第369話




 さてさて、シャナリー殿に怒られたのじゃが、無事にオーガもとい、鬼の子供達を神社に預ける事が決まったのじゃが、瑠璃殿達はどう教育するつもりなのか聞いて見たのじゃ。

 そうしたら、『まずは寺子屋に参加させる前に、ある程度の読み書きを教えつつ、人里で生活する上で必要な事を教えるつもりです』と言っておるが、子供とは言え、鬼の子供じゃからかなり力が強く、癇癪を起こしたら大変じゃと思うんじゃが、そこは紅殿が対応するらしいのじゃ。

 聞けば、紅殿の実力はかなり高く、嘗て、この地上で暴れ回っておった『神獣』を、シャナリー殿の指示で一人で叩きのめし、大人しくさせた事があるという。

 その時に使っておったのは、凄まじい強さのハルバードじゃったが、流石にそんな物を地上で使う訳にもいかず、今は掃除に使っておるモップじゃが、それでも普通に魔術を斬る程度の事は出来るらしい。

 神社で一緒に暮らしておるリュミー殿達3人娘も、紅殿から自衛の手段として、護身術を教えてもらっておるので、鬼の子供が癇癪を起して暴れても、普通に制圧する事は出来るだろうとの事。

 そうして、洋服や生活必需品を買い集めた後、無事に鬼の子供達を神社に案内し、今後は此処で暮らして勉学に励みつつ、休日や暇が出来たら『妖精の森』に行ってアミア殿の手伝いをする事になったのじゃ。

 因みに、子供達の洋服は和服では無く、男児はシャツやズボン、女児はシャツにスカートと言った普通の服装じゃが、アミア殿は瑠璃殿達を見て和服に興味を持ち、和服も買おうとしておったのじゃが、『シャナル』の洋裁店でも和服は販売しておらず、瑠璃殿がアミア殿を採寸して作ってくれる事になったのじゃ。

 鬼の子供達は意外と真面目に瑠璃殿達の授業を受け、直ぐに必要最低限の読み書きが出来る様になって、親衛隊が経営する寺子屋に参加する事になり、『珍しい種族ですが、心配しなくても大丈夫です』と瑠璃殿が直接説明した事で、あっさりと受け入れておった。

 授業を受けておる様子を見ておる限り、問題は無さそうじゃな。




 ただ、鬼問題は解決したのじゃが、この裏では別の問題も起きておった。

 実は、ワシが『妖精の森』に行って家作りを手伝っておった時、冒険者ギルドでベヤヤに突っかかった馬鹿冒険者がおったらしい。

 その時の口振りから、突っかかった馬鹿共はクリファレスからやって来た者達らしく、ギルド内におったベヤヤを見て、いきなり攻撃を仕掛けて、あっさりと返り討ちにあったのじゃが、『覚えてろ!』と小悪党の捨て台詞を残して逃げたらしいのじゃ。

 その返り討ちと言うのも、ベヤヤが持っておった炒ったコボルト豆を指で撃ち出す『指弾』で、一人一発と言うなんとも情けない強さじゃった。

 何でそんな物を持っておったのか聞けば、昔、コボルト豆をどうにかして喰えないか試していた際の残りらしく、最終的には砕いて畑に撒く予定らしいのじゃが、今回突っかかって来たような『弱い冒険者相手に使えそうだ』、と言う事でしばらくは隠し持っておる事にしたらしい。

 しかし、クリファレスから来たという事は、何とか間に合ったという事かのう?




 町長が住む屋敷の一室で、私は差し出された書状を受け取って読んだのだが、事前に予想していた通りの内容だった。

 曰く、クリファレスの地方で危険な魔物を討伐していたが、包囲網を突破した魔物がバーンガイアへと向かってしまったので、此方の騎士団が責任を持って討伐するので一時的に滞在を許可し、滞在中に掛かった費用については、後日、国の方に支払うので、暫くは立て替えておいて欲しいという。

 中々、此方を舐め腐った内容だ。

 本来なら、今回の件は完全にクリファレス側の失態であり、書状にはまず謝罪、そして騎士団が滞在する最低期間を書いて、滞在資金を最低限でも持たせるのが普通だ。

 だが、この書状には滞在期間も何も書かれておらず、読み方によっては、いつまでも騎士団が居座り続け、滞在中に掛かる費用も踏み倒すつもりとも取れる。

 本来なら突っ撥ねる所だが、相手はバーンガイアよりも遥かに強大なクリファレス。

 そして、今あの国を支配しているのはあの外道であり、突っ撥ねれば、それを理由に戦争を仕掛けて来ると考えられる。

 それが分かっているのか、この書状を持ってきた騎士団の団長と名乗った男は、薄気味悪い笑みを浮かべながら私の方を見ている。


「………話は分かったが、許可を出す前にいくつか質問しても良いだろうか?」


「えぇ、構いませんよ」


「まずは、滞在期間が書かれていませんが、どの程度の期間、此方に滞在するつもりですか?」


 この男に謝罪を求めた所で、どうせ真面に謝罪などしないだろう。

 私の質問を聞いて、男が顎に手を当てて考えている。


「取り敢えず、逃がしてしまった魔物を討伐し、安全と判断出来るまで、ですかねぇ」


「随分と基準が曖昧ですね……まぁそれでも良いでしょうが、次に滞在に掛かる費用ですが、どの程度を予定していますか?」


「どの程度とはどういう?」


 この男、私の質問内容が理解出来なかったのか、首を傾げている。


「人が生活をする以上、どうしても金は掛かる物です。 宿代、食費、消耗品、一体どの程度までを額の限度として考えていますか?」


「あぁ成程、そう言う意味ですか。 陛下からは自由にしろと言われていますが、そうですね……一人、日に金貨数枚と言った所ですかね」


「ふむ、では最後の質問ですが、どうやって探すつもりですか?」


「まずは冒険者ギルドで目撃者を探してみますよ。 冒険者と言うのは多いですからね。 それで情報が無ければ周辺地域に潜伏出来る場所を探して、そこを調べる形になりますかね。 勿論、これは此方の責任なので、其方の協力はいりませんよ?」


 この男はそう言っているが、国境沿いの森にいる仲間に接触するつもりなのだろうから、我々の仲間に付いて来られるのは邪魔になるから、協力しなくて良いと言っているのだろう。

 しかし、この男の目論見は、此処にやってくる前からもう破綻している。

 この男達が来る少し前、あの男ムッさんの部下から、『森の中のは多分終わったと思う』という報告を受けていた。

 最終的に、森の中のゴミは5ヶ所に分散して隠されていたらしいが、綺麗に掃除をして塵一つ残していないという。

 つまり、後はこの男達をどうにかしてしまえば、クリファレスから何を聞かれても『勝手に行動しているから我々は知らん』と言い張れば良いだけになる。


「一応、此処には希少な種族が住んでいる森が立ち入り禁止になっているので、そこには立ち入らない様にして欲しいのだがな」


「えぇ、それは部下に周知しておきますよ。 と言っても、そこに隠れている可能性があれば、探すしかありませんがね。 それでは、我々は行動を開始しますので」


 男が立ち上がって、一礼して出て行くのを見送った後、溜息を吐いて額に浮いていた汗を拭き取った。

 あの男と話している間、妙な悪寒を感じており、男の気配も妙に薄気味悪かった。

 それはまるで、魔物を前にした時の様な悪寒であり、人と話しているのであればあり得ない感覚。

 それに、あの男は此処にやって来て、自分は騎士団の団長であるとは言ったが、最後まで自身の名前すら名乗らず、始終薄気味悪い笑みを顔に浮かべていた。

 しかし、こうなってしまっては、後はあの男を信じるしかない。


「頼むぞ」


 私は窓から外を見上げつつ、そんな事を呟いていた。

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