6.冒険者の落胆1(レベッカside)


「見て見てーー! レベッカーー、この魔物はねーー、おっきいしこんな外見だけどすっごいやさし……ぐぶっ!」


「あははは! アデリナってば頭から食べられてる。アホでしょ!」


「ミラ、笑ってないでアデリナを助けてください。ホラ、後ろからもう一匹来ましたわ。オスカー!」


「レベッカ、俺を見ればわかるよな。今めちゃくちゃ大事なところなんだ」


「わかりませんよ、蜂の巣を突っついているだけじゃないですか。魔物ですよ」


「魔物よりも蜂の方が興味、あ! うわあああああああ!」


「なんで蜂に襲われてるんですか! オスカー、大体あなたはいつも自分の興味ばっかり優先してますよね。普段ならまだ許せますけど魔物を戦うときはちょっと考えた方がいいのではないでしょうか。チームで動く冒険者パーティーとして、魔物との戦闘中にそういう単独行動をするのはどうかと思います。オスカーにはチームの一員という自覚があるのですか? そもそもリーダーである私が毎回どれだけ言っても聞いてくれな……げはっ!」


「あははははははは! レベッカも食べられたんだけど。説教長すぎでしょ! んもーー、しょうがないなあ」



ーーーーーーーーー



「結局みんな無傷でよかったねーー」


「無傷じゃないですわ。私もアデリナも巨大トカゲにがっつり食べられたじゃないですか! ほら、服に穴が」


「俺も無傷じゃない、見てくれこの戦いの傷跡」


「オスカーは戦ってません。蜂に刺されただけでただの自業自得です」


「あたしが二匹とも倒したおかげっしょ」


「笑ってないで対応すればもっと早く倒せたはずですわ」



 私はレベッカ。一応この冒険者パーティーのリーダーだ。まだデビューして一ヶ月も経っていない新人冒険者。


 アデリナ。


 ミラ。


 オスカー。


 私の他、この三人の仲間と冒険をしている。冒険者になったきっかけは、私たちの暮らしていた村が魔物の侵攻を受けたことによるものだ。


 村の住民は私たち以外全滅……せずにさっさと逃げてしまっていたようなので人的被害はなかったみたいだが、土地はすべて魔物のものになってしまった。


 当時、私たち四人は近くの川へ釣りに出かけたが全く釣れなかった。それで丸一日歩き、少し離れた別の川で釣りをしていた。そのため、近くで釣りをしていると思って呼びに来てくれたであろう村の人には出会わなかったのだ。


 戻ってきたら村の人たちはおらず、魔物が闊歩するようになっていた。




 とりあえず私たちは村にいた魔物たちを駆逐し、領地を取り戻した。それから数日待ってみたが、みんなが帰ってくる気配はない。きっと別の地域に定住したのだろうと結論を出した。村のみんなが無事に魔物から逃げ切れたことを良しとすべきだ。


 ここで私たちが村に留まる理由はなくなったことに気づく。逃げた村人たちを追うのもありだったが、どこへ行ったかもわからないし、他に住民がいるところに入り込んだとしたら、私たちが着いても歓迎はされないだろう。私たちは元々余所者だし、彼らにとっては余計な食い扶持が増えるだけだ。


 


 だから私はやりたかったことを実行に移すことにした。




 冒険者になるのだ。



 村にいたときはみんな私たちに親切にしてくれて、文字の読み書きや世の中の状況なんかも教えてもらっていた。



 この大陸は半分以上が魔物に支配されていること。


 人間は東側にどんどん追い詰められ、滅亡しかかっていること。


 魔物の領土には魔粒子っていう身体に悪いものが漂っていること。


 領土ごとには魔粒子を出す『守護魔』という魔物のボスがいること。


 守護魔を倒せばその土地から魔粒子が消え、領土を取り戻せるということ。


 世界には魔王というものすごく強い魔物が三体もいること。


 近々、世界で一番大きい教会と世界で一番大きい国が手を組んで、魔王を倒す部隊を派遣する計画があるということ。


 見渡す限り砂の荒野、ウルド山の数倍高い山。雪という真っ白な氷が降る地域。


 そんな話を私はワクワクしながら聞いていた。世界で一番の教会と国が作った部隊ってどのくらい強いんだろう。もしかしたら私たちと同じ時期に出発しているかもしれない。見渡す限り砂の世界とか雪とか見てみたい。知らない世界を旅してみたい。



 アデリナたちはあんまり聞いてなかったみたいだけど、私は世の中を見て回りたいと思った。




 その場にいた三人に宣言する。



「私は冒険者になって世界中を旅しようと思います。そして世界中の珍しいものを見たり、魔物と戦って今回みたいに領土を取り戻したりしてみたいのです。そもそも私たちが知っているのはこの村と隣町と近くの川や山くらいです。魔物だって私たちと同じくらいの大きさしか見たことない……」


「あたしも! やっぱ行くしかないっしょ」


 話を遮ってミラが答える。もう! 私が話してるのに!

 ミラは褐色の肌に長く赤い髪、豊かな胸を半分くらい出したグレーのワンショルダーの上着に黒いショートパンツ。

 ザ・健康というイメージで、剣を扱うのが得意だ。ミラはいつも笑っているから一緒なら明るい旅になるかもしれない。




「アデリナもついてくーー! 旅行でしょーー、楽しそーー」


 同調したのはアデリナ。ミラより薄いピンクのショートヘアにピンクと黒のワンピース、たぶん同い年のはずなのに二回り背が低く、体形も未発達な少女だ。語尾を伸ばして喋り、まあアホである。

 だが剣の扱いは一級品。能天気な性格だし、楽しいパーティーになるだろう。




「じゃあ俺も行く」


 泥団子を作りながらオスカーも便乗した。黒い髪、黒い服、黒い靴。黒で統一された出で立ちだ。性格ははっきり言ってよくわからない。基本的には自分の好きなことにしか興味を示さないけど、急に協力的になることもある。ひとりだけ男だけど、私たちにはあまり関心を持たず仲のいい友だち感覚でいつも一緒にいる。

 とはいえ、剣を扱わせたら相当なものだ。意味不明な言動でパーティーを笑わせてくれることは想像に難くない。





 ちなみに私は濃いピンクの長い髪でミラほどではないがスタイルもいい。はずだ。胸の大きさではなく形なら自信がある。服装も正直男ウケを狙っていないと言ったら嘘になるが動きやすくちょっとセクシーさを出すようにしているものだ。さらに知的で思慮深く常に相手に配慮して敬語で喋る才女感。

 もちろん魔物との戦いだって得意で、剣を使わせたら騎士も顔負けだ。騎士とか見たことないけど。リーダーシップも申し分なく、みんなを導くだけでなく、小粋なジョークで和ませることだってできる。


 しかし改めてパーティー見るとみんな剣士だしみんなにぎやか担当なのか。バランスも何もあったもんじゃなかった。




「いきなりどうしちゃったのレベッカーー? 自慢話してるしーー」


 しまった。声に出ていた。


「冒険より病院行った方がいいっしょ!」


 うるさい!




 とにかく! こうして私たちの冒険は始まったのだった。


 村の人たちが帰ってきたときのために書き置きを残して。


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