第366話
檻は離れた所にあったから、周囲を薙ぎ払った攻撃では壊れていないが、コイツラが運び込んだ物だから中身はどう考えても碌なモンじゃないだろう。
さっさと片付けようと剣を担いで歩き出した瞬間、既に死んだと思った野郎が、拳を地面に叩き付けた。
「ゲブァッ! 『解放ォォッ』!」
その言葉で、檻に付いていた鍵がガチャンガチャンと音を立てて外れていく。
おいおい、あの状態でまだ生きてやがるのかよ。
だが、あの状態で長くは生きられないだろうと判断したが、檻の中から出て来たのを見て溜息を吐いた。
檻に入っていたのは、『オーガ』なのだろうが、『シャナル』にいるオーガと違って、肌の色は赤黒く、目は血走り、口からは涎がボタボタと垂れて汚ネェ。
ただ、そのオーガ共は全身がボロボロで、その首には黒い首輪が填められている。
成程、『隷属の首輪』で無理矢理従わせてるのか。
……あのクソガキなら何とか出来るか?
『おい、俺の声が聞こえるか? 自由になりたいなら大人しく』
『UUu………RuaaaaaauA!』
俺の声掛けに、戦闘に立っていたオーガが唸り声を上げて俺の方に走って来る。
オダとか言ったオーガの様に言葉が通じれば、無理矢理にでも連れて帰るんだが、こりゃ駄目だな、完全に言葉が通じねぇ。
そして、落ちていた剣を掴んで突っ込んで来るが、剣術の知らない奴が適当に振り回すだけの攻撃なんて全然脅威でも無い。
振り回される剣を片手で掴み、そのまま俺の剣でぶった切る。
そして、俺に向かって次々とオーガ共が襲い掛かって来た。
「か、じゃなかった隊長、大丈夫ですかい?」
積み上げられた木を引き摺って、森から頭、じゃなくて隊長が戻って来た。
ただ、強化外骨格が汚れているから、森の中で連中と戦ったのだろうが、無事に戻ってきたんだから勝ったんだろう。
もしかしたら、連中に逃げられて戻って来たのかと一瞬思ったけど、隊長の強化外骨格はあのチビ姉御が作った物だから、アレから逃げ切るなんて無理だし、元野盗だった隊長から逃げ切るのは無理だろう。
俺達が使ってる『えぐぞすーつ』は、チビ姉御じゃなくてミキ様が作った物だが、それでも相当強くなってるのに、チビ姉御が作ったのなんて、誰も勝てねーよ。
「ちっと手間取ったが、まぁ問題ねぇ。 それより、この木材何処に置いとけば良い?」
「あ、そっちに置いてくれれば、後は俺等が運んどきます」
「んじゃ任せた。 あ、そういや、バレン達はどうした?」
「バレン達なら、なんかロビーが隊長から頼まれたから一緒に付いてこいって言って、何人かで町に向かいやしたけど……」
ロビーの奴、森から戻ってきたらすぐにバレン達を連れて町に行っちまったけど、一体何を頼んだんで?
そう聞いたら、隊長は『少し気になった事があってな』って言って、教えてはくれなかったが、まぁ、隊長がそう言う時は、大抵、碌でも無い事が起きた時に限る。
つまり、深く追求したら駄目って事だ。
「さて、それじゃ、ドワーフ共にこれで足りるか聞いてくるか」
隊長がそんな事を言いながら、半分ほど解体が終わっている砦に歩いて行き、木材を運ぶ様に指示を出してから、俺もその後を追い掛けた。
国境沿いの関所に、魔女様の部下である『重魔機部隊』を送り、表向きには関所にある砦の再建を依頼し、裏では来るであろう
『重魔機部隊』は重犯罪者奴隷である元野盗連中によって構成されているが、奴等は魔女様やミキ殿にも従って、この
そして、今回の裏の依頼の報酬として、ヴァーツ様に減刑を考えてくれるように書状を書いて送っておいたが、ヴァーツ様がどう判断するかは分からない。
まぁ、いきなり無罪放免となる事は無いとは思うが、刑期は短くはなるだろう。
そう思って屋敷で書類仕事を片付けていたのだが、その『重魔機部隊』に所属している一人が緊急の報告がある、と戻って来たと報告を受けた。
裏の依頼を失敗したのかと思い、急いで会う事にしたのだが、その報告を聞いて頭を抱えた。
別に、本隊と別動隊が分かれていたからと言う訳ではなく、まさか既に領内に入り込んで、危険な魔獣か魔物を準備していたとは思わなかった。
だが、報告をしに来た男によれば、別動隊は全滅させるが、本隊をどうするかの判断が欲しいらしい。
それを聞いて少し考える。
恐らくだが、本隊は正式な命令を受けているから、堂々と街道を通って来る。
となれば、別動隊を潰したように密かに排除する事は不可能だろう。
しかし、考えてみればコレは好機でもある。
相手の狙いは、クリファレスから逃げて来たオーガの討伐であり、別動隊が確保していたのもオーガだろう。
その捕らえているオーガを、本隊が町に到着したら解き放ち、『責任を取る』という形で本体を常駐させて、内部から食い荒らす。
だが、その根拠となるオーガは、別動隊諸共既に存在せず、正当な理由もなく本隊が居座り続ける事も出来ない。
問題はオダ殿達だが、本隊が町にいる間は『妖精の森』に滞在してもらい、『妖精の保護』を理由に森への出入りを全面禁止する。
それでも潜入しようとするだろうが、もし森に入れば容赦せずに排除してしまえば良い。
此方としては、事前に『危険だ』と警告しておけば、後は奴等が警告を無視して自爆しただけと主張する事が出来る。
「よし、本隊は恐らく街道を進んで来るだろうから、我々が相手をする。 手出しはしない様に伝えてくれ」
「了解でさぁ」
「あぁ勿論、街道を進まずに来たら判断は任せる、とも伝えておいてくれ」
私の言葉に、男は頷いて館から出ていく。
さて、後はその本隊とやらが何処にいるかだが、それらしき報告は受けていない事から、向かっているとしてもまだ遠いのだろう。
だが、本隊が来るという情報を事前に知れたのは大きい。
いきなりやって来られた場合、準備も無しに相手をする事になって、オダ殿達を匿う時間が無くなってしまう。
しかし、こうして知れた以上、時間は我々の味方となる。
「さて、オダ殿には早急に移動して貰わねばならんな」
そうして、私は急いでミキ殿達がいる施設へと向かう事にした。
仕事場のドミニクには悪いが、『シャナル』の危機でもあるので、もうしばらく一人で頑張ってもらおう。
何、書類仕事で死にはしないし、この仕事が終われば、酒場のツケ代程度は免除してやろう。
そして到着した施設で、私はミキ殿達がいる部屋に案内されたのだが、そこにはオダ殿と何故か試験管を持った魔女様もおり、オダ殿の手には何やら紫色の液体が注がれたカップが握られ、足元には魔法陣が掛かれた木の板と魔石が置かれていた。
これは一体?
「あ、ミアン様」
ミキ殿、コレは一体何をしようと言うのだ?
少なくとも、足元の魔法陣に書かれた魔法文字は私も見た事も無く、どんな効果がある?
「あの後、魔女様が小田君達の事を考えて、特殊な『魔法薬』を作ってくれたんですが、かなり面倒な物らしくて、数が無いそうなんです」
ふむ、特殊な魔法薬だと?
魔女様、それは一体どんな効果があるというのですかな?
そう私が魔女様に聞くと、魔女様は持っていた試験管の中身を、オダ殿が持っていたカップに注ぎながら答えてくれたのだが、それは非常に驚愕する内容だった。
「まぁ言ってしまえば、この魔法薬と魔法陣は、摂取した者の種族を変異させる事が出来るのじゃ」
カップからボンッと音を立てて白煙を上げ、紫色だった中身が青く変色していた。
だが、『種族を変異させる事が出来る魔法薬』など、私は聞いた事が無い。
しかし、我々の常識が通用しないのがこの魔女様だ。
そして、促されるままにオダ殿はカップの中身を飲み干すと、足元の魔法陣が光り出し、オダ殿も眩く光り始めたのだった。
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