第377話
ミアン殿に例の蜂蜜対策の報告と、解毒薬を用意して渡したのじゃが、その帰りに見た覚えのない騎士達が『シャナル』から出て行くのを見かけた。
何やら急いでおった雰囲気じゃけど、身に着けておる鎧は白を基調とし、金で装飾が施されておるんじゃが、ワシには見覚えが無く、ワシが王都へ行っておる間に新たに設立された部隊じゃろうか?
そんな事を思いつつ、帰路についておったら、鍜治場の近くを通った時に、ベヤヤが何やら用があるという事で、急遽、寄り道をする事になった。
「おう、頼まれたモンは出来てるぞ」
到着した鍜治場では、ゴゴラ殿が金槌を担いだ状態でベヤヤに何かを渡しておる。
ベヤヤが布包みを受け取ったのじゃが、まぁベヤヤの事じゃし、どうせ調理器具じゃろうな。
そう思いはしたものの、一応聞いてみたのじゃが、帰ってきた答えは『卵用のフライパン』という予想通りの物じゃった。
しかも、鉄ではなく銅合金を使っておる高価なモノじゃ。
何故にフライパンを新調したのかと言えば、小田殿が連れて来たウズラ達が、ポコポコと卵を産んでおるから手に入り易くなった事で、ベヤヤの所にも卵が回ってくるようになり、それで卵料理をした際、何やら臭いが気になったらしい。
いや、確かに卵は別のフライパンを使った方が良いとは聞くけども、そこまで気にする必要があるのかのう。
『いや、それが気になるんだよなぁ』
ベヤヤがフライパンを鞄に収納し、自宅に到着した際にそう言っておったのじゃが、ワシには分からんのじゃが……
そう思いつつ、新しいフライパンで料理を始めたベヤヤを見ておったのじゃが、なんか、屋根の上におる妖精が更に増えとらんか?
「甘くて美味しいのです!」
「フワフワしてやわやわなのです!」
「そっちの方が大きいから少し寄こすです!」
「やーです! コレは私のです!」
『あーあー喧嘩すんな』
焼き上がった卵焼きを切り分けていたら、予想通り屋根にいた妖精達が一気に殺到、あっという間に皿はカラになってしもうた。
しかし、コレはベヤヤも予想しておったらしく、態々小さく切っておったのじゃが、流石に全部が全部同じサイズには出来んから、見た目が大きそうな物が取り合いになってしまっておる。
まぁ、焼いたフライパンが丸い普通の物じゃから、どうやってもサイズは同じくらいには出来んじゃろう。
『コレどうすんだ?』
「いや、ワシに聞かれてものう……取り敢えず、フライパンの形を変えた方が良いじゃろ」
『どういう事だ?』
ベヤヤに丸いフライパンではなく、四角のフライパンを使えば、ほぼ同じサイズに出来るじゃろうと説明。
ただ、この形にすると本当に卵焼きでしか使えなくなるんじゃが、ベヤヤは『卵焼き専用でしか使う予定が無いから問題はない!』と言って、新しいフライパンを注文しにゴゴラ殿の所へと走って行ってしまった。
相変わらず、料理に関してはブレんのぅ……
全く、相変わらず面倒な注文だった。
あの嬢ちゃんは偶に注文に来るが、嬢ちゃんの注文は簡単なのだが、一緒に注文して来る熊公の方が問題だ。
包丁とかならまだしも、いや数は多かったが、鍋やらフライパンやら、
最近は出掛けてたから安心していたんだが、帰って来ていきなり『銅でこんくらいの大きさのフライパンを作ってくれ!』ってなぁ……
まぁ銅は柔らかいから簡単に作れたんだが、今度は『同じ銅で大きさは同じくらいで、形をこうしてくれ!』って来やがった。
作るのは問題無いんだが、前のじゃ駄目だったのか?
『普通のフライパンだと、切り分けた時に大きさが均一にならなくてな』
あぁそうかい。
銅ならすぐ出来るから、そこでちょっと待っとれ。
熊公を店の入り口で待たせ、儂は店の奥にある鍜治場に入ると、肌を焼く様な熱気を感じる。
日が落ちると近所迷惑になるって事で、鍛冶仕事が出来なくなるから、日中は炉の火を落とす事が無いから部屋の温度がクソ熱くなる。
壁際に置いてある箱から銅インゴットを取り出し、やっとこで掴んで炉に入れて熱し、丁度良い温度になったと感じたら取り出し金槌で叩く。
金槌を振り下ろす度に、熱されたインゴットが伸びていく。
偶に炉の中に戻して熱し直し、何度も金床の上で叩き続け、薄く伸ばしながらフライパンの形に整えていく。
形が出来上がったら、柄を付けて完成だ。
「ほれ、出来たぞ」
『ありがとうよ、いくらだ?』
熊公に出来たフライパンを渡し、値段を聞かれたんだが、正直、この程度だったら銀貨数枚ってトコだな。
別に加工が難しい訳でも無く、銅なんてあんまり使わんから、加工費を加味したとしてもその程度にしかならん。
その事を熊公に伝えたら、銀貨10枚と何かの箱を渡してきた。
なんだこりゃ?
『
おぉぉっ!
それなら大歓迎だ!
何なら、次から熊公の支払いはソレでも良いぞ!
儂等ドワーフは『酒さえあれば文句はない』と言われる程、酒好きだ。
それ故に、酒の肴になる料理を常に求めているんだが、熊公が作ったジャーキーなら、確実に酒に合う。
他のドワーフ連中に知られたら、確実に取り合いになるから、コレは一人でゆっくり楽しむとしよう。
あ、そう言えば、伝えとかにゃならん事があった。
「ガゥ?(なんだ?)」
「いや、頼まれとった素材が集まったから、明日にでも取りに来る様に嬢ちゃんに伝えといてくれんか?」
本当はこの熊公に渡しても良いんだが、ちょっと扱いが面倒なモンもあるから、出来るだけ本人に渡して直接説明しておきたい。
そう伝えたら、熊公が頷いて店から出て行った。
それを確認した後、儂は店の看板を『営業中』から『鍛冶中』に変えて、扉に鍵を掛ける。
こうしておけば、誰かが店に来たとしても、儂が鍛冶をしているから応対出来ないんで、店に入れないという事が分かる。
実際には、熊公から貰った酒の肴を少し試食するつもりってだけなんだが、少しは鍛冶もするつもりだぞ。
俺がいる牢屋の反対側にある牢屋にいた奴は、どうやら俺が扉を動かしたガチャガチャという音に反応した様だ。
何でそんな音に反応したのか、甚だ疑問ではあったが、音を立てなければ別に反応はしないみたいだ。
「おい、飯だ」
ゴンゴンと扉が叩かれ、扉の方を見ると下部が開き、そこからトレイに乗った食事が滑り込む様に部屋に入って来た。
乗せられているのは、パンやスープ、サラダに小さいが肉の焼かれた物。
試しにパンを持ってみると、かなり柔らかく、摘まんで軽く引くだけで千切れる程。
「……うっま!?」
口に入れてみると今まで食べて来たパンが、まるで塵に感じてしまう程の味。
次にスープを口にすると、コレもまた美味い。
サラダも新鮮な野菜を使っているみたいだし、肉に関しても塩以外に香辛料も使われているのか凄く美味い。
これまで食べて来たどんな料理より、遥かに美味い料理だったが、何故、こんな料理が捕らえられた俺みたいな奴に出されているのか、疑問に思ったのは全て食べ終えた後だった。
その時、扉の外が急に騒がしくなった。
良く聞こえないが、どうやら向かいの牢屋の奴が暴れている様だ。
覗き窓から見てみると、
全く、馬鹿な奴だ。
此処は大人しくしているだけで、美味い飯が出されるようだし、外に出れるようになるまで美味い飯を堪能させてもらうぜ。
俺はそう考えて、牢屋の中にあるベッドに横になった。
この考えが間違いだと気が付いたのは、この状態が続いた数日後の事だった。
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