第386話
「まぁ丁度良いや、アンタが此処に居るなら『天翔ける船』持ってるだろ? それをくれよ!」
少年がそんな事を言ったのだが、それを聞いてワシは持っておる杖で床を軽く突く。
瞬間、この部屋を包む様に、外部から内部の音を聞こえなくする結界が構築されたのじゃが、それに気が付いたのは美樹殿と小田殿だけで、この少年はそれにすら気が付いておらず、『な、なんだよ!?』と驚いておっただけじゃ。
「さて、その『あまかけるふね』?と言うのはなんなのじゃ?」
「何なのって、アンタが作った空を自由に飛べる魔導具だよ!」
「つまり、飛行機ってコトですか? 魔女様、そんなの作ったんです?」
「…………小僧、その話、何処で知ったんじゃ?」
「どこって、『原作』だと最終決戦前にミキ姉ちゃんが、『アンタが作ってた』って貰ってたから、持ってるんじゃないかって……」
ワシの言葉のトーンが低くなり、部屋の空気が若干下がった様に感じる中、目の前の小僧がそんな事を言っておる。
しかし、その原作とやらは一体何なのじゃ?
随分とワシ等の事を知っておる様じゃが……
「確かに、『空を飛ぶ魔道具』は作りはしておるぞ? じゃが、その事は誰にも言っておらんし、現状では試作機が完成してまだ飛ばしてもおらん。 それなのに小僧はまるで完成しておるかのように言うとは、一体どういう事じゃ?」
「そう言えば、君はずっと『原作だと』って言ってるけど、それはどういう意味なんだい?」
小田殿に聞かれた小僧が言うには、この世界は小僧が読んでおった『剣と魔法、時々無双』と言うタイトルのラノベで、主人公はバーンガイアの僻地で産まれ、出会った仲間と一緒に旅をしながら世界を救って行く、という内容の小説らしいのじゃ。
そして、美樹殿はその中でも重要人物で、主人公一行には付いては来ぬが、色々なアイテムを主人公達に渡して、旅に貢献してくれるのじゃが、その大部分が師匠であるワシが発案しておったり、提供しておった物らしい。
その中でも破格の性能をしておるのが、『天翔ける船』であり、物語の終盤、美樹殿がワシの自宅地下で発見して主人公に渡し、主人公達はラストダンジョンへと向かう事が出来る様になる。
しかし、この話には気になる事がある。
美樹殿がアイテムを渡すのは分かるんじゃが、ワシが直接渡した方が早いのではなかろうか?
そう言うと、『だって、アンタはラノベ開始時点で死んでるから』って言われてしもうた。
何でも、物語が開始した時点でバーンガイアは、王都を襲ったスタンピードが原因で崩壊しており、その時の戦いで王は護衛の騎士達に守られて脱出出来たが、ワシはスタンピードをどうにかする為に大魔術を使い、王都崩壊を引き換えに死亡したらしく、美樹殿がワシの残したアイテムを多数引き継いで、その中にあったワシの手帳から、ワシの自宅がルーデンス領にある僻地の山にある事を知って、時間を掛けて少しずつ結界を解除していき、そこで手に入れた数多くの魔道具や書物から、美樹殿が色々便利な魔道具を作るという。
そして物語終盤に、遂に地下室を開放して『天翔ける船』の完成品を手に入れるらしいのじゃ。
で、開始時点でワシは死んでおって話に出て来んのに、何でこの小僧がワシの事を知っておった理由じゃが、美樹殿の回想時に挿絵でワシの姿が描かれており、その見た目と王都ごと吹っ飛ばした実力で、インターネットの考察サイトとかで『誰が最強か?』という話題の時に必ず出て来るから覚えておったらしい。
しかし、ワシは王都に住むつもりもなければ、この地から出て行く気も無い。
つまり、現状では『原作』とかなり乖離しておる状況になっておるんじゃが、その原作知識は何処まで有効なんじゃろうか?
「今は偽勇者が隣のクリ国を圧政してるから、タイミングとしてはもうすぐ物語が始まるだろうし、多分、そろそろなんじゃないかな?」
「そろそろとは?」
「スタンピードで王都がやられるの」
小僧が言うには、そのスタンピードは王都近くにある『
その『迷宮主』は地球からの転移者の一人で、人族による亜人種への奴隷制度を止めさせる為に、比較的弱いバーンガイアを最初に落とし、そこを足掛かりにして、奴隷制度で亜人種を迫害しておるクリファレス王国、亜人種同士でも差別が行われておるヴェルシュ帝国もターゲットにして、やがては異世界全てを支配しようと画策しておるらしい。
つまり、『迷宮主』が物語のラスボスかと思ったら、小僧曰く、『迷宮主』はラスボスではなくただのかませ犬で、実際のラスボスは別におるらしいのじゃが、小僧はそれを知る前に異世界に来てしまった為、正確には分からぬと言っておる。
一応、それでも聞いてみると、インターネットの考察サイトで、この異世界を管理しておる『神』が、世界のリセットを行おうと画策し、それの為に『迷宮主』を利用しているんじゃないか、という意見が最終巻の前にあったという。
うむ、それは有り得ん事じゃな。
ワシはこの異世界を管理しておる女神である『シャナリー殿』を知っておるし、かの女神曰く、『神が地上に干渉する事は禁止されておる』と言っておった。
コレはシャナリー殿に直接聞いた方が良い案件じゃな。
しかし、そう考えると、この小僧は本当に一体何者なんじゃ?
こういう時は、鑑定して少しでも情報を手に入れるべきじゃな。
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名前:ケン
ς※Θ:ΞΨ
種族:人間
状態:興奮気味
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なんじゃコレ。
名前と種族は分かるんじゃが、『職業』と見た事も無い項目が増えて、完全に文字化けしておる。
恐らく、この増えた項目がレベルなんじゃろうが、数値も文字化けしており読む事が出来んが、コレはもう異常じゃな。
小僧の『職業』を美樹殿が事前に聞いらしいのじゃが、 小僧は『将来は本物の勇者になるんだ!』と答えておったらしいから、現在の職業は恐らく剣士とかの下級職なのじゃろう。
取り敢えず、秘密裏に作っておった『空飛ぶ船』は、『試作品で危険性も分からず危険じゃから』という理由で渡すのは無理と説明したんじゃが、『それならバイクとか作ってくれよ!』なんて要求してきおった。
まぁ飛行機と比べれば、バイクはそこまで難しいという訳では無いが、無償で作る訳無いじゃろ。
なので、『作って欲しければ、材料は自分で用意せい』と言ったら、小僧は悔しそうにしておったが、そこ等辺はワシの知った事ではない。
そして、小僧の奴は美樹殿に助けを求める様な視線を向けたんじゃが、美樹殿もそれは当然と言った感じで、受け流しておる。
小田殿は言うまでも無く完全にスルー。
結局、小僧はそのまま帰ったんじゃが、美樹殿曰く、数日もすればまた来るだろうとの事。
諦めの悪い小僧じゃな。
美樹殿達に別れを告げて、次にワシが向かったのは神社。
流石に今回の事は、シャナリー殿に直接聞かねばならん。
もしも、小僧が言っておった事が本当じゃったら、それこそ一大事じゃ。
そうして、神社におる瑠璃殿に話を通し、御神体のある中央本堂に通されたのじゃが、中に入ったら内側から鍵を閉められた。
外から誰かが聞き耳を立てておるかもしれんと考え、内容的に聞かれたら非常に拙い内容であるから、ワシも結界を展開したのじゃ。
そして、準備が出来たのを察したのか、御神体の巨大水晶の中にシャナリー殿の姿が浮かんだのじゃ。
さて、早速話し合いの開始じゃな。
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