12.元長老の失敗1(パチャラside)

「こんなはずではなかったんじゃがのう」


 思わず声に出てしまう。


 旅に出てから一ヶ月近く経過しておる。それなのに希望の芽どころか人間にすら出会わん。出会うのは魔物ばかり。


 どうしてこうなったのかのう。




 まずはガウリカ族の村から森の中を南東へ七日間進んだ。


 地図で確認するとそのままもう十日も歩けば人間の土地に辿り着く位置。森を抜けたところに草原が広がっている土地に辿り着く。


 森を抜ける直前、大規模な魔物の襲撃に遭った。


 倒しても倒しても猪のような魔物が襲ってくる。あんなことは久しぶりじゃ。どうもちょうど魔物の住処があったようじゃな。


 それでも構わんかった。ここを希望の芽が通るなら少しでも役に立てると思ったからの。


 猪を倒して積み上げを繰り返し、死体が二階建ての建物ほどまで積んだとき、ようやく魔物の攻撃は終わった。休憩がてら三日ほど待ったものの、人っ子ひとり通らん。




 諦めてわしは場所を変えることにした。そこから北へ進むこと同じく七日間。大草原も終わり、珍しく雪の残っている森林地域に辿り着く。元はヒュームの町があったんじゃろう、木造の建物が多く並んでいる場所があった。


 ここでは骸骨の魔物に囲まれる。その数は百から先は数えとらんが、かなり大量におった。これも何とか退けたところで、さすがにこのような寒帯は通らないだろうということに気付く。


 ガウリカ族は北方の寒冷地域で育っているので寒さには強い。そもそも身体の強さからして普通の人間とは段違いであることを忘れておった。




 ガウリカ族は普通の人間たちからは『三大超越民族』のひとつに数えられておる。


 人類を超えた民族という意味じゃな。大げさな言葉を使っておるが、わしらガウリカ族も同じ人間。普通の人間との混血も生むことができる、寿命も同じくらいである、毒物を吸い込んだり食べたりすれば死ぬ、などという点ではヒュームとさして変わらん。


 では超越民族の特徴としては何が違うか。これには三つが挙げられる。外見、身体能力の高さ、特殊な能力を有していることじゃ。


 他の民族のことは知らんが、ガウリカ族ならではの特徴はわかりやすい。




 まず、外見の特徴は緑色の髪。これに尽きる。わしはもうかなり白髪で緑色の部分はないんじゃが、というより髪の毛自体ほとんどないんじゃが、若者は緑色の髪が美しい。緑の髪はガウリカ族だけと言われておる。




 次に身体能力じゃが、聞く限り普通の人間であるヒュームよりほとんど高いと言われておる。調べてはいないので詳しくはわからん。

 ただ、ひとつだけ突出しているものを挙げろと言われたら「食事量の少なさ」で間違いなかろう。


 普通の人間が一食で食べる量、これでガウリカ族は約十日間過ごせる。


 一食で木の実を三つしか食べないが、毎日三食食べる者。


 一食で肉、木の実、スープ、果物などを食べるが、一度食事をしたらその後十日間は何も食べない者。


 個人の性格によって食事の方法は異なるが、どちらであっても普通の人間と比べれば遥かに少ない食事量で生きていくことが可能。他の町と交換する物資に食料品がほとんど含まれない理由は少ない食事で生きていくことが可能だからなのじゃ。


 この旅に出るとき、わしは携帯用の干し肉や木の実をそこそこ持ってきており、その量はガウリカ族として換算すると半年分以上になる。これに加えて途中で木の実や果物を見つけたり、魚や小動物を捕まえたりすれば食べ物に困ることはまずない。


 少ない荷物で旅がお手軽にできるのじゃ。




 そして特殊な能力。


 これは生まれつき大地の恵み、つまり宙源石を二つ取り込んだ状態で生まれてくること。つまり、ガウリカ族は基本的に二つの能力を持っておるということじゃ。


 ガウリカ族の場合、能力のひとつはなぜか全員共通で、もうひとつは個人によって違う。全員が同じ能力になる原因はわかっとらん。


 全員共通の能力。これこそ魔物に支配されることのないガウリカの奥義。


『敵意を向けられた相手の力を吸い取り、その相手にぶつける』


 というもの。


 例えば魔物がわしを狙って攻撃してこようとする。このとき魔物はわしに敵意、むしろ殺意を持っている状態じゃ。大体三十歩程度の距離まで近付いてきた場合、相手の力を吸い取れる。その魔物は攻撃する力どころかまともに立っていることもできぬくらい力が抜ける。抜けた力はわしに入って来る。そしてその相手に触れれば、吸い取った力を放出して攻撃できる。


 そんな防衛するための力があるのじゃ。




 もちろんいくつか弱点があるんだがの。


 三十歩以上遠くから攻撃された場合は反応できんし、こちらも敵意を持っているときは力を吸い取ることはできん。


 個人差で増減するが吸い取る力に上限もある。並外れた強さを持つ相手から吸い取っても、敵がそれ以上の余力を残していたら返り討ちに遭う可能性も否定できないということじゃな。


 さらに吸い取った力は三十歩以上離れたら百を数える間もなく消えて本人に戻ってしまう。射程距離、吸収量制限で使える力になっておる。その力も吸い取られた本人にしかダメージを与えられないというおまけつきじゃ。


 吸い取った力を保管しておくこともできんばかりか、違う相手にその力を使うことも許されぬ、防衛するためだけの力。

 ガウリカ族の力はそういうものじゃ。


 とはいえ、自衛のためなら反撃しなくても力を吸い取るだけで敵をほぼ無力化できる。全ての力を吸い取られた相手がまともに動けるようになるまではある程度かかるから、逃げるだけなら十分な時間が稼げるわけじゃのう。


 身を守るならこれ以上ないほど便利な力じゃ。



 攻めるのは苦手じゃが、魔物からの猛攻を退けることができる、ガウリカ族が代々受け継いでいる力。


 この力をわしらは『ラクサー』と呼んでいる。わしひとりでも旅ができるのは『ラクサー』のおかげなのじゃ。




 話を戻すが、寒冷地域の町から移動することにしたわしは、次に南西方面へ七日ほど進んだ。そこでも冒険者の痕跡が見つけられなかったため、今度は東へ向かって再び歩いた。

 途中で何度も魔物に襲われたが、問題なく撃退できた。寝ている間に襲われても、ラクサーが勝手に魔物の力を奪ってくれる。飛び道具や魔物の密集地帯を避けられるような最低限の寝床さえ拵えておけば、困ることはない。


 東へ足を向けて四日後。




 そこでわしは見つけてしまった。


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