第5話 ショウブ
体育館にはすでに剣や槍といった、自分の武器を手にした生徒達が集まっていた。体操してる生徒もいるし、ウォーミングアップしてる生徒もいる。剣や槍はもちろん、鞭であったり斧であったりハンマーを持ってる生徒もいて種類や形は皆んな違う。
「うっし、」
俺は寮部屋にずっと置いてあった自前のガントレットを手に装着した。久しぶりに見たけど傷も全くなくて、今だにグレーの光沢を輝かしている。待っていると生徒の皆んなが動き出して、それと同時に西垣先生が出てきて笛を鳴らした。
「それじゃ実践授業を始める、今日の内容は1対1のガチンコ勝負。それぞれ皆んなと戦いクラスメイトの3分の1に勝利を収めればクリア。できなければ放課後に3時間の補修授業を行う」
なるほど、いきなりそうきたか。ガチンコバトル。日頃から鍛錬を積んでいるクラスメイト達にどこまでやれるだろうか?一昨日から師範との稽古を始めただけで俺が勝てる見込みはない。
すると西垣先生がリモコンみたいな奴を手に体育館の中心に向けて操作した。すると轟音とともに体育館の床が開いて穴が開き、そこから4つのリングが姿を見せた。
「(えぇぇぇぇぇそういう仕組み?!初めて見た)」
「それではチェックシートを配るから授業を始める」
それを合図に生徒達が立ち上がり、各々の準備とともに授業がスタートした。
※
この授業の嫌なところは開始の合図と共に直ぐに分かった。皆んな生徒が補修を受けまいために確実に勝てるポイントを稼ぎたがるのだ。つまり弱いものが最初に狙われる。つまり、
「おい、寺井っ!俺とやれよ」
「寺井君、僕と剣を交わそう?」
「寺井?手加減するからどう?」
そう、俺がほとんどの生徒のターゲットとなっているわけだ。クラスメイトの名前はほとんど、っていうか覚えていない。自分の立場をマジ痛感する。が、しかし待っても仕方がない。
「せめてジャンケンしてくれないかな?順番に戦うからさ〜」
ターゲットにされては逃げようがないし、もう多分これが今日は続くだろう。俺に戦いを申し込んできたクラスメイト達がジャンケンをして順番を決めている。
「よぉし!俺が1番だ!」
ジャンケンで勝ったのは体が大きい生徒だった。ガッチリしてて鍛錬を怠ってないんだろうなぁって思う。
「よろしく、俺寺井です」
「おうっ、俺は石木。ハンマー使いだ」
お互い自己紹介を交わして、まだ空いてるリングへ向かう。ガントレットを手に装着して石木の方も準備できたみたいだ。リングの周りには少なからずのギャラリーもいる。恐らく俺の順番待ち組だろう。
「それじゃ始めるか!」
石木が勝つ気満々って感じで地面にハンマーを叩きつける。
「あぁ頼む」
俺もガントレットを構えて、戦闘開始だ。
コングの音とともに試合は始まった。石木は
デカイハンマーを両手で持ち上げ、あたかも野球のピッチャーかのように振る舞った。
「どこからでもいいぜ!」
俺が勝つから言わんばかりの顔はどんな顔より腹が立つ。俺が動かずじっと待っていると、肝を煮やした石木が先に動いた。
「仕方ねぇ、行くぞっ」
石木はハンマーを振りかぶり俺に叩きつけた。スピードはそんなに早くない。それを軽々よけ俺は師範に教わったステップで全身しガラ空きの顎と腹にガントレットでパンチを、そしてまだ隙はあったのでジャンプして腹に蹴りを入れた。その反動で俺は後ろに飛び、石木も思わぬ反撃に身を引っ込めた。
「くぅ〜痛てぇな?」
石木は攻撃を食らったことのが信じられないのか、一瞬で目の色を変えた。その目は俺を見据え確実に狩る目だった。
「おらっ」
石木はハンマーを肩の後ろに構えながら、いきなり猪突猛進を始めた。それはまるでゲームのため技が如く、俺の真前で停止し目にも止まらぬ速さでハンマーを振り下ろした。
「ぐっ!」
すかさずガントレットでガードしたが、これは重い。そしてハンマーが真上から離れたと思ったら次は左から飛んできた。
「うぉ!?」
俺は綺麗にのけぞり後退を余儀なくする。まぁ当然だけど強ぇーな。
「舐めるな、ガントレットっ」
石木は膝をついた俺を見て侮蔑した目で上から視線を下ろしてくる。こんなんじゃダメだな。俺は立ち上がりもう一度ガントレットを構え直す。そして次は先に俺が高速で前進する。石木はハンマーを構えガードを取るが、俺を姿勢を低くして石木の足を思いっきり蹴った。
「ぬんっ!!」
少なからず効いたようでハンマーの構えが解ける。ガントレットは超近距離戦なので立ち上がり石木との距離をなくし密着状態にする。石木は驚いたように目を見開いたが遅い。師範との稽古で散々ぶっ飛ばされたから今なら分かる。おでこ、鼻、顎、胸、腹を同時に俺の100%で打ち込み、最後に顔の左を思いっきり左フックする。石木はノーガードだったため恐らくダメージがモロに入ってるとは思うが、どうだろうか?
「ぐぅ〜」
石木はガクッと膝をつき、最後には顔からうつむせに倒れ込んだ。
「(できた!まだ上手くはないけど、師範がやっていた見よう見まねの《5点パンチ》!!)」
リングの外で戦況を眺めていた生徒達はポカーンとしていて、その中の1人がリングに上がってきた。
「……白目剥いてますっ、勝者は寺井君!」
その男の子は石木の顔を確認した後、右手を俺の方に上げて勝敗を宣言した。そしたらなんと、リングの周りにいた生徒達も腕を上げだし沈黙は歓声に変わった。
「すげぇー!やるじゃん寺井!」
「石木ぶっ飛ばすとか気合い入ってんなー」
「かっこよかったでー寺井君っ」
などなど、その時には俺を下げずんだ目をする奴は愚か、遠目に卑下する生徒はすっかりいなかった。何より嬉しかったのが拍手をする生徒の奥で西垣先生が微笑んで小さく拍手していたこと。自信はあるわけもなかった。床にひれ伏し泣いて帰る、それが今日の予定のはずだった。少し息が荒れているし、心臓の動悸は治りそうにない。俺は右手を上に上げ、とりあえず1勝を手に入れた。
「(俺にもやれた!やってやる!)」
第5話.終
高校博打に誉あれ soた @sota_hayato
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