第387話
まず、あの小僧との話をした後、どういう事か聞いてみたのじゃが、
原因としては、この異世界に限らず、魂と言うのは基本的にその世界だけで回帰しており、死んでも再び同じ世界に転生する。
じゃが、稀にその魂が別世界に引っ張られ、別の世界へと渡ってしまう事はあるのじゃが、その際には記憶や経験と言ったモノは失われ、その世界のルールを基準とした状態へと変更されるのじゃ。
例外として、『転生』ではなく『転移』した場合、大体は元の世界の基準を保った状態になるんじゃが、それでも限度はある。
そして、あの小僧じゃが、『転生』なのにこの異世界の基準ではないし、地球には『レベル』という仕組みは存在せぬ。
これは一体どういう事なんじゃろう?
「今、あの小僧の情報を調べさせてるけど、いくつか推測出来る事はあるわね」
シャナリー殿がそう言って、目の前に置かれておる籠から煎餅の一枚を手に取って齧っておる。
しかし、シャナリー殿達でも把握出来ておらんのか。
「まず、あの小僧がいた『地球』は、貴方達のいた地球とは別の地球で、所謂、並行世界の地球ってコト」
シャナリー殿の推測によれば、ワシ等がいた世界の地球は、『マナが存在せぬ世界』として設計されておるが、この世界を元にした似たような世界はいくつも存在する。
そんな世界の一つで、ワシ等のいる異世界に似た世界をテーマにしたラノベがあり、あの小僧はそう言った世界から来たのではないのか?と言う推測なんじゃが、それでも問題は残っておる。
「『転移』であればそれで説明はつくじゃろうが、あの小僧の話では『転生』じゃからなぁ……」
「そこなのよねぇ……」
ワシの言葉に、パリパリと煎餅を齧りながらシャナリー殿が呟く。
そう、この推測は別の世界からの『転移』であれば、説明が付くんじゃが、『転生』の場合では、記憶や経験は失われてしまうのじゃから当て嵌まらない。
そうしておったら、シャナリー殿のおる部屋の扉が開いて、和服姿の女性が紙束を持って入って来て、その紙束をシャナリー殿に渡したのじゃ。
その紙をペラペラと捲りながら、シャナリー殿は『うーん』と唸っておるが、そこに書かれておるのは、あの小僧の事かのう?
「さっき調べる様に言っておいたのが届いたんだけど、やっぱり可笑しい所は無いのよねぇ……」
その書類をワシが見る事は無理じゃろうけど、シャナリー殿達から見て、可笑しい所はないらしい。
聞いても問題が無い所だけを聞いてみたのじゃが、出身地や両親にも不可思議な点は無く、小僧自身が急に『転生者』として覚醒した感じで、住んでおった村も不可思議な事は無いという。
そして、まるで未来を知っておるかのように行動し、日を追うごとに強くなっていくのを見て、村から稀代の冒険者になるのではと期待されて出たらしいのじゃ。
確かに、原作を知っておれば、大体何が起きるかは分かるじゃろうし、レベルを持っておるのじゃから、戦えば戦うだけ強くなるじゃろう。
本人の気質も上昇志向が強いから、魔獣がおれば積極的に狩るのも相まって、僻地の村では『救世主』と思われておるのも無理はない。
「これ以上は考えても答えは出んじゃろうし、諦めるしかないじゃろう。 それで、シャナリー殿は小僧が言っておった様に、この世界のリセットを考えておるのか?」
ワシが一番知りたいのはコレじゃ。
もし、何かしらの理由があって、シャナリー殿が世界のリセットを決定した場合、それをワシ等に止める事は出来んじゃろう。
これは至極当然の事で、そもそも、人間と神では土台が違う上に、ワシ等が使う力を作ったのがシャナリー殿なんじゃから、その力でシャナリー殿を倒す、なんて事は出来ぬ。
簡単に言えば、『お主を倒したいから、その協力をしてくれ』等と本人に頼む様なモノじゃ。
勿論、他の世界の神の力を使えば、いくらシャナリー殿相手でも戦えるじゃろうが、基本的に他の世界の神が、別の世界の神へ攻撃する手助けをする事はせぬ。
そんな事が罷り通ってしまえば、世界を長く管理しておる古き神々の独壇場になってしまうじゃろう。
それに、人間と神ではその力量には差があり過ぎて、抵抗するだけ無駄じゃ。
神として幼いシャナリー殿でも、ワシや兄上が持ち得る能力を全て使用しても、一瞬抵抗出来るだけで、あっさりと圧し切られてしまうじゃろう。
いくらワシの能力がチートであっても、神からすれば対処出来ぬ訳でも無いのじゃ。
それこそ、周囲への被害を完全に無視し、持ち得る魔法を使いまくったとしても、恐らくシャナリー殿には勝てぬ。
恐らく、ワシが使える中でも最大の威力を持つ『グラビトン・レールガン』で、手傷を負わせる事は出来るじゃろうが、その後の反撃であっさり圧し切られる。
寧ろ、『グラビトン・レールガン』を撃つ間も無く、シャナリー殿の魔法を防ぐので精一杯になると思っておる。
そして、ワシの質問に対しての答えじゃが、『有り得ないわね』というものじゃった。
「世界のリセットっていうのはね、その世界を管理している神や、その眷属全員が了承していなければ実行出来ず、言うほど簡単な事じゃないし、世界をリセットするって事は、その世界を管理している神が、『自分には世界を管理する能力が無い』って、他の神に対して公言する事に近いの。 それこそ、この世界を管理していた前の神みたいに、自分勝手な事をやってたみたいにね」
「確か、レベル上限を設けなかったせいで、勇者として召喚された者が強くなり過ぎて、前の神ですら身の危険を感じてリセットしようとしたら、いつの間にか現人神になってしもうて、リセットが出来ぬ様になったっていうアレじゃの」
ワシの言葉に、シャナリー殿が頷いておる。
その結果、リセットが出来ぬ様になってしまい、前の神は最早対処出来ぬとして、無責任にも他の世界に放り出してしもうたっていうアレじゃな。
バレぬ様にしていたつもりなんじゃろうが、放り出された勇者は他の世界で大暴れしていくつもの世界を崩壊させ、結局、
確かに、そう考えると世界のリセットと言うのは、神にとっては本当に最終手段と言うことなんじゃな。
「それに考えてもみなさいよ? 何万、何億年も掛けて苦労して作り上げたのに、それを不具合が少し出ただけであっさりと最初からやり直そう、なんて普通は出来ないわよ」
『そもそも、そうならない様に管理するものだし』とシャナリー殿は言うが、それが出来んかった神と言うのは、それなりにおるんじゃなかろうか?
まぁ敢えて聞かぬが、神であっても意志や欲は持っておるし、完璧では無いのじゃから、やらかしておる神は確実におるじゃろう。
そして、あの小僧に関しては『謎な部分が多いから調査を続けるが、其方でも注意しつつ臨機応変に対応する』という事となったのじゃが、もしも、世界に害する可能性がある場合、容赦せずにカタを付けろ、と言われたのじゃ。
つまり、あの小僧は危険な存在となる、とワシが判断した場合、シャナリー殿の調査を待たず、躊躇わずに実力で排除せよという事じゃ。
勿論、その判断が間違いであったとしても、シャナリー殿は問題にはせぬと言っておるが、ワシとしてはそう言った状況になったら、ワシの能力で『蘇生薬』を作って使えば良いのでは? と思ったんじゃが、シャナリー殿からはキツく止められ、『死者蘇生は絶対にしない』と約束したのじゃ。
何でも、『死者を生き返させる』と言うのは、神であってもやってはならぬ事と、祖父神殿から言われておるらしく、それを破れば厳罰所か、祖父神殿の手により、直接消滅されるらしい。
テレビのドラマとかで、心停止状態から蘇生する事はあるが、アレはまだ完全には死んではおらず、身体には魂が残っており、適切に処置すれば助かるのじゃ。
逆に、身体から魂が完全に抜け落ちてしまっておったら、いくら心臓が鼓動を打っておっても駄目らしい。
まぁ、今後もワシは『蘇生薬』なんて物を作るつもりは無いがのう。
最後に、王都を襲うというスタンピードに関してじゃが、コレはシャナリー殿にも分からないと言われてしもうた。
これは、もう腹を括って試運転がてら、王都の様子を見に行くべきかのう?
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