第二膳『カレーの冷めない距離』(お題)
―― えええ? 来たの??
雪が融けはじめて、森の中にようやく茶色い部分が見え始めた早春。
森の中でお茶に入れる
「やあ! 森の中にいてくれて助かった」
金色の目を細めて、彼が私の前に立った。走ってきたのか、ばふばふっと鼻息が荒い。私はというと、走ってもいないのにドキドキがとまらない。
「こ、こんにちわ。えっと……」
「えっ? 俺のこと、覚えていないのか?」
彼がとても困った顔をした。頭の上の耳がしょんぼりしている。
「覚えているわ。でも、あの時、名前も言わなかったから、なんて呼べばいいのかって思って……」
「それはすまなかった。俺は、
「
「すっ? へ? ああ。
つまり、雪が融け始めて森の中をさまよっても大丈夫だろうと考えて、先日のお礼にと、お土産持参で、わざわざ訪ねてきたというわけね。律儀だこと。
―― もしかして、私のこと忘れられなかった?
もしそうだとしたら私の人柄というよりは、料理のせいだろうな。コンソメってこの世界ではあまりメジャーじゃないもの。それに、あの時、
「それはありがとう。まあ、立ち話もなんだし、うちにくる?」
「それは助かる。かなり歩いたから、とにかく座りたい」
そう言うと
◇◇
家にはいるなり、突き出た鼻をひくひくとさせ、何とも言えない笑顔を浮かべた。
―― だろうね。
部屋の中いっぱいに
「
私の言葉に、
「いや、それはその……、今日は、先日の礼であってな……」
すごく内面で葛藤しているのか、やたらと足元と天井で視線を往復させている。私はそんな
―― 今日は、朝にご飯を炊いておいたから大丈夫だと思うけど、足りなかったら、麦の粉があるから
そんなことを思いながら、
―― 誰かのために料理を作るって楽しい。
ふわっと香る
「しかし、それでは、誤解をまねく。しかし、森の中でもかすかに匂い続けていたこの香料が俺の腹を……」
定まらない視線のまま、
私はくすりと笑った。
―― そんなつもりで来た事じゃないのは分かってるわよ。
―― 図々しいと思われるのが嫌なんだろうなぁというのも分かっている。
―― でも食欲をそそるような
「私、
「し……、しかし、それでは、申し訳ない……」
「じゃあ……、おもたせで悪いんだけど、
「ああ。ここへ来るまでに十羽ほど仕留めてきた」
「十羽も私ひとりじゃ食べきれないよ。だからと言って、腐らせちゃったらもったいないじゃない?」
「そういう話なら……グゥグゥグゥグゥ――」
自分のお腹のグゥグゥグゥグゥと鳴る音に
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