第364話
崩れた簡易砦は順調に解体され、現在はドワーフ共によって、使える石材と使えない石材を選り分けられている。
小型の金槌で軽く叩き、その音で罅が入っているのかを聞き分け、見ただけでは分からない内部の罅や空洞を調べる方法だが、そんなのはドワーフにしか出来ない。
まぁそれで選り分けたんだが、かなりの量が『使えない』としてゴミになったが、なんでもオダが再利用したいから『シャナル』に送るという。
ゴミになる石材なんて使えないと思うんだが、何に使うんだ?
取り敢えず、図面を見てドワーフ共が必要な数を計算し、足りない分を『シャナル』に要求して、それが届いたら本格的な建造が始まるんだが、まだまだ掛かりそうだな。
そして、俺は今日も今日とて森の中で木材集め。
そこそこ奥地で大木を切り倒し、枝を払って持ち帰るが、一本一本運んでいたら時間が掛かって仕方無いから、途中に集めておいて、後で一気に持ち帰っている。
「かし、じゃなくて隊長、それっぽい奴等を見つけましたぜ」
そうして集めた木を積み上げていたら、部下の『ガラン』が森の中から戻って来て、待ちに待った報告をしてきた。
これでやっと、退屈な樵作業から解放される。
切った木を置いてから案内してもらうが、森の中をかなりの距離を歩く。
そして、かなり遠い場所にそいつ等はいた。
こんな森の中なのに全員が白い鎧を身に着け、焚火で肉なんか焼いてやがる。
そして、そいつ等の後ろには何かが入ってる檻が見える。
余りにも不自然な連中だが、本当に奴等がそうなのか確かめたのか?
「へい、『ロビー』の奴が、奴等の話を盗み聞きして確認しやした。 ただ、どうにも奴等は別動隊みたいで、本隊は別にいるみたいですぜ」
チッ、此処で全員を殲滅出来ないのは当初の予定外だが、それは俺の知ったこっちゃねぇな。
その本隊の方は見付かってねぇのか?
そう聞いたら、ロビーの奴が盗み聞きした話から、本隊は街道を進んでいて、此処に居る別動隊は別の任務を与えられているだけの様だ。
その任務が、本隊が『シャナル』に到着したら、あの檻の中身を解き放つ事らしい。
「どうしやす?」
よし、お前は一旦、ロビー達と合流した後『シャナル』に戻って、本隊が別行動してるってあの女町長に報告しろ。
俺は、予定通りコイツ等を片付けてから戻る。
「了解しやした」
ガランの奴に指示を出して、この場から去っていくのを確認した後、強化外骨格・改から出て、満充填状態のブルーメタルを交換しておく。
交換しなくてもまだ大丈夫多とは思うが、あいつ等の実力が分からん以上、戦闘中に足りなくなったら問題だ。
切り札の『
よし、ヤるか。
この日、俺達は隊長の命令で森の中で待機していた。
今回の作戦は、
それに、この森にいた魔獣や魔物とも戦ったがそこまで強くはないし、この程度の相手に苦戦する様な連中であれば、別にこんな回りくどい事をしなくても良いと思う。
だけど、陛下の命令は絶対だ。
『GYAUUUU……』
「チッ、うるせぇんだよ! 餌ならさっき喰っただろうが!」
ガンッと檻を蹴り飛ばして静かにさせる。
今回の作戦の為とは言え、前の殲滅作戦で全部は殲滅せず、一部をこうして捕らえているが、うるせぇし餌代は掛かるして手間が掛かる。
まぁ今は『首輪』で支配してるから、言う事は聞いてるがイラついても処理出来ねぇのが一番腹が立つ。
「うるせぇぞ、少しは静かにしやがれ!」
「テメェこそ静かにしやがれ!」
「アァ!? テメェブッ殺すぞ!?」
前から気に入らないとは思ってたが、コイツはマジでムカつく。
そう思って剣に手を掛けた瞬間、俺の背筋がゾクッとした。
思わず振り返ると、そこには巨大な剣を持った副隊長がいた。
「…………」
「じょ、冗談でさぁ」
「そ、そうですぜ」
思わずそう言うと、副隊長は何も言わずにその場にあった切り株に腰掛けた。
ふぅ、あぶねぇ。
副隊長は普段は何も言わないが、隊長を除けばこの部隊の中で一番ヤバイ。
前に副隊長に突っかかった馬鹿がいたが、『では死ね』と一言だけ喋って斬り殺されたんだが、その動きが一切見えなかった。
それ以外にも、騒いで副隊長の機嫌を損ねたりすると、容赦なく斬り殺したりするから、今では誰も逆らわない様になっている。
この部隊に配属される前の副隊長は、戦争中に戦場で暴れ回り、敵味方関係無く斬り殺した罪で投獄され、収容されていた牢獄でも何人も殴り殺していて、遂に処刑が決まり、処刑執行を待っていた状態だったが、陛下がくださった『強化薬』を飲んで生き残り、その実力を示し、陛下に忠誠を誓った事で、陛下直属の『ブレイブ・ナイツ』の一部隊の副隊長になっている。
この部隊にいる連中は全員が過去に罪を犯し、投獄されて処刑を待っていた奴等ばかりで、他の部隊は『強化薬』を使う前は全員雑魚だったり、何かしら問題を起こした連中だが、全員に共通しているのは、『強化薬』をくださった陛下に忠誠を誓っている事だ。
かくいう俺も、部隊の物資を横流しして金を手に入れていたのが上官にバレて、戦場のドサクサで上官を始末したんだが、それを別の奴に見られてしまって、戻ったら拘束されて牢獄送りになり、他の連中と同じ様に『強化薬』を使って強くなって、この部隊に所属された。
当然、俺の事を告発しやがった野郎は、所属が決まった時にきっちりと始末しておいた。
その時、野郎は泣き叫んで命乞いをしてやがったが、俺は笑いながら、野郎の四肢をズタズタにして崖から叩き落としてやった。
「しかし、暇だよなぁ……」
思わず呟くが、この森の中にいる魔獣や魔物は、弱過ぎて暇潰しにもならねぇ。
森の奥地に行けば強いのがいるとは思うが、檻があるからこの場からは離れられない。
だから、こうしてずっと待機する事になってるんだが、こんな事なら酒でも持ち込んだ方が良かったか?
「………敵だ」
そう呟いた副隊長が立ち上がって、地面に刺していた剣を引き抜いて森の方に向けて構えた。
それに倣って、俺等も武器を構えたんだが、森の中からは気配は感じ取れない。
しかし、副隊長の勘は俺達以上で、そんな副隊長が言うのであれば、森の中に何かがいる事は間違いない。
『へぇ、気配は完全に消してたつもりだったんだがな』
そんなくぐもった声が聞こえた瞬間、森の中から何かが飛来し、俺の隣にいた奴の胴体が上下に真っ二つに両断され、地面には、それをやったと思われる巨大な斧が突き刺さった。
その様子に思わず目を見開いたが、コレは無理も無い。
俺達に支給されてる鎧は普通の兵士や騎士が使ってる物より強度も高く、普通なら両断される事なんてありえない。
ビシャッと両断された奴の臓腑が辺りに撒き散らされたが、俺達はそれを気にする事も無く、森の方に視線を向け続けると、森の中から現れたのは、奇妙な意匠が施された巨大な全身鎧を着込んだ奴だった。
全身鎧が右手を引くと、まるで意志でもあるかのように、地面に刺さっていた斧が急に全身鎧の方に向かって飛び、それを軽々と掴んだ。
そして、全身鎧はその刃部分を確認してから、俺達の方に視線を向けてきた。
『別に俺はお前等に恨みはねぇんだが……俺、いや、俺等の為にココで全員死んでくれや』
そう言った全身鎧は、持っていた血塗られた斧を構えた。
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