7.冒険者の落胆2(レベッカside)
「ところでレベッカ、この地域の『しゅごま』だっけ? ボスはどこにいるの? もう五日もこの辺探してるけど見つからないし」
ミラが酒を飲みながら尋ねてくる。
「たしかに、もう少し北を探した方がいいかもしれませんね。今晩はここで休んで、明日は北に向かいましょう」
「ウェーイドゥー! 今日はアデリナが見張りの番だからみんな寝てていいよーー」
「じゃあ俺は寝床準備してくる」
「あたしは食料の確認するね、これ飲んでからだけど」
アデリナとオスカーがさっと動く。この一ヶ月でみんな野営はかなり板についてきた。最初のころは酷いものだった。
魔物の領土にもかかわらず一晩中酒盛りしたり、全員で寝てたり、食料を全部食べ尽くしたり。
私の賢明な指導でみんなの動きを少しずつ改善していった。
見張り、料理、備品の確認は当番制。食事は五日分を常に残しておく。武器の手入れを怠らないなど。ここまでみんなを成長させた自分を褒めてあげたい。
だが、戦闘は酷い。みんな自由すぎる。
連携はまったくしないからみんな好き勝手に動く。
アデリナは初めて見る魔物が出るとはしゃぐ。ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。その後すぐにその魔物について語りだす。初見なのに、だ。どうも自分の第一印象で魔物を判断して私たちに語るのが最近のマイブームらしい。
それだけならいいが、第一印象がこれまた酷い。本当に目がついてるのか疑いたくなるレベルだ。
人型の骸骨で手に剣を持った魔物が出たときに「気を付けてーー、あいつの武器は牙よーー」って叫んだときはどうしようかと思った。
牙ねえよ。剣見えねえのかよ。
ミラはそんなアデリナを見てるのがマイブーム。だから戦いの序盤はホント何もしない。ずっとアデリナの様子を観察している。以前と同じ魔物が出てきた場合は明らかに落ち込む姿を見せる。そんなにアデリナの魔物トークが聞きたいか?
そしてアデリナが語りだすと大笑いする。骸骨の持っている剣でアデリナがお腹を貫かれても笑い転げているほどだ。
一度は笑い過ぎて近くの崖から転落しやがった。すぐに戻ってきたけど戦闘も忘れてひたすら説教をしてやったのはいい思い出だ。
ちなみに説教中私も骸骨に腕を斬られた。
オスカーは戦闘に参加すらしていない。というか「重い」って理由で村から剣すら持ってきていない。お前剣士だよな?
戦闘中ちゃんと近くにはいるけれど、ほぼ確実に他のことをしている。
「いざとなったら手伝う」って言ってたが、いつ「いざ」となるのか。
この間領土のボスと戦ったときもあの雲は斧に似てるだの、あの雲はミラのおっぱいそっくりだの、おっぱいの話……じゃない、雲の話ばかりしていた。
さすがに手伝ってもらおうとオスカーに説教をしたら、渋々私の靴を磨き始めた。
そうじゃねんだわ。
ついでに私はボスに背中を斬られた。
「戦闘中に説教をするレベッカもなかなか面白いっしょ」
とミラはニヤニヤしているが、誰のせいで説教しなければならないのか一遍よく考えてほしいものだ。これがリーダーの苦悩というものなのだろう。受け入れるしかない。ありがたいことに全員気付いたときには剣が得意だったから、ひとりか二人がしっかり戦ってくれれば
戦闘はそんなわけで悲惨な状態ではあるものの、どうにか勝利してきたのは幸いだ。
現在は自分たちの村に加え、守護魔を二体倒して合計三ヶ所の領土を取り戻せてもいる。これは冒険者として順調なのだろうか。基準がわからない。そのうち他の冒険者と出会うこともあるだろうから聞いてみたい。
だが、戦闘中における意識の統一は必要だ。きっとこれからは今まで以上に厳しい戦いが待っているはずだから。
もしかしたら今のところあてもなく旅をしているのが良くないのかもしれない。何か目標を設定して、達成へ向かって進んでいく方が私たちのパーティーに合っている気がする。
目的もなく旅をし、魔物を倒し、領土を取り戻しているだけだからみんな連携に頓着していない可能性は高い。もし目標を決めたらみんなで協力して行動するかもしれない。よし、目標を決めよう。どんな目標がいいかな?
我ながらいいアイデアだ。明日、みんなに相談してみよう。
私はオスカーが用意してくれた寝床に倒れ込む。なんだかんだ言ってオスカーは旅の荷物を大部分持ってくれている。「男は女の荷物を持つもんだ、ってフェイルーさんが言ってたから」と話してくれた。重いものを運びたがらなかったのに、妙なところで律儀なのがオスカーだ。
ついでに自分の剣も持ってきてくれたらよかったんだけど。
そんなことを考えながら仲間を見回す。
少し離れたところにはそんなオスカーが、私の隣ではミラとアデリナが静かな寝息を立てている。
いやアデリナ、お前は見張り番だろ。
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