僕と君と音

カナマエ

プロローグ 《入学》

 《桜が咲き始める四月一日》

 《新たな一歩を踏み出す日》

 《運命が動き出す日》




 最寄りの駅から約五分。

 桜の木が歩道いっぱいに立ち並ぶ通学路を歩き、二つ目の信号のある十字路を右に曲がる。そこから少し歩くとなんだか長い歴史を感じさせる校門と白い外壁の四階建ての綺麗な校舎が見えてくる。

 

 私立、門ヶ崎学園高等学校


 この高校は今年度で創立百二十年を迎える。全国屈指の進学校にして、長い歴史と文化を持つ由緒正しき高校だ。進学先の多くは国立大学やその他有名大学。昨年の進学率は百パーセント。全員が受験して、全員が第一志望の学校に受かっている。いや、すっご。進学するために、将来のために最大限力を伸ばすことが出来る高校として知られている。ちなみに、ここの卒業生には総理大臣を務めた人もいるという。



 僕はこの高校の特別推薦生として入学する。

 特別推薦生は各学年、合計で4人決まる。入学試験と面接試験、これまでの成績を総合評価し、高かった順に特別推薦生に指定され入学できる。僕はその中の1人だ。何番目か知らんけど。

 自分で言うのもなんだが僕は完璧だ。入学試験は満点。面接も完璧。中学校の成績も申し分なし!どう考えても、推薦を取れないわけが無い!誰が見ても完璧にしか見えない。


 外面だけ見ていればの話だけど……



 僕はオタクだ。でもアニメを見たりライトノベルを読んだりするくらいで、フィギュアとかタペストリーとか買ったこと無い。


 それ以上にオタクなのは音楽だ!特にピアノ。弾くことは出来ないけど、聞くことは大好き!地域で行われるコンクールやコンサートは絶対いくし、CDとか楽譜とか弾かないくせに沢山持ってる。アニメとかライトノベルも音楽が関係するものだ。



 校門をくぐり、クラス表が張り出されている広い昇降口の前まで歩いた。クラスはAからDの四クラス。他の高校みたいに専門系のクラスがある訳では無いから四クラスしかない。

 等間隔に並んでいる全クラスの名前の中から自分の名前を探した。僕のクラスは一年B組。


(B組か。四クラスあるってことは、各クラスに特別推薦生は一人ずつってことになるのか?にしても、一クラスの人数多すぎない?三十人超えてるって。四クラスで百二十人超えるのかよ…)


 一人でそんなことを考えていると。周りがうるさくなってきた。新入生がどんどん集まってくる。


「騒がしいなぁ」


 声を聞く限り、大体はクラス表を見て友達と一緒になって盛り上がったり、逆になれなくて悲しんだりと色んな話をしている。何となく気になって周りを見渡した。視界に写っている人達を見る限りみんな友達がいるようだ。僕だけ1人か……寂し。



 校舎はとても綺麗だ。壁や廊下には傷とか剥がれは無いし、下駄箱もロッカー式の物だった。数年前に立て替えたんだろう。じゃなきゃこんな綺麗なはずない。


(だとしたら百数十年の歴史ある校舎は全て取り壊したのか?一度でいいからは見てみたいな。)




 下駄箱に靴を入れ、持参した学校指定の靴を履いて階段を登った。一年の教室は昇降口すぐの中央階段を三階まで登る。エレベーターもあるが生徒は大型の荷物を運ぶ時と、先生の許可がないと使うことはできない。


 登り終わってすぐ右に曲がると一年生教室が四クラスとも並んでいる。B組は奥から二つ目だ。


「階段しんどすぎだろ…なんで三階に教室あるん?生徒もエレベーター使わせろぅ…おかしいって。あと僕体力なさすぎ。」


 教室に着く前に息切れしてしまった。教室の前に着くと、既に教室にいる人達の話し声が聞こえてくる。扉の前に立ち、一度深呼吸をしてから教室に入った。

 ドアを開けると同時に僕に視線が集まった。さっきまで聞こえていた声はドアの開ける音と共に消え失せた。


(え、いやいやいや、怖いんだけど!?僕が教室に入るだけでこんな静かになることある?そんなにおかしいかな?)


「ねぇ。あの子が特別推薦生?」

「あぁ、確かに。見た感じそんな感じするね」

「見た目からザ・ガリ勉ってかんじするよね」


 微かにそんな会話が聞こえた気がする。確かに僕は髪は伸びきっていて、眼鏡もしている。ガリ勉メガネ陰キャって思われても仕方がない。


(いくら自分で分かっていてもさ?いざ言われるとグサッとくるわ…というかなんで特別推薦生って知ってるの?)


 視線が僕に向いているのを感じつつ顔を逸らしながら自分の席に足を運ぶ。席に着くまでこんなに遠く感じたのは初めてだ。それにめっちゃ緊張した。中学じゃこんなことなかったのに…


 少し落ち着いて、鞄を横に掛ける。その頃には僕に対する視線は消え、さっきまでのにぎやかさが戻っていた。

 なんだかなぁ?恋愛系のアニメみたいに入学当日に話しかけてくる女子がいたり、後々で親友になる男子が話しかけてきたり、そんなイベントはないのかねぇ…


(はぁ、そんなアニメみたいな話ほんとにあるのかねぇ?……このままボッチだったらどうしよ。大丈夫かな?…)






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僕と君と音 カナマエ @0874110228

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