第380話
トレント、樹木が魔物化した魔物と聞いたのじゃが、見た感じは本当にただの木じゃな。
しかし、トレントがどうやって増えるとか、そもそもどうやって誕生するとかの研究はされておらん様じゃ。
エルフ殿達から通説も聞いたのじゃが、何処からか苗木が歩いてやってくるとか、流石に有り得んじゃろう。
取り敢えず、エルフ殿達に確認出来たトレントの数を聞いてみたら、この場所を含めて5体で、エルフの長殿が焼き払っても周囲への被害が無いと判断した3体は、既に焼き払う様に指示を出したらしい。
残りの2体は、焼き払うには周囲への被害があると判断して、どうするかを相談する事になったのじゃ。
「我々としては、周囲を伐採した後に焼き払うのが良いと思うのですが」
そう言っておるのは、移住してきたエルフ族の長の一人で植樹を担当しておる『クリストフ』殿。
他のエルフ族と違って、肌が若干小麦色に近く、その差異を聞いてみた所、ヴェルシュ帝国におるという『デザートエルフ』と言うエルフの亜種族と血の繋がりがあるからじゃと説明されたのじゃ。
どうやら、砂漠に住むエルフ族の様じゃが、移住してきたエルフも多種多様になったのう。
「しかし、焼き払う場合、問題が起きた時に対処出来なくなったら、大問題になります」
「ですが、このままだと周囲の木もトレントになる可能性が。 放置して被害が広がるよりも、多少の問題は許容して挑むべきかと」
ミアン殿は慎重に対処した方が良いという考えで、クリストフ殿は問題が起きるかもしれないが直ぐに処置する方が良いという考え。
どっちの意見も正しいとは思うんじゃが、二人共、ワシ等がおる事を忘れておるじゃろ。
しかし、ワシとしてもトレントは凄く気になるのじゃ。
「あー二人共、残りのトレントじゃがワシ等で対処しても良いじゃろうか?」
「魔女殿がですか? ……あぁ、成程、確かにベヤヤ殿がいれば、諸々の問題は解決ですね」
そう、ベヤヤにとっては、あの程度のトレントではただの爪楊枝と変わらん。
簡単に圧し折って、根ごと引き抜けるじゃろう。
しかし、ワシの狙いは別にあるのじゃ。
「うむ、1体は駆除するが、もう一体、この目の前のトレントは調査したいから、ワシが貰っても良いかのう?」
「調査ですか?」
「駆除していただけるのであれば、我々は構いませんが……このまま放置されるのはちょっと……」
クリストフ殿がそう言うが、ワシとてその程度は分かっておる。
このトレントは、この場所からワシの家の庭に周囲の土と一緒に移植するつもりなんじゃ。
コレなら、調査の度に態々此処にやって来て調べて帰る、という手間を省ける。
それに、ワシの家の近くなら、問題が起きても対処もし易いし、いざとなったらワシが直接処分する。
そう説明し、そう言う事であるなら、と、クリストフ殿にも納得してもらったのじゃが、意外な所から反対が出たのじゃ。
『俺は反対だ! 畑が荒らされたらどうする!』
「植える予定の場所は畑とは離れた所を考えておるから、影響は受けんじゃろうし、ワシの方でちゃんと対策するから大丈夫じゃって」
『そうは言うが、今じゃ家にはチビ共も来るんだぞ? そっちはどうすんだ』
「まぁそれはちゃんと近寄らんように説明して、森の方でも言い聞かしてもらうしかないんじゃが、まぁ、そこに関しても問題はないのじゃ」
妖精は好奇心旺盛じゃが、身の危険を感じれば近寄らんし、頭も良いから、言い聞かしておけば近寄る事は無いじゃろう。
それだけでなく、移植が終わったトレントの周りに、妖精も通れぬ無色透明の結界を張って、必要時には少しだけ穴を開けて中に入るつもりじゃ。
そして、調査が終われば、結果に関わらず容赦なく薪にする。
ミアン殿達にもしっかり説明し、ベヤヤも渋々と納得したのじゃが、『もし畑の野菜に影響があったら即、圧し折るからな!』と言って、この場を他のエルフ殿達に任せ、駆除する方のトレントを駆除しに行ったのじゃ。
と言うか、トレントが危険とかそう言う理由じゃなく、畑の野菜が基準と言うのは、ベヤヤらしいというか、どうなんじゃって感じじゃな。
駆除する方のトレントじゃが、先程のトレントと太さ的には変わらんのじゃが、近くに別の樹木があり、コレでは燃やしたら、確かに周辺延焼待った無しじゃ。
しかし、ワシと言うか、ベヤヤには一切関係はない。
のしのしと歩いて近付いていくと、地面から茶色い蔦、というか根じゃな、それが何本もベヤヤの身体に巻き付いて行ったのじゃが、ベヤヤはソレを掴むと、ブチブチと簡単に引き千切って近付いて行く。
根での拘束では止まらぬと分かったのか、トレントが次に繰り出してきたのは、頭上にある枝を振っての殴打じゃが、ペシッとベヤヤに叩き落とされてしまっておった。
後で聞いたのじゃが、トレントの根での拘束は力で振り解くのは難しく、枝の一撃も直撃すれば数人の成人男性が軽く吹っ飛ばされる威力があったらしいのじゃ。
それに、近付くと非常に眠くなる作用があるガス?を出しておるらしいのじゃが、その手の攻撃は耐性を持っておるベヤヤには通用せん。
そして、トレントの攻撃は全く通用せず、ベヤヤはトレントの目の前まで到達すると、そのままトレントに抱き着く様に抱え込んだ。
あーアレは確かにベヤヤの名前通りの技じゃな。
「グゥガァァァァァッ!(圧し折れろやオラァァッ!)」
ベヤヤの掛け声と共に、ベキバキと圧し潰す様な音でトレントが上下で真っ二つに破断されてしもうた。
そして、地面に残った切り株部分を掴むと、そのまま力尽くで引き抜く。
ズボリと完全に引き抜けたトレントを、ベヤヤは地面に投げ捨てたのじゃ。
多分、トレントも引き抜かれぬ様に抵抗はしたんじゃろうが、ベヤヤのパワーの前では無意味じゃったか。
「ぉー流石じゃのう」
あんなのに掴まれたら確実に、脱出不可能で御陀仏じゃろうな。
一応、もしもの場合に備えて準備はしておったのじゃが、ベヤヤには無用じゃったな。
投げ捨てられたトレントの下部分じゃが、根が暫くウネウネと動いておったが徐々に動かなくなり、完全に動かなくなったのを見て、クリストフ殿が『もう大丈夫だ』と言ったので近付いて見てみたのじゃ。
上の木部分は見た目は完全な木で、根もどう見ても普通の根じゃ。
最初、トレントは寄生生物とかで、木に擬態しておるのかと思ったんじゃが、コレだけ完全に木に擬態するのは不可能じゃろう。
ワシはそんなトレントの根や枝、樹皮部分を試料としていくつか採取させてもらい、残った分はミアン殿とクリストフ殿に判断を任せる事にしたのじゃ。
トレントは意外と使い道が多いらしいし、売れるのであれば売って森の管理費にでもすれば良い。
話し合いながら、移植予定のトレントの所に戻り、今度はワシの出番じゃ。
と言っても、ワシの場合は非常に簡単なのじゃ。
「ほいっとの」
トレントを中心にして球状結界を展開、ゴリュッと地面ごと丸く抉り取り、『重力魔法』で浮かせてハイ終了。
プカプカとトレントを浮かせてみれば、ミアン殿は驚きで目を大きくし、クリストフ殿達は顎が外れたのか大きく口を開いて絶句しておった。
取り敢えず、そのままトレント入り結界を浮かせたまま、ワシとベヤヤは家に帰り、畑とは反対側、それもかなり離れた所に移植しておいたのじゃ。
大量に水を与えた後、周囲に水晶を加工して作った結界装置を設置して起動し、ワシ以外は出入り出来ぬ様に設定したので、妖精が見に来てもトレントは手出し出来ぬし、妖精もトレントにイタズラは出来ぬ。
後は、このまま枯れぬ様に祈っておくかのう。
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