第373話
バート達が『シャナル』に到着し、門での手続きを終えて中に入ると、まずは町長に挨拶してからクリファレス軍が来ているのかどうかを聞く為に道を歩いていると、神社の近くで何やら口論している集団を見付けた。
片方はその身形から『シャナル』の住民であろうが、もう片方は見た事の無い白い金属鎧を身に着けた兵士達。
その集団が、神社の近くにある住居の前で何やら言い合っている。
「一体何だ?」
「分かりませんが……まぁ流石に武器を抜く事はしないとは思いますが……」
俺が首を傾げて呟くと、一緒にいた黒鋼隊の一人がそう言うが、あの兵士達が身に着けている鎧から、バーンガイアの兵士では無さそうだが、そうなると奴等は、クリファレスの兵士と言う事になる。
ヴェルシュの兵がこんな場所まで来ているとは思えないし、冒険者にしては共通の鎧を身に着けている兵の数が多い。
つまり、師匠が危惧していた事が起きてしまったという事になるが、本当に何をしているんだ?
「さっさと此処で匿っているという『オーガ』達を此方に渡せ!」
「だから、此処の子達は『オーガ』じゃないと何度説明すれば分かるんだ! 保護した町長様からも説明されていただろうが!」
「ハッ! そんな嘘を俺達が信じる訳がないだろう! それに、これ以上俺達の邪魔するのであれば、痛い目を見るだけじゃ済まさんぞ!」
あぁ、コレはヤバイな。
少し離れた所から聞こえて来る話を聞く限り、このままだとあの兵士共は実力行使をするつもりの様だ。
だが、状況が良く分からん。
まだ、一触即発にはならないだろうから、近くにいた住民から話を聞く事にする。
それで分かったのは、俺達が『シャナル』に戻る少し前、町長であるミアン様から希少な亜人族を保護し、彼等が人の世で暮らす為に常識等を学ばせる事になり、神社に併設されている『テラコヤ』という私塾に迎い入れたのだが、彼等の見た目は『オーガ』に似ている。
だが、亜人種である証拠に『
そうしていたら、そこに彼等がやって来て、テラコヤの責任者に対して『引き渡せ!』と要求をしているらしい。
成程な。
……どう考えても、これ、あの師匠が関わってるな。
聞いた住民に礼を言い、もう一度あの兵士達の方を見てみるが、こんな所で口論する前に、ミアン様が説明してるのであれば、まずは先にそのミアン様に話を聞くのが筋だろう。
「えぇい! 良いからさっさと渡せ!」
我慢出来なくなったのか、口論していた兵士が剣を抜き、それに続いて後ろにいた兵士達も武器を構えだすと、それを見て住民達も自衛の為に武器を構える。
と言っても、住民達が構えているのは、なんか先端が丸く二股になっている槍の様な物で、あの槍に殺傷力がある様には見えない。
だが、兵士が持っているのは刃が付いている真剣。
このまま戦闘になれば、住民に被害が出てしまうだろう。
そう思った時には身体が動いていた。
一気に兵士の一人に接近し、その腕を掴んで捻り上げる。
「双方そこまでだ! 町中で剣を抜くなんて何を考えている!」
「イデデデデッ! な、何しやがる!?」
平時の町中で剣を含む武器を抜くなんて事をすれば、普通なら一発で衛兵を呼ばれて牢にご招待される。
勿論、非常時であったり、襲われて自衛の為であればちゃんと釈放されるんだが、今回はどう考えても問題がある。
当たり前だが、衛兵や兵士だって、町中では武器が簡単に抜けたりしない様に、鞘に結び付けて固定したり、長物であれば刃先を専用の入れ物にいれて固定する。
そうして殺傷力を極力無くす必要がある。
そう考えれば、住民達が構えた槍らしき物の様に、そもそも殺傷力が無い武器と言うのは有効だろう。
「俺達の邪魔をするとは! もう構わん、全員思い知らせてやれ!」
先頭に立っていた兵士の号令で、鎧を着ている兵士共が斬り掛かって来るが、こうなってしまえば、俺達は自衛の為に実力行使をしても問題が無くなるのだが、クリファレスの兵に大怪我をさせると、後々面倒な事になる。
「全員抜剣せず取り押さえろ!」
「「「「「応!」」」」」
対して俺の号令を受けた黒鋼隊の兵達は、俺の思惑を読み取ったのか、全員が武器を鞘に納めた状態のまま、応対する事になった。
本来は俺自身も戦うべきなんだが、最初に腕を掴んだ兵士を押さえるので精一杯だ。
と言うかこの兵士、見た目そこまで大きくねぇのに凄まじく力が強ぇぞ!?
捻り上げて握っている俺の手から、ギチギチと音がする。
このままだと掴み切れず、この兵士が自由になってしまう。
そこで、相手の背後から肩に手を置いてそのまま地面に押し倒し、膝を相手の背中に置いて全体重を掛けて、完全に身動きが取れない様に拘束した。
兵士がかなり暴れるが、背中側に大人が一人乗っているというのはかなり重く、いくら鍛えていても早々立ち上がるのは不可能だ。
こんな事なら、最初から『強化外骨格』を着ておくべきだったな。
若干、後悔しながら周囲を見回してみると、流石は
剣を振って来た兵士達をあっさりとぶん投げ、地面を転がった所を二人掛かりで頑丈な縄でギチギチに拘束し、身動きを出来なくしてから地面に転がしている。
そうして、暴れようとしていたクリファレスの兵士全員を、あっさりと拘束して地面に転がす事に成功した。
「バードラム様、勝手に動くのはいくらなんでも無茶し過ぎですぞ! 運良く拘束が出来たから良いものの、もしもの事が有ったらどうするのですか!」
そう言ってやって来たのは、今回、黒鋼隊のお目付け役として養父から付けられた、『タイラー』と言う黒鋼隊の隊長格の一人。
実力もあり判断力もあると養父が信頼している一人で、今回の派遣に関しても、迷ったら相談すると良いと言われていたんだが、勝手に動いてしまった事を叱責されてしまった。
もし、俺が拘束出来ず、クリファレスの兵士によって怪我をすれば、それは俺の責任となるだけではなく、『シャナル』を治めている町長であるミアン様や、警備を任されている衛兵にも、職務怠慢と判断されてしまう。
何より、あの養父が黙っていないだろうし、黒鋼隊全員を引き連れてクリファレスへと報復しに行く可能性だってある。
クリファレスへの恨みは、これまでの事から積み上がっているだろうし、確実に報復しに行く。
「すまん。 取り敢えず、コイツ等は全員衛兵に突き出し、ミアン様の判断を仰ぐとしよう」
「でしょうな。 では、全員連れていけい!」
タイラーの掛け声で、黒鋼隊の兵士達が縛り上げたクリファレスの兵を、二人で持ち上げてそのまま運んでいく。
俺自身はタイラーと共に住民達に頭を下げ、衛兵がやって来たら状況の説明と、もし詳しく話が必要であれば町長の屋敷にいると伝えてくれるように頼んでおいた。
住民達は、その頼みを快く引き受けてくれたので、俺達も兵士の後を追って町長の屋敷へと向かう事にした。
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