第375話




 朝、朝食の準備をしてさぁ喰うかって時に、いきなりチビ妖精共が大騒ぎしながら、家にやって来た。

 いつもみたいに、飯でも集りに来たのかと思ったんだが、どうにも様子が違う。

 取り敢えず、話を聞いてみたんだが、なんかが森の中にあるから確認して欲しい、と言うんだが変なモンって何だよ。


「別に確認して来れば良かろう。 暇なんじゃし」


『いや、それは構わねぇけどよ、今日あたりに俺宛ての荷物が届く予定なんだが……』


「どうせ、新しいレシピ集じゃろ? 届いたらワシが受け取っておく」


 ちっこいのが、焼き上がったパンを齧りながらそんな事を言うが、確かに届くのは新しいレシピ本だけどよ、読んで作れそうな料理があったら試作するつもりだったんだが……

 しかし、チビ共が言う変なモンも気にはなるし、チビ共のいる森は普通は誰も入れない筈なんだが 誰かが忘れていったのか?

 そんな事を思いつつ、ちっこいのに受け取りを任せ、俺はチビ共と一緒に森へと出発。




 で、森にやって来たんだが、なーんか変な臭いがする。

 甘ったるいというか、妙にドロッとモッタリしたような、樹液とかが腐ったというか、発酵してる様な……表現しにくい臭い。

 で、チビ共に案内された所にあったのが、木の根元に置いてある小さい樽。

 どう見ても、誰かが忘れて行ったモンじゃねぇな。

 この中から、この妙な臭いが出ているみたいだな。

 摘まんで中を見てみると、こりゃ蜂蜜か?

 試しに持ってる小匙を突っ込んで掻き混ぜると、臭いが強くなった。

 そして、小匙に付いた蜂蜜?を舐めてみた。 

 瞬間、俺の舌は蜂蜜特有の甘味以外に刺激を感じ取った。

 こりゃ毒だ。

 直ぐに吐き出すが、こんなモンが何で森の中に仕掛けられてんだ?

 毒の強さ的に俺なら問題無いが、チビ共が喰ったら多分駄目だな。

 まぁ、そこでコソコソ隠れてるアイツに聞いてみっか。

 なんか、隠れてるにしても妙に見辛いし、なんか変な道具を使ってんなアイツ。

 ただ、俺が今持ってる道具を使うと、ニンゲンなんて簡単に死んじまうし、この前使えると分かった炒り豆も、間に木の枝やら木の葉がある以上、それなりに力を籠めて投げなけりゃいけないが、それだと貫通しちまう可能性が高い。

 どうするか一瞬悩んだが、それなら手近にあるモンで代用すりゃ良いか。

 そう考えて、地面の土を一握り抉り取り、その土を握力で握り固めると、丁度良い具合の土玉の出来上がり。

 そうして出来上がった土玉を、コソコソしてる奴に向けてぶん投げる!

 お、ボガンッて音がしたから当たったな。

 チビ共と一緒に見に行くと、全身に木の葉やら蔦を付けた、妙な格好をした男が倒れていた。


「ちゃんと生きてるです!」


「変な格好してるです!」


「とっても伸びるです!」


「勝手に入って来たのだから、ザマァなのです!」


 コラ、遊ぶな遊ぶなチビ共。

 取り敢えず、コイツも一緒に連れてくぞ。

 ロープを取り出して縛り上げた後、棒に引っ掛けて森から出て、警備兵に怪しい奴として引き渡す。

 その際、許可が無いのに森に入ってた事と、妙な樽が仕掛けられていた事、樽も渡しておいたが、一応、中身が気になるから、半分くらい貰っておいた。

 コレを料理に使う予定は無いが、ちっこいのに調べてもらうつもりだ。

 俺の舌と直感は毒と判断したが、もしかしたら違うのかもしれないし、チビ共には無毒かもしれないしな。

 そしたら、飴でも作ってやるか?


「ふーむ、コレはイカン、ちょっと手を打っておく必要があるのう」


 ちっこいのが樽の中身を調べた後、そんな事を言ってるがどうした?

 家に戻ってちっこいのに見てもらったら、チビ共には致命的なくらいのガチの毒だった。

 ちっこいのが説明してくれたが、コイツを一度でも口にすると、定期的に摂取したくなる程に依存度が高く、食べ続けているとこれ以外を食べなくなり、そのまま衰弱死する。

 ヤバイな。

 だが、あの怪しいアイツが犯人だと思うが、一応、牢屋にぶち込まれてるし、被害はもう出ないだろ?

 そう聞いたら、ちっこいのが首を横に振ってる。


「どう考えても、コレは完成するまで何度も試して作っておるじゃろう。 じゃから、これまで捕まった妖精がおる筈じゃ。 その推定犯人?を絞り上げてでも、全容を確認する必要はあるんじゃが、少なくとも治療薬は必要になる」


 『しかし方法がのう』なんてちっこいのが悩んでるが、ちっこいのが悩んでるのは、治療薬の方ではなく、どうやってアイツから情報を引き出すかだ。

 第一、隠れてチビ共を捕まえてる様な奴が、正直に話すとは思えん。

 と言っても、俺達が出来る事なんてもう無いけどな。

 後は、警備のニンゲン共の仕事だろ?

 そう言ったら、ちっこいのも『まぁそうじゃのう』って考えるのを止めた様だ。

 そして、俺が出掛けてから戻るまでに荷物は届いておらず、俺はそのまま昼飯の準備を開始した。

 ただ、その前にチビ共が腹減ったと騒いだので、小さいクッキーにバターを塗って砂糖をまぶし、『発火能力パイロキネシス』で炙って溶かした菓子を作って渡しておいた。

 クッキーを貰ったチビ共は、全員が森に帰らずに屋根に並んで喰ってやがるし、こりゃ昼飯も喰う気だな。




 ベヤヤと妖精達が持ち込んだ瓶の中身じゃが、見た目は唯の蜂蜜を何かで薄めた物。

 しかし、鑑定してみたら正体は、妖精を捕獲する為に調合された、極めて依存性の高い猛毒じゃった。

 もし、あの森の妖精がコレを口にして…… 

 ………ワシが言うのも何じゃが、まぁ口にする事は無いじゃろうなぁ……

 『妖精の森』におる妖精達は、新人?新妖精?以外は全てベヤヤの料理に餌付けされとるようなモンじゃし、そんな妖精達が今更、多少香りが良いとはいえ、蜂蜜を直接舐める様な事はせんじゃろう。

 寧ろ、その蜂蜜をベヤヤの所に持ち込んで、飴やら菓子の材料にしてから貰うじゃろうなぁ。

 実際、今も屋根の上でベヤヤから貰ったクッキーを齧っておるし。

 取り敢えず、ワシとしては治療薬の方を作っておくかのう。

 それによく考えてみれば、大馬鹿者から情報を引き出すのは、『シャナル』の警備をしておる者の仕事じゃし、それでもし駄目なら、自白剤でも作って渡すとしようかの。




 牢屋で目を覚ましたが、罠の事さえ切り抜けられれば、俺がやったのは立ち入り禁止の森に入っただけで、そこまで重罪にはならないだろう。

 それに、もしこのまま捕まって牢獄送りになったとしても、過去に俺から購入した連中が俺を出す様に必ず動く。

 そうしなければ、せっかく隠れて購入した妖精が死ぬからな。

 そんな事を考えながら俺は牢屋の中で待つが、一向に誰も来ない。

 普通なら、兵士とかが来て俺の罪状とかを調べる筈だが、気が付いてからしばらく経つのに、様子を見に来る事すらない。

 不思議に思いながら周囲を見回し、牢屋の中を確認してみるのだが、明り取り用の小さい窓がある小さい部屋と言うだけで、別に何か仕掛けがある訳では無いようだ。

 そして、出入りする扉だが、そこには横に長細い小さい窓が二つあるだけで、そこから腕を通して鍵を外すのは無理だな。

 扉の窓の部分を弄るとガチャガチャと音はするが、扉もかなり頑丈で外れそうにも無く、どうやっても自力で脱獄するのは無理だと分かった。

 その時、向かいにあった牢屋の様子が見えた。


「ヒィッ!?」


 思わず声が漏れたが、そこには同じ様な扉があり、そこの窓から、同じ様に俺の方を見ている奴がいた。

 ただ、ソイツの眼は大きく見開いて血走って赤くなっていて、俺の方を見た後、辺りを見回す様にギョロギョロと動いていた。

 な、なんなんだよ、一体!?

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