第367話
小田殿と足元の魔法陣が眩く輝いた後、その光が徐々に収まっていき、光が完全に消えたのじゃが、別に小田殿の外見は変化しておらんかった。
それを見ている面々は不思議そうな表情を浮かべておるが、ワシは『鑑定』を使って、ちゃんと効果が発揮しておる事を確認したのじゃ。
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名前:
種族:鬼
状態:正常
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うむ、狙い通り種族を『鬼』に変える事が出来たのじゃ。
この先、オーガのままでは疑われた場合に大変じゃから、ワシのポーションで種族を変化させてしまえば良いと思い付き、美樹殿に提案して物を用意すると言って、自宅で作って来たのじゃ。
そして、試験管に小田殿の血液と安定させる為の薬品入れて、変化させるポーションに混ぜる事で本人以外には使えぬ様にしておき、身体の変化を安定させる魔法陣を足元に設置したのじゃ。
ワシのポーションで種族を変化するのは短時間で済むのに対し、種族が変われば身体の中身も変化する事になるので、この魔法陣で体内の臓器などを保護して安定して変化させる物じゃ。
これで、安全に種族を変える事が出来るのじゃが、ワシは小田殿達以外に使うつもりは無い。
コレを使えば、短命種の人間から長命種のエルフとかに種族を変えれば、今より長生きが出来る、と考える輩も出て来るじゃろう。
ワシとしては、そんな事に手を貸すつもりは無いし、しっかりと日々を生きて欲しい。
それに、このポーションは遺伝子の中にある因子によって、種族を変化させる仕組みなので、純粋な人族が飲んだ所でまず変わる事はないんじゃが、利益にしか目が向いておらん奴等にはいくら説明しても無駄じゃろう。
「えーっと、何か変わった……?」
小田殿が不思議そうに自分の身体を触って確認しておるが、まぁ見ただけでは分からんじゃろう。
取り敢えず、ミアン殿に『鑑定』が使える者がおらぬか確認したんじゃが、残念ながらミアン殿の配下にはおらぬらしい。
やっぱり、何処かに所属せぬ在野で『鑑定』持ちと言うのは少ないんじゃな。
しかし、ワシがやった事じゃから、間違いないじゃろうと言われ、小田殿から他のオーガ達も同じように変えて欲しいとお願いされ、用意をしてから『妖精の森』に向かう事になったのじゃ。
そして、ミアン殿に材料を聞かれたのじゃが、ワシの師匠が残したレシピにあったという事にして、その材料を全てでは無く、途轍も無く面倒な物ばかりじゃと答えて、今回の必要分でギリギリじゃと言っておいたのじゃ。
中でも教えた面倒な材料として、新鮮な『龍の素材』が必要と言ったら、ミアン殿の眉が動いたのが確認出来た。
ワシの場合、前回の黄金龍殿が残してくれた角やら牙やら爪やらがあって、今回、何とかソレが使えたという事にしたのじゃ。
これで、もしも『作って欲しい』と言ってくる輩が出て来たとしても、『素材が無いから無理!』と拒否する事が出来る。
まぁ素材を揃えて持ってくる猛者が来た場合は、流石に勇気を讃えて作っても良いとは思うが、兄上やヴァーツ殿クラスとかじゃない限り、不可能じゃろう。
龍の劣等種である『竜』や『亜龍』であれば、倒せる者はそれなりにおるじゃろうから、それでは使えぬとして拒否する予定じゃし。
そして、自宅の屋根やら手摺に並んで座り、クッキーを齧っておる妖精達と、裏庭にあるベヤヤ専用の調理場から調理する音を聞きつつ、自宅に入って地下室で必要なポーションを作り、『シャナル』に戻る際に言っておったムッさん用の斧を作る。
作り方としては、イクス殿に渡した大剣と同じ様に、魔粉も使って鍛造をする。
ただし、完全に同じ物では面白くないので、完成品にはギミックを仕込む。
そのギミックは、ヴァーツ殿に渡した
それ以外にも、展開する形状を変化させて、剣、斧、槍と、戦局に合わせて対応出来るようにするのじゃ。
他にも、切っ先の逆側に推進力で威力を上げる為のブースターを搭載し、強化外骨格のパワーと合わせて、異常な程の威力を得る事に成功したのじゃが、この特製斧は強化外骨格以外では使用出来んじゃろうな。
ただ、それの弊害もあり、この斧は柄頭にはクモ吉の糸では無く、強化オリハルコンと強化ミスリルの合金で鎖を作るのじゃが、コレはクモ吉の糸では、ブースターから噴射する火への強度が足りぬからじゃ。
尤も、ムッさんは風属性は持っておるが、火属性は持っておらぬから、途中に属性変換用の回路を仕込んでおく。
後は、ムッさん自身の努力で使える様になって欲しい。
そうして完成した斧じゃが、見た目はメカメカしく……まぁやっぱりと言うか、ムッさんの強化外骨格・改が持ったら、ラスボスとかが使う様な禍々しい見た目になってしまったが、問題は無いじゃろう。
斧を箱に入れ、ムッさんが戻ってきたら渡すとして、次に考えるのは、種族が鬼に変わった小田殿達の仕事じゃ。
小田殿は美樹殿の部下として活動出来るが、他の者は何が出来るじゃろうか?
まぁ実際に会ってから考えるべきなんじゃろうが、もし出来る仕事が無ければ何か考えねばならんのう。
そして、ワシの用意が出来たので『妖精の森』に向かったのじゃが、まぁワシがいない間に凄い森が深くなっておる。
細かった木は太く育ち、下の草ももっさもっさと生えまくっておる。
で、その木々や草の中には小さい妖精達が隠れており、木の上部の側面に見た覚えのない昆虫の様なナニカが見える。
「待ってたのです!」
「長がお待ちなのです!」
「はりーはりーなのです!」
入り口から少し入った所で、奥の方から道案内の小さい妖精が飛んで来たので、全員でその後に付いて行く。
今回、同行しておるのはワシ以外に、美樹殿と小田殿、そしてミアン殿と護衛の兵が数人。
余りに大人数じゃと、良からぬ事を考える奴も出て来るじゃろう。
「お久し振りです。 この子達から話は聞いておりますので、此方に」
そう言って出迎えてくれたのは、この『妖精の森』に住む妖精達を治めている妖精の長。
他の妖精に比べても二回りほど大きく、緩いウェーブの掛かった赤い髪を、今は後ろで纏めているのじゃが、その長が座っているのは、金属質の表皮を持つ大きな蛇の頭じゃ。
うむ、どうやら妖精達は自分達で守護用ゴーレムを作り始めた様じゃな。
辺りを見回せば、空を飛ばずに地面で何かを書いて話し合っておる妖精達や、空を飛んで何かの金属を運んでおる妖精達もおる。
「当初に比べて賑やかになったのう」
「えぇ、各地から此処の話を聞いた妖精達が集まって来ていまして、今は手狭になる前に森を広げている最中です」
その内、エルフの森とも繋がるでしょう、と蛇ゴーレムの上に乗った長が言うが、それはかなりの大きさになるんじゃなかろうか?
しかし、そう考えれば、守護用ゴーレムの数を増やすのは確かに必要じゃが、魔石とかの材料は足りておるのか?
「はい、魔石は町から買い取っておりますし、素材も近くの魔物を狩って、一緒に売り買いしていますから大丈夫ですね」
「成程のう」
長の話からして、守護用ゴーレム以外に狩猟用のゴーレムもおるんじゃな。
まぁあまり目立つと、妖精達を狙っておる馬鹿共に目を付けられる可能性は高いが、ゴーレムの性能と数次第では蹴散らす事も可能じゃろう。
それに、町ではミアン殿が目を光らせておるじゃろうし、この森で採れる薬草とかの素材で助かっておる冒険者ギルドも、定期的に巡回しておるじゃろうから、妖精の密猟は無理じゃろうなぁ。
そうして、長に案内されて到着したのは、守護用ゴーレムの充電装置ともなっている石板の所じゃ。
そこには、簡素な小屋が建てられており、周囲で数人の子供達が妖精達と遊び、小屋の前では、一人の女性が妖精が擂鉢に入れた薬草を擂り潰しておる。
ふむ、あの女性が小田殿の嫁か、随分と活発そうじゃのう。
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