第384話
すっかり忘れていた牛乳を前に腕組みをする。
そんなに熱い日じゃなかったから、悪くはなっていないだろうが、半日放置しちまったからなぁ……
取り敢えず、大丈夫だとは思うが鑑定しておいた方が良いか。
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名前:牛乳
品質:普通
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うん、品質は悪くなってないから大丈夫だな。
でも、一応少し味を確認してから使うか。
小匙で表面を掬って飲んでみると、あれ、なんか濃く感じるぞ?
なんか、いつも飲んでる牛乳より濃い?
試しに、鞄から別の牛乳缶を取り出して飲んでみるが、やっぱり、放置した方が濃く感じる。
この違いは不思議だけど、後でちっこいのに聞いてみるか。
ちっこいのに聞いてみたら、『コレは生クリームじゃな』と教えてくれたが、なんだそれ?
「生クリームと言うのは、牛乳の中にある脂肪分が集まった物じゃ。 普通は振り回して遠心力で分かれさせるんじゃが、放置しても出来た筈じゃ」
ほー、これが生クリームか。
普通の牛乳より味が濃く感じるから、シチューとかに使えるのか?
「いや、生クリームはどっちかと言うとお菓子とか、デザートとかの方かのう」
「御菓子です!?」
「美味しそうなのです!」
「早く作って欲しいのです!」
ちっこいののお菓子という言葉に、チビ共が反応して部屋の中を飛び回っている。
いや、作るのは別に良いぞ?
だが、その肝心の作り方が分からねぇぞ。
俺が読んだレシピ本のどれにも、覚えている限り『生クリーム』なんて食材が出てきた覚えは無い。
そうしたら、ちっこいのが教えてくれたんだが……
「これが『ホイップクリーム』じゃ」
ボウルに生クリームと砂糖を入れて、泡だて器で只管掻き混ぜて出来上がったのは白いクリーム。
滅茶苦茶作るの大変だな!
試しに匙で掬って舐めてみるが、甘くて舌触りも良いから、確かにコレは料理と言うより、お菓子とかの方が向いてるな。
そして、チビ共がクリームを舐めようと集ろうとしてるが、コレは流石にそのまま舐めさせる訳にはいかねぇ。
焼いたクッキーに少しずつクリームを塗って皿に置いたが、置いた傍からチビ共が掻っ攫っていく。
あー、ちゃんと並べ並べ、1個ずつだからな。
しかし、ちょっと塗りにくいな……
「それなら、腸詰の絞り袋を使えば良かろう?」
成程。
確かにそれはやりやすそうだな。
だが、そうなると新品を用意しなきゃならねぇから、明日買ってくるか。
流石に、腸詰で使ってる奴だと臭いが付いちまうからな。
しかし、このクリームかなり柔らかいから、あんまり動かしたりするのは向かないな。
提供前に塗る方が良いか。
「まぁそこら辺はベヤヤの好きにすれば良いと思うが、他の者は作るの大変じゃろうなぁ」
ちっこいのの言う通り、生クリームを只管混ぜる作業ってのは、結構重労働で腕にくる。
しかし、俺は平気だったが他の連中が作るとなると、コレだけで力尽きる可能性はあるな。
なんか良い方法無いか?
そう聞いたら、ちっこいのが腕を組んで『うーむ』と唸っている。
「まぁ言うて攪拌するだけじゃから、泡だて器を自動で回転させる仕組みがあれば、楽にはなるじゃろうな」
自動化か。
そりゃ確かに出来れば相当楽になるが、そんな事出来んのか?
「回転速度の調整とか、強弱の仕組みを考えなければならんが、作れん事はないじゃろ」
確かにそりゃそうだが、それが難しいんじゃねぇのか?
回転が強過ぎれば、混ぜようとした物が飛び散って何も残らねぇぞ。
俺も最初の頃、力加減が分からずに思いっきりやって酷い事になったから、最適な回転に調整出来る様にならなけりゃ使えない。
そう言ったら、ちっこいのが『まぁそこら辺は作る連中と相談じゃな』なんて言ってたから、当てがあるんだろう。
取り敢えず、俺としては生クリームの方を、安定して作れる様な方法を考えなけりゃならねぇな。
今のままだと、牛乳を長時間放置するしか方法がねぇから、一度に量を作るには向かない。
少なくとも、もう少し短時間で作れる様にならねぇと、安定して料理に使うのは難しい。
「それじゃワシは明日、ゴゴラ殿達の所に行ってくるから、家の事は任せたのじゃ」
そんな事を言って、ちっこいのは地下室の方へと向かってしまった。
俺としては、この生クリームを使った料理を少し試してみようかとも思ったのだが、時間も時間だし、取り敢えず手帳に書き留めて置いて、どんな物に使えるのか考えてみるか。
ほれ、前みたいな不届き者も出る可能性はあるから、チビ共もさっさと森に帰った帰った。
それにあまり遅くなると、長が怒り出すぞ。
俺がそう言ったら、チビ共は慌てた様に森の方角へと飛び去って行った。
まぁ土産も持たせたし、あんまり怒らねぇとは思うが、少し前にチビ共を捕まえようとしてた奴が出たし、用心するに越した事はねぇだろう。
いやぁ、ベヤヤの奴がまさか生クリームを見付けるとは予想外じゃった。
確かに生クリームと言うのは生乳から作られる物で、本来は遠心分離機を使って遠心力で作る物なんじゃが、自然放置でも分離する事はある。
ただし、保存技術があまり進んでおらん異世界では、そんな分離するまで放置する事はあまりせんじゃろうから、生クリームを使った料理は無いんじゃろう。
こりゃまたベヤヤの所に、弟子希望者が殺到するんじゃろうな。
そんな事を考えつつ、ワシは目の前で組み立てられておるある物を見上げた。
組み立て作業をしておるのは、ワシが作ったゴーレム達であり、事前にナンバリングしたパーツを、手順通りに装着して固定していく。
かなりの巨大なサイズで、普通に出入り口から出すのは不可能じゃが、此処から外に出す際は、ワシのインベントリに収納して持っていくつもりじゃから問題はない。
ただ、問題と言うか、組み立てが終わったとしても、コレを使う場面はあるんじゃろうか。
一応、用心の為に作っておるが、まだまだ完成には程遠いんじゃがね。
そして、その組み立てをしている隣には、一回り小さい別のパーツが広げられておる。
そう、前にゴゴラ殿がベヤヤにワシを呼ぶ様に言っておったのは、コレの心臓部を作る素材が手に入ったからじゃ。
ゴゴラ殿から手に入れた素材を使って作ったんじゃが、サイズが大きくて中々大変じゃった。
そして、組み立てて試運転した際に重大な欠点が分かり、これまでずっと改良をしておった訳じゃが、どうにも出来んかったので、コレに関しては諦めておる。
それに、作りはしたがどうせ使わんじゃろうし。
そんな物を何で作ったと思われるじゃろうが、作りたかったから作った、という訳じゃなく、ちゃんと目的があったんじゃが、問題を解決出来なかったから諦めるしかないのじゃ。
しかし、このままバラバラで放置するのもアレじゃから、ちゃんと組み立てて形にはして保管する予定じゃ。
まぁワシが使うのであれば、その問題も問題にはならんしのう。
組み立てが終わった物をインベントリに収納し、ゴーレム達には引き続き組み立て作業をする様に命じておいた。
次の日、ゴゴラ殿の所に行って、ハンドミキサーの概要を説明し、作れるかどうかを考えてもらったのじゃが、ゴゴラ殿が難しそうに唸っておる。
そこまで難しんじゃろうか?
「単純に回転させるだけなら問題はねぇんだが、嬢ちゃんが言う回転を遅くしたり早くしたりってするのは、結構難しいんだよ」
ゴゴラ殿曰く、回転させるだけなら前から魔道具で出来る様にはなっておるらしい。
ただ、それを望む回転速度にするのは難しく、小さい本体に組み込める歯車の組み合わせを考えねばならぬらしい。
マナの出力量で回転数を変化させるのは、実は難しいらしいのじゃ。
そこら辺はゴゴラ殿達にお任せじゃなぁ……
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