出したとき、笑顔を消して彼が私の顔をじっと見た。


―― なんか見たことのあるような展開……。


 私はカップを彼に手渡して、自分の椅子に座って、蜂蜜入りの加密列茶カモミールティを口に運ぶ。私のは蜂蜜をたっぷり入れたから、口の中の辛さが和らいでいく。


 天蓬テンポウさんは私から視線を外して、箱に無造作に入れられている六角形の鏡をじっと見ている。


「俺はの国の妖術士を探している。ここは、の国の妖術士の家だろう?」


 ―― そうきたか。今回は単刀直入に切り込んできたのね。


 私は、もし、天蓬テンポウさんが敵だったらと少し身構えながらも「ええ」と答えた。声が固くなったのは許してほしい。私の緊張に気づいただろうに、天蓬テンポウさんは、目をつぶりじっと考えている。そして、ゆっくりを目を開けると、何かを決心したように一度頷くと話し出した。

 

「しばらくの間、ここで妖術士を待たせてもらってもいいか」

「え? でも……」


 ―― でも、お師匠様はもう三年帰ってきていない


 ここで天蓬テンポウさんと暮らすことができたら、もう私はひとりぼっちではないと思ってしまった私は、うまく話せず黙ってしまった。それをどうとらえたのか知らないけど、天蓬テンポウさんはあわててぶんぶんと首と手をを振りはじめる。


「い、い、いや、この家に住まわせてほしいと言っているわけではない。こ、この家のそばに天幕でも張ってだな……、そ、そこに寝泊まりしてだな……」


少し口ごもりながら、耳の後ろをポリポリと搔いている。しばらく、目をパシパシさせていたけど、天蓬テンポウさんはコホンと咳ばらいをすると、姿勢を正した。


「報酬はちゃんと払う」

「でも、お師匠様がいつ帰ってくるか保証できないわ」

「構わない」

「でも、お師匠様が貴方の話を聞く保証はないわ」

「それでも構わない」

「でも、ここは森の中で何もないわ」

「狩りは得意だ。頼まれれば、畑仕事も手伝おう」

「でも……」

「俺は、俺にかけられた呪いを解いてもらえる可能性があるのなら、それにかけてみたいのだ」

「でも……」

「水蓮には決して迷惑をかけない。妖術士が戻ってくるまで血の契約を結んでも、鎖をつけても構わない」


 天蓬テンポウさんは一歩も引く気がないようだった。服従の証である血の契約を結んでまでもここいたいのかと思うと顔が緩んでしまうのは許しいてほしい。例えそれがお師匠様が帰ってくるまでという期間限定だったとしても、お師匠様に用があるからという理由であっても、私にとっては、すごくうれしいことだったのだから。


「……、わかったわ。報酬も血の契約も鎖も必要ないわ」

「そうか」


 すごくほっとしたように、天蓬テンポウさんはつぶやくと、机の上にあった蜂蜜入りの加密列茶カモミールティをごくごくごくと飲み干した。


 「甘い薬草茶もなかなかいいものだ。口の中の辛さがほどけていくぞ。この前の生姜入りの茉莉花茶ジャスミンチャといい、水蓮は相手のことを思いやる優しい茶をいれてくれる。まったく、皆に見習わせたいものだ」



 

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