第388話
クリファレス北部戦線。
ここではクリファレスとヴェルシュ、互いに大勢の兵士達のぶつかり合いが、何年もの間ずっと行われていた。
これまではクリファレス兵が陣形を組み、ヴェルシュ兵がその陣地を突破しようと攻め続け、これまでは互いに拮抗していたが、最近では明らかにクリファレス軍は劣勢に立たされている。
その原因となっているのが、新たにヴェルシュ軍に配備された巨大ゴーレムによる投石攻撃により、クリファレス軍は防御陣形事、粉砕されている事だ。
その報告を受けた勇者は、北部戦線の指揮官だった兵士を更迭し、奪われた陣地を奪還する為、勇者直属部隊の『ブレイブナイツ』を派兵する事を決定した。
「投石来るぞー! 退避ー!!」
前線にいた兵士の一人が声を張り上げ、その場にいた兵士達が騒ぎながら陣地を離れていく。
それを見ながら、俺は一歩前に出た。
「おいアンタ! さっさと逃げねぇとペシャンコになっちまうぞ!」
そんな様子を見ていたのだろう兵士の一人が、俺にそんな事を言ってるが、別にあんなの回避する必要も無い。
地面に手を当てて、俺の中にあるマナを地面に流すと、周りにある土がどんどん俺の周りに集まり、地面が瞬時に隆起して巨大な手を形成。
そして、拳を固めて落下して来る巨石を迎え撃った。
凄まじい衝突音を響かせ、土の拳が砕けたが、落下して来た巨石も砕けた。
その様子を他の兵士達が唖然とした様子で見ているが、ボーっとしてないでさっさと獣共を殺して来て欲しいんだが?
まぁ別にやらなくても、俺達が倒しちまうけどよ。
そしていたら、再び巨石が飛んで来たが、コレも周囲の土を集めて拳を作って迎撃する。
あーここで防衛を命令されたけどやっぱり面倒、隊長達さっさと向こう壊滅させてくれねぇかなぁ……
投石が迎撃された様子を見ていたヴェルシュ軍は、新しい巨石を巨大ゴーレムに掴ませていた。
「クソッ! また撃ち落とされたぞ!」
「あんな奴がいるなんて聞いてないぞ! 次弾急げ!」
これまで通用していた戦略が通用しなくなり、ヴェルシュ軍は一時大騒ぎになったが、純粋な実力では獣人で構成されているヴェルシュ軍の方が上なので、いざとなればクリファレス兵など蹴散らせば良い、そう考えていた。
そして、ゴーレムがクリファレス軍に向けて再び巨石を放り投げたが、やはり、巨大な手によって巨石が迎撃されてしまった。
「……あそこは駄目だな、狙いを変更! 敵左翼から右翼、準備しろ!」
指揮官らしき獣人がそう指示を出してるが、今更遅いんだよなぁ。
部下の能力で、俺達は此処に来るまで姿を隠して近付いている。
なんでも、俺達の周囲の空間を歪めて、俺達の後ろの映像を見せているらしいが、詳しい原理は分からねぇ。
だが、原理が分からなかろうが、こうして密かに接近したりする事には極めて有用。
そして、ここまで近付けりゃ、後は殲滅するだけだ。
俺を含む隊員が、敵陣地のど真ん中に一気に飛び出す。
「なっ、コイツ等何処から!?」
俺達の姿を見た獣共が慌てて武器を手に取るが、遅い遅い。
構えようとした武器ごとぶった切ると、部下達が一斉に散らばって獣狩りを始める。
さて、俺はさっさとゴーレムを潰すか。
丁度良く、材料には事欠かねぇし。
「クソ弱ぇなぁ!」
「ヒハハハハハァッ! 潰す潰す潰す潰す!」
隊員達が思い思いに獣共を狩っているのを見ながら、俺はゆっくりと歩いてゴーレムに近付いていく。
そのゴーレムの周りには、残りの獣共が集まっているが、そいつら以外にもなんか縛られた奴等がいる。
まさか……
「そこで止まれ! コイツ等がどうなっても良いのか!?」
獣の一匹がそう言って、縛られた奴の首に剣を突き付けている。
縛られているのはどうやら、俺等が来るまでの戦闘で捕虜にされたマヌケ共のようだ。
何という事だ……
「他の奴等も戦闘を停止し、大人しく」
「あぁ何という事だ! まさか全員殺されているとは! お前達の仇は我々が取ってやるからな!」
そう言って、俺は腰の剣を引き抜いて一閃すると、先頭に立っている獣の上半身とマヌケ共の首がボトボトと落ちた。
更にそのまま剣を振るうと、周囲にいた獣共とマヌケも同じようにバラバラになっていく。
あぁ、何と言う悲劇だ!
『貴様ァッ! 一体何をして』
巨大ゴーレムに乗ってる獣が、俺のやっている事に対して何か言っているが、獣共に捕まる様なマヌケなんて、助けたとしてもただ邪魔になるだけ。
それなら、此処で名誉の死を遂げたって事にしてやった方が、マヌケの為にもなる。
まぁ、俺達はマヌケ共を救助するなんて、出撃前に一言も言ってないしな。
ゴーレムが俺の方に向けて拳を振り上げて迫って来るが、向こうから俺の方に近付いてくれるなんて親切だな。
『死ねぇぇぇっ!』
「お前がなぁ!」
振り下ろされる拳に対して俺が剣を垂直に振り抜くと、まるでバターをバターナイフで切った様にゴーレムの腕が半分に切断され、ゴーレムから外れた破片が獣共とマヌケ共の上に降り注ぎ、破片に圧し潰されていく。
そんな事は気にもせず、俺が剣を振るうとゴーレムの巨大な図体が切り刻まれて、破片がどんどん降り注ぐ。
『馬鹿な! コレは水……いや血か!?』
ゴーレムの頭に飛沫が当たったのか、中の奴が俺のやっている事にやっと気が付いたらしい。
まぁ別に血じゃなくて水分を操ってるだけだが、此処は戦場で、敵味方関係無く長く殺し合ってるから、操る水分には事欠かないんだよ。
だが、ゴーレムがソレに気が付いた所で、ゴーレムは攻撃しても腕ごと斬り飛ばされるから、何か出来る訳でも無くゴーレムは終わりだ。
そして、両腕を失ったゴーレムの片足を斬り飛ばして転ばせる。
まぁその時にマヌケが何人か下敷きになったが、我が国の勝利の為の尊い犠牲だ。
最後に突きの構えをして、一気にゴーレムの頭を突き刺し、ゴーレムの中に送り込んだ血を爆発させるように炸裂させて、中にいる獣を一緒に処理した。
動かなくなったゴーレムを確認した後、剣を振ってこびり付いていた血を吹き飛ばしてから、鞘に戻して自陣に戻っていく。
他の場所では、時折爆発が起きているから、まだ隊員達が暴れているのだろう。
この調子なら、この戦場での戦いは終了したも同然。
俺が自陣に戻ってしばらくして、隊員達も殲滅を終えたのか半分は自陣に戻って来たが、戻っていない奴等は恐らくまだ敵陣で遊んでるな。
「次の戦場に行く。 さっさと全員呼び戻せ」
俺がそう命じると、数名の部下達が戻っていない奴等を呼び戻す為に駆けて行った。
それを溜息を吐きながら眺めていると、兵の一人がやって来て、獣共に捕まっていた筈の仲間はどうなったのか聞いて来た。
元々指揮官が更迭されてるから、コイツが臨時の指揮官を務めていたのか?
しかし、馬鹿正直に『俺達が一緒に巻き込んだ』なんて言う訳も無い。
「残念だが、俺等が行った時には、捕虜は既に……」
「クソッ! ヴェルシュの奴等め!」
俺がそう言うと、臨時指揮官の兵士が悔しそうに言うが、原因はお前等が弱いからだぞ?
そんな簡単な事も分からないから、こんな所でグダグダとやって、呆れた陛下が俺達を派遣したって事にも気が付かねぇんだ。
まぁ言った所で理解も出来ねぇだろうから、部下達が戻ったらさっさと次の戦場に向かうか。
防衛を命じてあった副隊長が、『疲れた』なんて泣き言を言っていたが、別に馬車で移動するんだから、そこで思う存分寝れるだろう?
「あんな揺れまくる馬車で寝れるのは、隊長くらいですよ!」
俺の言葉に、副隊長が苦情を言ってるが、別に慣れれば寝れるだろ?
何事にも慣れだ。
そうして、戻った部下達と一緒に、俺達は次の戦場へと出発した。
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