第2話 ラクダイ

 昼飯といっても菓子パンのだけど空腹はマシになった。

「とりあえず戻るか」

 高校チャンピオンシップに参加契約してる高校は数多くあるが、その中でも桜井東高は数少ない高校チャンピオンシップ、略して「高チャン」(※以下略)の直下の契約高校である。だから施設も豊富だし、高校生の武器や防具を製造するための鍛治師や錬金術師たちも数多くいる。彼らをまとめるためにあるのが「寮制」である。桜井東高の寮は学科別で3棟に分けられていてそれぞれ全て三階建てである。

 俺の寮は一階の1番すみっこで、周りの生徒からは「戦わない1年ガントレット」として忌み嫌われたいるんだ。これも仕方ない。俺のクラスの他の生徒らはみんな武器持ちだ。そりゃそうだ、例年でも素手戦闘型の奴なんていないし、始めの方は俺だって「ネタ枠」として頑張っていた。笑い者になりながらも、相手のクラスメイトの持つソードやハンマーにもビビらず果敢に攻めていた。一時には自分は実は1番強いんじゃないかとも思っていた。が、限界が来るのは思っていたよりも凄く早かった。攻撃の型がパンチの一点張りだったからだ。そりゃもう皆んな見慣れて俺への攻略法をどんどん出していき、武器持ちには敵わなくなっていった。 


「俺だってアニメに出てくる聖剣エクスカリバーみてぇな剣振りてぇよ」


「(はぁ)」


 本当に心は折れてるし、ため息を、止めることは今の俺に出来はしない。


「(どうしたもんかなぁ〜…はぁ〜……)」


   ※


 寮の端っこの自分の部屋の前に行くと、1人の男の人がドアの前でインターホンを押し続けていた。

 あの人は確か、中枢の人だ。中枢っていうのは高校の中でも30番までに強い生徒達が築く生徒会みたいなものだ。彼らは常に上下争いが激しく常にランキングは変わっている。そんな人たちのことを『トップランカー』というのだが、


「あの〜、井上ですけど三島さんっすよね、今戻りました。どうかされました?」


 髪に天使の輪がくっきり映るほど綺麗な髪をもつこの人は高校の中でもNo.12という超強い人、名前は三嶋光一、3年生で長剣使いである。この人とは適正診断の時にお世話になっただけで接点自体は皆無だ。

 それ以前にトップランカー達ってのは常に鍛錬に励んだり、自分よりも格上のランカー達に挑み続けたりしてるのだ。だからこそ「体育館」では毎日のように試合が行われるので、その激しく戦い見たさに高校の生徒全員が昼休みには綺麗にいなくなるのだ。でもそんな人がどうしてここに?


「あ〜外出中だったか、すまないね。君にこれを、」


そう言って、先輩が手渡してきた書類はやたらと分厚かった。その表面には、


〜今学期の落第予定者名簿〜


「………(………………)」

「はっ?」

「(え?!)」


その分厚い書類を何ページかめくったところ、

1年生の欄を見つけて名前の羅列を上から指で辿っていくと5、6行目のところにそれはあった。


落第No.14番 井上颯人


「ええええええええええええええええ!!!」


嘘!!落第!!!俺が!?!?せっかく入学したのに1学期中に落第だとぉ!!


そんなことあるわけないと書類を見返すが、一字一句間違いなく自分の名前だ。

俺は呆気にとられ思わず膝をついてしまった。


「マジか…」


地面に落ちた書類を拾い上げ三嶋先輩は諭すように言葉を落としてきた、

「君はガントレット拳闘士だったね。適正診断の時は僕も驚いた、よく覚えているよ。が落第の危機に瀕していたことは知らなかったようだね?」

そんなこと知るよしもなかった。ガントレットだと分かってからは授業でやる武器の取り扱いの説明は役に立たないし、実習での技術向上は過去のガントレット保持者がないので戦い方を教えられる人もいない。全くもって授業は意味をなさない。こんな事実を、目の当たりにしてずっと抱えていた不満が弾けそうになって目頭が熱くなった。



「君にチャンスをやろう」


「(…………え?)」

この人は何を言ってるんだ。落第予定者よ俺に今更何ができるってんだ?!

「…………チャンスって何すか?」

絶望感に浸りながら尋ねた。


「これは悪魔で予定者だよ。1学期が終わって、はい落第です、ってなる訳じゃない。でも2学期もこの調子だと流石にマズイって話だ。」


そうなのか、知らなかった。だか少しの時間があるからってどうしろと?余命宣告みたいなものじゃないか?俺は後悔と不安でいっぱいだった。

「(ごめんよ、母さん(泣))」


そして足を崩し倒れ込む俺に、三嶋さんは言った。

「どんなだらしない戦い方でもいいっ。ガントレットを使って100位以内を目指せ!!」


三嶋さんは拳を握り込み、俺を真っ直ぐ見てそう言ったのだ。

「……俺には無理です、始めは努力したけどダメだった」


こんな卑屈なことを言う俺に先輩は胸ポケットから1枚の髪を出して手渡してきた。

「戦い方を教えてくれる。ここは行け!」

ニコッと笑った先輩は真っ直ぐ俺を見てた。


   ※


 「(三嶋さんの目、ガチだったなぁ〜)」

 三嶋さんが帰った後、俺は自分の寮室のベットで思考停止の上の空状態で早2時間経過しようとしていた。三嶋さんから貰った髪には、寮から出て校舎を挟んだ反対側にある道場の場所が記されていた。


『田和村のとこ行け!絶対行け!必ず!』


 田和村かぁ〜。聞いたことない名前だ。少なくともトップランカーではない。俺は少しでも強くなるためにトップランカーの人のことは以上に調べ尽くしている。


「行くべきか、行かないべきか…」


う〜む、悩む。


第2話. 終






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