第383話
最近、ちっこいのがせこせこと家と町とを行き来しているが、一体何してんだ?
まぁ俺には関係無いか。
そう思いつつ、新しく手に入ったレシピ本を開く。
今回挑戦しようと考えたのは、牛乳を煮詰めてから型で冷やし固めた料理だ。
何でも素朴な甘味があるらしく、作り方も煮るだけという簡単な物なんだが中々興味深い。
この為に、数日前に町で牛乳を注文しておいて、先程、家に届いた牛乳が入った巨大な缶を机の脇に置いた。
流石に量が多いが、別に全部をこの料理だけに使う訳じゃない。
使わなかった分は、料理用の鞄に入れて置けば腐る事も無いし、後でパンとかシチューにでも使ってしまえば、あっという間に無くなるしな。
さて、必要なのは~と……
「大変なのです!」
「ウニョウニョが畑に悪さしようとしてるです!」
「はりーなのです!」
俺がフライパンを取り出して薪を竈に突っ込んだ所で、窓からチビ共が飛び込んで来て騒ぎ始めたんだが、その内容が聞き捨てならない。
畑に悪さだと!
牛乳は……まぁちょっとなら大丈夫か!
そうして畑に急行すると、ちっこいのが植えたトレントの奴が、地面から糸みたいに細い根っこを出して、じわじわと離れている畑の方に向けて伸ばしてやがった。
だが、俺が来た事に気が付いたのか、一瞬、根の動きが止まるとスルスルと戻っていく。
そして、さも『何もしてませんよ』と言う感じで、トレントは木のフリを続けているが、ちっこいのが結界を張っても、どうやら糸の様に細い根は空気用の穴から外に出て来れてしまう様だ。
さて、鉈は何処だったかな……
ゴソゴソと鞄を漁り、目当ての鉈を取り出す。
俺が特注した鉈は、見た目は普通の鉈なんだが、俺の体格に合わせてヒゲモジャに作ってもらったからかなりデカい。
ヒゲモジャが言うには『見た目鉈のグレートソードだな!』なんて言ってたが、
それを片手に持って、トントンと
そうしたら、トレントの奴は流石に拙いと思ったのか、俺から離れようとしているのか、枝の辺りがバッサバッサと動いている。
まぁ魔物と言っても、トレントは地面に根付いているから、その場からは動けない。
最終的に、俺に向かってトレントが全部の枝を平伏する様に、何度も地面に向けてペコペコと下げて来た。
取り敢えず、今回は未遂だから見逃すが、次同じ事をやったら未遂でも切り倒す事を告げる。
チビ共も、コイツが次やったら容赦なく駆除して良いからな?
鉈を鞄に戻し、家に戻って料理の再開を……
「あ、ベヤヤさん丁度良い所に、次の集会で出す料理なんですが……」
そう思ったら、今度は村の村長がやって来た。
そう言えば、今度の集会で料理を出す様な事を約束してたな……
一応、予定として簡単な軽食とかを考えてたんだが、何か希望とかあるか?
「そうですなぁ……」
俺の質問に村長が考え込んだ後、参加する面々がそこそこ高齢だから、なるべく硬くなく、腹持ちが良い物が良いという希望を言われたが、そうなるとクッキーとかだと駄目だな。
クッキーは脆く作って焼けば良いだけだが、それ程腹持ちが良い訳じゃないし、満腹まで喰うには相当な量を食べる必要がある。
それなら、パンに野菜とか干し肉とかを挟んだサンドイッチでも良いんだが、それだと余ったりして各自が持ち帰り、家に着くまでにボロボロになっちまう。
それに、雪は降らなくなったが、まだ最近は寒いから出来るだけ温かい物が良い。
スープ……は流石に駄目だな。
そう言えば、オウトで兵士達に作ったあの料理、スープで煮るんじゃなくて、蒸したら良いんじゃないか?
蒸す場合、スープで味を付けられないから、中のタネ自体の味を濃い目にすれば、十分腹に溜まるんじゃないか?
それに、蒸すなら温かい状態で食べる事が出来る。
しかし、この方法にはいくつか問題がある。
煮た時は皮の部分を薄くしたが、蒸すのであれば薄過ぎて、中の肉汁が漏れる可能性があるし、何より、蒸し器の底に貼り付いて破れる可能性がある。
かと言って、単純に皮を厚くすれば、今度は中のタネに火が通らずに、生焼け状態になってしまって腹を壊す。
つまり、最適な皮の厚みと、蒸し器に貼り付かない工夫が必要になる訳だ。
皮は蒸せば膨らむから、その状態になっても厚過ぎず薄過ぎずの最適解を探す必要がある。
貼り付かない工夫は、底に油でも塗れば良いと一瞬思ったが、よく考えてみれば、蒸す時間によっては蒸気で流れ落ちるし、乗せた皮が吸ってしまうから駄目だ。
思い付いたが、こりゃ結構大変そうだな。
村長になんとか間に合わせると約束して、早速試作を作ってみる。
家の外で鞄の中にあった残っているタネと、皮用の生地を取り出して、皮の厚みを微妙に変えながら、タネを包んで丸い形にしていく。
それと並行して火を点けた窯に水を入れた鍋を設置し、高温で一気に沸騰させて蒸し器を乗せ、取り敢えず、多分失敗するだろうと思いながら油を塗って、試しにタネを包んだ物を数個入れて蒸してみる。
そして、鞄から砂時計を取り出し、机に置いて蒸す時間も計る。
この砂時計は、ちっこいのがヒゲモジャ達に依頼して作らせた物で、ちっこいのが言うには、この砂時計は一回ひっくり返すと5分らしい。
砂時計をひっくり返しながら、それぞれ別々の時間で一つずつ取り出して割ってみたんだが、5分では生焼け、10分では中心部が微妙に火が通っておらず、15分で中まで火が通っていた。
この大きさなら、15分で蒸し上がるなら、もう少し大きくするなら20分くらいか。
そして予想通り、蒸し器にべったりと皮が貼り付いてしまって、底の分が残念な事になっていた。
こりゃ、そのまま置くのは駄目だな……
こういう蒸し料理をする場合、大抵は器に入れて蒸す物が多い。
だが、今回作ろうとしている物は、器に入れずそのまま手に持って噛り付ける様な物だから、器に入れるのは無理だ。
もし器に入れて蒸すなら、生地で包まずにタネを器に入れて、生地で器に蓋をすれば良いだけで、窯でも似たような料理が作れる。
蒸し器の中に皿を乗せて、その上に生地を置いて蒸せば良いとも思うが、それだと洗い物が増える。
何か良い物は無いか?
同じ様な物で数があって、何より使い捨てても問題が無いような物。
そんな便利そうな物を、鞄の中で探してみるが……まぁ無いよな。
寧ろ、あったらとっくに使っている。
うーむ、料理は出来たが調理法に難がある。
蒸し器からペリペリと貼り付いた皮を剥がしつつ、何か良い案が無いか考える。
……そう言えば、前に読んだレシピ本に、木の葉で魚と香草を一緒に包んで蒸す方法があったな……
木の葉がいけるなら、葉野菜でもいけるんじゃね?
そう思ったら、さっそく行動開始。
俺の鞄には生の野菜も入っているが、生野菜は時期的に用意するのは難しいから、今回はこの時期でも手に入る干した野菜を使ってみる。
干し野菜を蒸し器に敷いて油を塗り、その上に新しい生地を並べて同じ様に蒸してみる。
時間は……取り敢えず15分でやってみるか。
そして、蒸し上がった物を割ってみると、ちゃんと中まで火が通り、齧るとふっくらとしていてタネの味もしっかりと感じられる。
懸念していた皮の貼り付き問題も、不思議と干し野菜に多少付いただけで、殆ど貼り付いていなかった。
寧ろ、干し野菜を一緒に蒸した事で、水分が多少戻り、一緒に食べる事で風味が変わって面白い。
これなら、干し野菜を全体に敷き詰めるんじゃなくて、一枚に一個乗せる感じにした方が良いな。
それに、中身のタネを変えれば、色々と応用が効きそうだ。
そうして、一先ず完成した料理を誰でも作れる様に、分量とか作り方を纏めていく。
元々の料理より、タネはスープで味が補完出来ないからしっかりとした味付けにし、皮はコワ粉の分量を増やし、少しだけ甘味を感じれる様に蜂蜜を混ぜてみる。
多少の甘味を加えると、塩味を抑えても強く感じれる様になるという、不思議な現象がある。
そうしなくても塩味を強くすれば良いと思うだろうが、味を濃くし過ぎると身体に悪い。
確か、ちっこいのは『ゼイタクビョー』とか言ってたな。
どんな病気なのかは分からねぇが、まぁ用心するに越した事は無い。
出来上がった新しいレシピを手帳に書き留め、荷物用鞄にしまった後、出来た料理は蒸し器ごと料理用鞄に収納しておく。
そして、新しい蒸し器を取り出して積み上げ、サイズを小さくした物を大量に作っていく。
ちっこいのが帰って来るのと同時に、ちっこいのと一緒に大量のチビ共も予想通りやって来た。
晩飯の時間だしな、絶対来ると思ってたぞ。
出来上がった蒸し料理をチビ共に渡していると、ちっこいのが『ほぅ所謂、肉饅頭か』と言っていた。
そう言う名前の料理があるのか?
そうして、催促するチビ共に囲まれながら、新しい肉饅頭を蒸していく。
この時、俺は新しい料理の事を考えていて、部屋の中に置いたままの牛乳の存在をすっかり忘れていた。
それに気が付いたのは、チビ共が帰って後片付けをしていた俺に、ちっこいのが『なんか部屋に置いてあるんじゃが、お主は何か知っとるか?』と聞かれた時だった。
次の更新予定
2024年12月5日 12:00
幼女な魔女と森の熊さん ~異世界でポーション創ってのんびりスローライフがしたいのじゃが?~ 砂くじら @serozero
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