第368話




 アミア殿と名乗ったオーガの娘に、ワシが作った種族変化ポーションを使ってもらい、無事に種族を『オーガ』から『鬼』に変える事に成功したのじゃが、これでもし見付かっても『オーガではない』と言い張る事が出来るのじゃ。

 後は、アミア殿達の服じゃな。

 今着ておるのは、魔獣の毛皮を加工したズボンとシャツで、ちょっと野性味が強く、小田殿によればオーガがよく着ておる服装らしい。

 じゃから、早急に全員の服装を用意する必要があるのじゃが、そこに関しては小田殿と探してもらう事になるのじゃ。

 そして、一番の問題となる仕事に関してじゃが、小田殿は兎も角、アミア殿達は人間世界の常識を知らんから、いきなり人と関わる仕事をすればトラブルの元になる。

 しかし、人と関わらぬ仕事と言うのは中々無いのじゃ。

 一瞬冒険者になれば、とも思ったのじゃが、確実にトラブルになるじゃろうな。

 冒険者には冒険者のルールがあり、他人が狩猟中に救援を求めていないのに横から攻撃して横取りしたり、勝手に情報を喋ったり、冒険者が高ランクを理由に下位の冒険者を虐げたりと、他にも色々あるのじゃが、オーガの習性と食い違う部分が多いのじゃ。

 例えば、オーガは狩猟中で救援を求めなくても、危険と判断したら攻撃して助けたり、知り得た情報を他人と共有したり、力の強い者が弱い者を従えさせたりする。

 じゃから、彼女達が冒険者に登録したら、確実にルールが分からずにトラブルになるじゃろう。

 少なくとも、人間世界の常識を覚える間は、人と関わるのは最低限にした方が良いんじゃが……

 そうして全員で悩んでおったら、妖精の長が手を上げて、とある提案をして来たのじゃ。

 それが、この『妖精の森』の管理人。

 と言うのも、現在もこの森には他の所から妖精達がやって来ており、どんどん拡張を続けておるのじゃが、その数は長の管理能力を超え始めており、このままだと指示を聞かずに勝手に森から飛び出す妖精が出て来てしまう。

 そこで、森自体の管理を他の者がして、長は妖精達の管理に専念したいというのじゃ。

 当初の予定では、増えてもそこまで多くは来ないだろうと思っていたのじゃが、予想に反して妖精達がどんどんやって来てしまい、拒否する訳にもいかず、どんどん受け入れておったら凄い数になってしまった。

 その妖精達、たまーにというか、しょっちゅうウチの料理熊ベヤヤの所に来て、料理やら菓子を貰っておるんじゃが……

 そう言ったら、妖精達が長の視線を受けて、木の陰に隠れていく。

 長が溜息を吐いておるのを見るに、余程苦労しておるようじゃな。


「後で果物以外にも送っておきましょう……」


 あ、それなら卵が手に入る様になったと聞いたから、いくつか渡してくれると喜ぶと思うのじゃ。

 前々から、卵があれば料理の幅が増えのにとボヤいておったから、渡せば将来的には卵を使った料理が増えるじゃろう。


「私、頑張る!」


 アミア殿がそう言って拳を握るが、アミア殿はそれで良いとして、子供達の方は学校の様なもので教えた方が良いじゃろう。

 しかし、『シャナル』には学校はまだ無いからどうしたものか……


「学習塾の様な物であればありますよ?」


 悩んでおったワシに、ミアン殿が教えてくれたのじゃが、何と、神社におる瑠璃殿達を守ろうとしておった自警団が、更に勢力人数を拡大し、今では依頼を受けたり宿を経営して資金を稼ぐだけでは無く、それでも暇しておる人員が増えた事で、周囲の子供達に簡素じゃが色々な事を教えておるらしい。

 どうして子供達に教える様になったのかと言えば、暇じゃからと神社内を掃除しておったら瑠璃殿達が『手が空いているなら、子供達に色々な事を教えてみてはどうでしょうか?』と提案したらしいのじゃ。

 護る対象達からそう言われ、男共のテンションは爆上がりし、今では子供達を中心に、大人でも希望すれば教える様になっておる。

 なお、瑠璃殿達に邪な気持ちを抱き、授業に参加してあわよくばお近づきに~、なんて不埒な考えを持っておった輩もいたらしいのじゃが、自警団によって見抜かれて叩き出されておる。

 そして、自警団の面々は、平穏に暮らす瑠璃殿達を遠くから見れるだけで満足と公言し、相変わらず自発的に神社の周りを警備したり、初めて訪れる者達に、お参りの作法を教えておるらしい。

 何と言うか、潔いのう。

 それなら、いっその事、子供達を神社に預けてしまうのも手じゃな。

 それに、管理小屋として小田殿とアミア殿の家を作っても、子供達が一緒におっては色々とじゃろ?


「ちょっ、何言ってるんですか!?」


 何か小田殿が真っ赤になっておるが、アミア殿は小田殿の嫁じゃろ?

 それなら、子供がいたら出来ん事もあるじゃろうし、子供達も人間界の常識を直接学べるし、ウィンウィンになるじゃろ?

 ワシがそう説明したのじゃが、小田殿は『いや、嫁とかそう言う事では無くてですね』と言っておるが、最終的に、小田殿が『妖精の森』の管理人、アミア殿が『妖精の森』の管理人代理と言う事になり、早めに家を作る事になったのじゃ。

 今は、中心にある大木に枝を集め、簡素な小屋の様にして雨風を凌いでおるらしい。

 さて、ワシは神社の方に話を通しておくから、小田殿はアミア殿達にピッタリな服を買ってやるのじゃぞー。




 そして、神社にやって来て、瑠璃殿に相談したい事があると伝えた所、直ぐに会ってもらえることになったのじゃが、御神体の巨大水晶がある場所に通され、更に部屋の四方の壁には結界札が貼られ、扉にも中から施錠。

 何と言うか、殊更厳重に閉じ込められたのじゃが、その理由も直ぐに分かったのじゃ。

 御神体の巨大水晶の一面が光って、そこに映ったのは笑顔の『シャナリー』殿じゃが、なーんか額に青筋が見える様な……


『今回の件で、私達の方は凄く、もの凄ーく忙しくなったんだけど? なーんで一言も相談も無しにやっちゃうかなぁ?』


 ぁー、コレは小田殿達をオーガ族から鬼族に種族変更した件で、めっちゃ怒っておるな。

 まぁ今回は完全にワシが悪いのじゃから、素直に謝罪して頭を下げたのじゃ。

 早急に解決せねばならぬとはいえ、この異世界におらん種族を誕生さようとしておった訳じゃから、この異世界を管理しておる女神であるシャナリー殿にも相談してからやるべきじゃった。

 しかし、オーガと鬼じゃからそこまで変わらぬと思うのじゃが……


「オーガ族は魔物ですが、魔女様の変化させた鬼族と言うのは、簡単に言えば、エルフ族、ドワーフ族、獣人族といった『亜人種』という分類になります」


 ワシが呟いたのを聞いたのか、瑠璃殿が説明してくれたのじゃ。

 そして、魔物と亜人の区別の仕方じゃが、何でも、亜人と言うのは全員が何かしらの『職業クラス』を持っておるらしく、『職業』を持っておらねば、その種族は亜人では無いと判断される。

 小田殿は唯一、オーガ族でありながら『職業』を持っておったが、彼は転移者である為、唯一の例外であり、彼がオーガの女子と婚姻して子が出来たとしても、子孫には『職業』は得られず、小田殿だけで終わる筈じゃった。

 しかし、アミア殿と6人の子供全員が鬼という亜人種になってしまった事で、急遽、新たに『職業』を追加する作業が発生してしまい、シャナリー殿達は種族の追加もあって大慌て状態に。

 シャナリー殿が映っておる水晶をよく見れば、その後ろでは大勢が何か作業をしており、紙らしき物が飛び交っておる。


『取り敢えず、変更作業は数が少なかったから何とか間に合ったけど、次から事前に相談しなさいよね!』


 そりゃ勿論相談するつもりじゃ。

 今回は完全に失念しておったのと、同郷の者じゃから急ぎで対応せねば、と言う考えが先走ってしもうたからじゃし、それがなければ、こんな初歩的なミスはせんじゃろう。

 そこ等辺もちゃんと説明したのじゃが、シャナリー殿の視線は冷たい。

 まぁ、やらかしてしまった事はどうしようもないので、今後の事を相談する事にしたのじゃ。


 具体的には、鬼の子供達を神社に預け、学習塾や神社で人族の常識を教え、人族の世界でも暮らしていける様にして欲しいのじゃ。

 実は、ワシが教えればとも考えたのじゃが、ワシの場合、この異世界の常識を知らん部分があるし、偶に遠出する可能性もあるので、ワシが教えるのは限界がある。

 それなら、事情を説明しても問題が無く、信頼しておる相手に預けてしまえば良いと思い付き、こうして神社に預ける事にしたのじゃ。


 最終的に、小田殿も交えて話し合いが行われ、『妖精の森』産の蜂蜜を一定量収める事で、神社で子供達を引き受ける事になった。

 と言うのも、アミア殿の『職業』が、『蜂操者ビーコントローラー』という蜂を操れる『職業』になり、今までは妖精達が気ままに蜂を使っておったから収穫量が安定しておらんかった蜂蜜が、アミア殿が指揮する事で安定した量を収穫出来るようになった為、こうして交渉にも使えるようになったのじゃ。

 まぁ、アミア殿が十分に蜂蜜が採れるのは、もう少し先になるんじゃけど、こればかりは仕方無いのう。

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