第3話 シンドウ
「……(………)」
結局来てしまった。来るしかねぇよな、だって落第予定者だぜ?もう半分投げやりじゃん。
道場は校舎の裏にありはしたし、見つけるのに苦労はしなかった。ただこれが道場だと判断するのに時間を要した。
「ん〜」
道場の風貌は新しい時代にそぐわない木製のボロっちいのが感じ取れるし、腐敗臭?なんかちょっと匂う。もう使われてない廃道場かと始めは思ったよ。しかし周りにはこれ以外に建物自体がそもそも見当たらない。
「まぁ、行くか」
道場は校舎の裏ということもあって、超日陰の中にあるから常に薄暗い。道場の前の段を上ったところに和風の扉、襖?障子?なんていうのか分からないけどスライド式の扉を開いた。
「すいません、お邪魔しまーす」
中は予想通り薄暗かった。電気も着いちゃいない。だけど、、違和感がする。
ゴリっ
「えっ?」
なんか踏んだ、と思って足元を見ると人がいた。いや倒れてた!!
「おいっ、お前大丈夫かよっ!」
倒れていたのは男の生徒だった。でも顔は見たことない。俺はそいつの体を揺さぶったが起きる気配はなかった。
「(寝てんのか?)」
ガラッ
その時、道場の奥の部屋の扉が開いた。
「ほっとけ、根性がない奴は勝手に帰るだろ」
薄暗い道場内の奥には人影が見える。
奥の部屋から出てきたのは男だった、身長は自分より少し高いくらい、でも生徒って感じでもない。男の声は野太くてイカついって感じで、頭には真っ赤なバンダナを巻いている。黒Tシャツを着ているその男の体は、何も分からない奴が見ても「出来上がってる」といわんばかりの筋骨隆々な仕上がりだった。でもその顔は、俺でもよく知っている。
真道誠(シンドウマコト)、俺がまだ家のテレビで憧れていた時代に桜井東高が高校チャンピオンシップで全国優勝を取ったことがあった。その時のメンバーに真道誠がいた。真道誠は入学してから「喧嘩上等」って感じで荒れていたらしい。そして2年生に上がるや否や、ものすごい早さで高校のトップ5に君臨したのだ。
小柄な体とは裏腹に彼の得意とする武器は『金棒』で、大剣使い顔負けの大きな金棒を振り回して相手を吹っ飛ばす戦闘方法をとっていたはずだ。高校時代に圧倒的な強さを見せつけた真道誠は、他の高校から『鬼』という異名で恐れられていたのだ。
俺は唖然としたのか恐怖で身がすくんだのか、その場で尻餅をついてしまった。
「あなたは……!?、どうして『鬼』がここに!?!?」
OBという扱いではあるが、そんな簡単に高校に現れていいほど小物ではない。メディアにも取り上げられるほどのガチガチの大物だ!
「三嶋のやつに呼ばれてんだよ、使えねぇ奴らを叩いてほしいってなぁ。お前は、ん〜」
そう言って真道誠はポケットからクシャクシャの紙を取り出して広げて見るや、道場の奥へ戻っていった。
「(…………本物か?、だとしたらヤバすぎるだろ!?)」
あまりにも急な展開に心臓の動悸が落ち着かないが、紛れもない本物だ。あの鋭い目には少し萎縮してしまったが、本当に驚いた。
ゴトンッ
「ほらよ、つけろ」
奥へ戻っていった真道誠は手に持っていた何かを俺の方へ投げてきた。
「がん…、ガントレット、」
それは自分を落第予定者にまで陥れた武器、ガントレットそのものだった。
「今日からはそれを装着して戦ってもらう。1学期の最後にある学年別順位決定戦までな。」
そう言うと真道誠は道場の奥に立てかけてあった「棍棒」を手に取り自分に向けてきた。
「これからは師範と呼べ」
そう言った真道誠、改め師範は薄暗い道場内の奥で不敵に笑っていた。
※
バギィィン ガキィィン
高校の実践練習の授業には数回しか出たことはないが、師範との稽古は全く次元の違うものだった。卒業してから月日が経っているとはいえ数年前はNo.5を張っていたような人だ。自分の腕の何倍ものサイズの棍棒を常に回転させ振り回し、遠心力を最大限活用していることが戦っていてよく分かる。
「こなくそぉっ!!」
ガンッ
師範の動きには無駄がなく一片の隙もありはしないが、すかさずガントレットのパンチを繰り出し棍棒の動きを少し止める。
「マサっ、行けっ!」
一瞬たりとも気が抜けぬ中、師範の気をこちらに向けている間に今まさに共に戦っている後ろの人物へ声を投げる。
「食らえっ!!」
その声に呼応し、すかさずその刃が師範の胴目掛けて穿たれる。と、思われたが師範が俺のガントレットをガードしながら足だけを回転させて、その人物に対し、顎、腹に蹴りを食らわせる。
「ぅがっ!?」
「遅すぎるっ」
たった数秒のうちに彼が持っていたであろう木刀は中を舞う。ほぼ同じタイミングで師範の意識があちらに向いている隙に左ガントレットのパンチを繰り出そうとするも、師範の回転を止めることが出来ずに360度回転した棍棒が右から大きく弧を描いて体にぶち当たり大きな衝撃を生んだ。
「ぐぁぁぁあっ!!」
「お前の動きは見えすいてるっ」
師範の攻撃を完全に受けてしまった俺の体は綺麗に中を待ってしまう。
ドカァァン ボガァン
師範の蹴りを食らった彼も、棍棒をモロに食らった俺もそれぞれ地面に、壁に打ちつけられる。
「そこまでっ、一旦休憩だ」
疲れたそぶりを全く見せない師範はそう言って棍棒を肩に担ぎ奥の部屋へ消えていった。
「うぐぅ〜効いたなー」
俺も師範の攻撃をガードしたのだが棍棒は遠心力をフル活かして飛んでくるため、ガードが追いついたとしても大きな衝撃を緩和することができない。
「あの〜、寺井君大丈夫?」
そこで先ほど先輩に蹴られていたもう1人の人物もとい生徒が俺のところに来てた。
「あ〜もう大丈夫」
彼の名は、国志田政行(クニシダマサユキ)、道場にきた際に入り口で倒れていた男だ。国志田、改めマサは俺よりも早く1番乗りで道場に入るや否や師範にぶっ飛ばされたというわけだ。彼の風貌は目元まで伸びた髪のせいで隠キャを醸し出しており、おおよそ強そうには見えない。彼が扱う武器職は一刀流剣士で稽古中は師範が用意した木刀を扱っている。一刀流剣士なんてレア職、俺には到底手が届かないだろうなと思いながら自分が使っていたガントレットを外す。
それにしても、改めて道場の中を見るとかなり大きいことがよく分かる。しかもマサが使っている木刀もそうだが、俺が使っているガントレットまでもがボロボロの傷だらけなのだ。かなり使い込まれていることがよく分かる。一体誰が使っていたのか?
遠くまで飛んでいった木刀を拾ってきたマサが隣に座り込んだ。
「しっかし歯が立たないねぇ師範には」
「確かにありゃ隙がねぇ。俺たちが敵う相手じゃない」
『鬼』の異名は伊達じゃない。しかしマサの剣技だって目を疑うものがある。稽古中の動きだった申し分はない。と俺が言えるわけもないが絶対サシでやれば1学期サボっていた俺よりは強いはずだ。そこで俺は1つマサに対して疑問を投げかけた。
「なぁマサ、何で一刀流剣士っつうレアな判定出たのに俺と同じ落第予定者なんだよ」
マサは首を傾げて「あー」と続けた。
「人の目に触れるのが苦手なんだよね。最初は一刀流剣士なんて凄い判定出てね、担任の先生や親も喜んでくれたんだけど、いざ力試しで体育館で試合しようとすると大勢の人の目に晒されて緊張してね」
贅沢な悩みだと思った。職種のトレード機能があれば誰もが喉から手が出るほど欲しがる力だ。マサに『自信』が加わればトップランカーも夢じゃないかもな。
「それに対して俺は無様だな、ガントレットで強くなれる気がしない」
師範と稽古する数分前にもマサとの立ち回りの作戦会議を重ねたのだが、武器無しの俺では長物によくあるリーチの話が進まなかった。
「難しいよねガントレットは、超近距離戦だかぁ」
これからの稽古で立ち回りが大きく問題となるのは100%間違いない。
「「はぁ〜」」
静かな道場に2人のため息だけが浮かんでいるようだった。
第三話.終
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