第374話
俺はしがないハンター。
今日も獲物を求め、西へ東へ北へ南へと情報を求めて動いている。
おっと、俺が狙っている獲物は、魔獣なんかじゃないぜ。
俺が狙っているのは『妖精』だ。
『妖精』ってのは、昔から貴族共が不老長寿になる為だとか、愛玩目的で手に入れようとしてるから、禁止されても隠れてコッソリ手に入れようとしている。
ヴェルシュでは『妖精』を手に入れても買う奴等がいないが、クリファレスでは堂々と売買してる貴族もいた。
バーンガイアでは、表向きは『妖精』の売買は禁止されているが、隠れて売買してる貴族がいる。
俺はそんな貴族共に、『妖精』を捕獲して売り付けている訳だ。
今日は、新たに入手した情報を確かめる為、バーンガイアの辺境にやって来た。
何でも、『妖精』がわんさかいて、町中でも飛び回っているらしい。
クリファレスで『妖精』を探していた時に、そんな話を聞いて、最初は『そんな馬鹿な話がある訳が無いだろ』と、馬鹿にしていたのだが、同業者の妖精ハンターが続々とバーンガイアに向かってしまった。
確かに、クリファレスにいる『妖精』は既に殆ど狩り尽くしてしまったのか、目撃情報があっても、ただの見間違いばかりで、もうクリファレスには殆どいないだろう。
仕方無い、どうせクリファレスに残っても何も出来んし、嘘だとしてもバーンガイアには『妖精』もまだいるだろうから、一応向かうとするか。
そしてやって来たぜバーンガイア。
入国に関しては結構面倒だったが、俺の表向きの仕事は『採取専門の冒険者』となっていて、『珍しい薬草を手に入れる為に旅をしている』と説明して、実際に手に入れていた珍しい薬草を出したりして無事に入国する事が出来た。
『妖精』を捕まえる為に色々と探している時に、こういった珍しい薬草とかを偶然見付かる事があるから、『珍しい薬草を手に入れる』という話に嘘はない。
ここで大事な所は、禁制品は事前に処分しておく事だ。
確かに、禁制品は出回っていないから高く売れるが、国を移動する際に持っているのが見付かれば、問答無用で捕縛されてしまう。
密入国も出来ない事は無いが、見付からない代わりに危険な獣道を進む関係で、魔獣や魔物に見付かる可能性が高くてリスクが割に合わない。
だから、俺は出来る限り正規の経路で入国する事にしている。
結構苦労して手に入れたから手放すのは惜しい事だが、『妖精』を手に入れれば直ぐに稼げるだろう。
「な、なんじゃこりゃぁ……」
馬車を何台も乗り継ぎ、道中で適当に集めた薬草を売りつつ、情報を集めたら『町中を飛んでいる妖精』がいるのは本当の事らしい。
それを聞いてその町に来てみたんだが、この町では本当に大量の『妖精』が町中を飛び回っていた。
『妖精』共は窓枠に腰掛けていたり、花壇の中で何かをしていたり、屋根の上を追い掛けあっている。
こんな光景、今まで見た事無いぞ。
しかし、これだけいれば捕まえるのは非常に楽。
妖精ハンターである俺からすれば、『妖精』を見付けてさえしまえば、捕獲するのは容易い事だ。
とは言え、流石に町中にいるのを捕まえるわけにはいかない。
そこで、冒険者ギルドで適当に依頼を確認していると、何と『妖精の森』なんて名前の森があるじゃねーか。
聞けば、本当に『妖精』が大量にいる森らしいんだが、そこには入れるのは許可がある冒険者か、『妖精』が認めた奴だけらしい。
だが、俺からすれば別にその程度は問題無い。
そして、数日掛けて森の外縁部を調査した。
『妖精の森』とやらは、奥深くに入れば酷い事になるが、浅い外縁部であれば大丈夫という事が分かったので、遂に『妖精』を捕まえる為の専用罠を仕掛ける事にする。
まぁ、仕掛け自体は単純だ。
俺が独自に調べた事だが、『妖精』と言うのは花の蜜や蜂蜜や果実とか、かなり甘い物を好んでいる。
流石に花の蜜を集めるのは時間が掛かり過ぎるし、果実は流通量が少ないから買うにしても糞高い。
だから、比較的手に入り易い蜂蜜を使う。
その蜂蜜に、数種の薬草を擂り潰した物と水を加え、小さい樽に入れ、それと一緒に魔石を付けた板を入れて置く。
この板はそれなりに熱を出す様になっており、それで樽の中が熱されて蒸発し、甘い匂いを周囲に匂わせる様になっている。
『妖精』がこの匂いを嗅ぐと、その匂いに釣られてやって来て、この樽の中身を飲めば、溶かし込んだ薬草によって少量でも酩酊状態になり、直ぐに地上に落ちて捕まえる事が出来る。
しかも、混ぜている薬草の組み合わせで依存性が強くなっており、コレによって、愛玩目的で購入した貴族達から、定期的に俺から薬を購入してくれる。
この薬、本当に組み合わせによって偶然発見した物で、単体では別に禁制品ではないから、普通に売買する事が出来る。
しかも、人間には全くの無毒だから、俺が喋らなければただの『蜂蜜入り薬草酒』にしかならない。
さて、ちょっと見付かりにくい場所に設置してと……
後は、隠れて様子を見るだけだ。
そうして、少し離れた所で『姿隠し』の魔道具を使って、『妖精』が掛かるのを待つ。
この『姿隠し』の魔道具は『結界』の魔道具と似ている物で、使用していると外側からは中が見えなくなるだけじゃなく、俺の気配とかも完全に隠してしまう。
ただ、中で戦闘とか駆け回ったりすると流石にバレるが、待機するだけなら絶対にバレない。
携帯食料を齧りながら待っていると、辺りに広がった甘い匂いに釣られたのか、一匹の『妖精』がふらふらと森の中を飛んで来た。
そして、木の根元に置いてあった樽を見付けたのだが、どうにも様子が可笑しい。
樽に近付いては来るのだが、周囲を見回した後、首を傾げて周りを飛び回る。
いつもであれば、直ぐに樽の中に手を突っ込んで舐めるのに、何故か飛び回るだけだ。
なんでだ?
そう思っていたら、『妖精』は飛び去ってしまった。
それからも何度も『妖精』はやってくるんだが、全部、樽の周りを飛び回るだけで、一匹も樽に触りすらしない。
こんな事は初めてだが、まぁ罠を仕掛けて初日だしな、待ってれば数匹は掛かるだろう。
そうして、偶に樽の中身を追加したりしながら待機していたら、夜を迎え、そのまま朝になってしまった。
結局、あの後にも数匹来ただけ。
一度、戻って宿で作戦を考えた方が良いかもしれんなぁ……
そうと決まれば、樽を回収してっと……
立ち上がった瞬間、ガサリと音がしたので、その場で止まる。
そしてゆっくりと確認すると、樽のある方角にあった木立から、数匹の『妖精』が飛び出してきた。
なんだよ、驚かすんじゃねぇよ。
が、その『妖精』が出て来た方角から、白い巨体も現れ、俺は完全に停止した。
それは、出会える可能性の高い魔獣の中では最強の一体とも呼ばれ、『魔熊』の最終進化個体であり、出会えば確実に命が無いと言われる魔獣、『エンペラーベア』の色違い。
そんな魔獣がゆっくりと『妖精』の後を追う様に歩いていた。
『エンペラーベア』が『妖精』を喰うなんて聞いた事は無いが、魔熊種は雑食性だから、別に喰えない訳では無いのだろう。
だが、俺がもし見付かってしまえば、確実に逃げ切れずに殺される。
『姿隠し』の魔道具は信じているが、それでも息を殺し、『自分は石、そこ等辺に転がっている石』と思い聞かせながら、『エンペラーベア』がいなくなるのを必死に待つ。
「ルガゥ?」
俺がそんな願いをしている事も知らず、『エンペラーベア』が『妖精』の後を追い掛けているが、その逃げていた『妖精』の一匹が、『エンペラーベア』の鼻先に移動して何かをしている。
そして、鼻先に居た『妖精』が、俺が仕掛けていた樽の方へと飛んでいくと、『エンペラーベア』がその後を付いて行く。
おい、まさか……
仕掛けてあった樽の上で『妖精』が止まり、『エンペラーベア』が覗き込む形で樽を見下ろしている。
樽の中身の臭いを嗅いだ後、『エンペラーベア』が樽を摘まんでその場に座り込み、何かを樽の中に突っ込んで掻き混ぜている。
アレは……長柄の匙?
暫くぐるぐると掻き混ぜた後、『エンペラーベア』はその匙を口に入れたが、直ぐに吐き出していた。
まさか、最終進化してるとはいえ、ただの魔獣が樽の中身を毒だと判断したのか?
そして、吐き出した『エンペラーベア』と、一瞬だが眼が合った気がした。
俺は『姿隠し』を使っているのだから、ただの偶然だと思うが、俺の背筋は冷や汗が止まらない。
『エンペラーベア』が樽を置いて、地面の何かを掴んで何かをした。
そこで俺の意識は途絶え、次に気が付いた時には、頑丈な牢屋の中だった。
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