第363話




 バーンガイアとクリファレスの国境線にある関所の簡易砦。

 この簡易砦は、平時はクリファレスから来る者達の入国審査をしていたが、以前に勇者が越境する際に破壊された為、今は崩れた砦の隣に簡易の小屋を作り、そこで審査を行っていた。

 当然、砦の復旧もしてはいたが、人手も資材も足らず、あまり進んではいなかった。




 簡易砦跡に到着し、3台の馬車から降りて『エグゾスーツ』を身に着けた奴等が俺の前に並ぶのを確認した後、此処の責任者に渡されていた指示書を渡し、これからの作業の内容を確認させると、ソイツは俺と指示書をチラチラと見る。


「確かに、コレはミアン様の物で間違いない。 では、後は頼むという事で良いんだな?」


「俺等が受けた指示は、砦の再建だけだがな」


 そう答えて、此処で動く許可を貰った後、馬車の前に並んでいた連中の所に行くと、全員が綺麗に整列している。

 こりゃ俺がいない間、みっちりと工兵として教育されたみたいだな。


「よーし、お前等、仕事だ仕事、さっさと始めるぞ」


「「「了解!」」」


 『エグゾスーツ』を来た全員が、崩れた砦跡に向かうのを確認した後、俺とドワーフの連中は、比較的近くの場所に馬車を動かし、そこで馬車を展開する。

 底面にある固定具を引き出して地面に馬車を固定し、壁と天井を繋げていた金具を外し、隣り合わせた2台の馬車同士を繋いで、2台の馬車間の床部分をもう一台の馬車に搭載してあった床板を通し、これで2台の馬車は一つの小屋の様になった。

 この小屋は、仕事が終わるまでの間、俺達が寝泊りする為の休憩所になり、残った1台は俺達の食事とかを作る為の馬車になっている。

 そして、同行してるドワーフ連中は、砦再建の設計図とかを描いており、建造の為に足りない素材とかは俺達が用意する事になっている。


「よーし、ムッさん、俺等は砦の方で使えそうな石材とかを分けるから、まずは森に行ってデカい木を何本か持って来てくれ」


「んなモン何に使うんだ?」


「デカい木は足場、押さえ、柱、何でも使えるから何本でもあって困るもんじゃないゾイ」


 ドワーフ連中はそう言って、ドヤドヤと話しながら砦の方に歩いて行ってしまった。

 まぁ森に行くなら好都合か。

 俺は事前に話を通してあった、部下の数人に声を掛けて同行させ、近くにある森へと向かう。

 この森は薄暗いだけじゃなく、かなり深くて普通なら誰も通らず、かなり大きい木々が残っていて、建築資材としてならピッタリだ。

 言い換えれば、コッソリとバーンガイアに入ろうとする奴等なら、この森を通る事を一度は考えるだろう。

 ただし、当たり前だが森の中には魔物や魔獣もいるし、奥に行けば行く程、危険になっていく。

 特に管理されていない森だと、浅い所でも危険な魔物とかは出て来る事があるから、普通の奴等は入ろうとはしない。


「よし、それじゃ頼んだぞ」


「分かりやしたぜ頭」


 『エグゾスーツ』を来た部下達が、その森の中へと散っていく。

 今回連れて来た連中は、野盗の時に斥候や偵察を担当していた奴等であり、隠れ易そうな場所や、襲撃する絶好の場所を見付けるのが相当に上手い。

 野盗の時はあいつ等の話を元にして、襲撃したり、撤退の時に逃げる道を決めていた。

 そして、連中を見送った俺は、ドワーフ連中に言われた巨木を集める為、強化外骨格を着込んで巨大な斧を担いぎ、今回受けた依頼とはの事を考えていた。




 その日、俺はクソガキと一緒にバートを送り出した後、俺達の制服を作る為に『シャナル』の中にある服飾店に行こうとしたら、俺、と言うか俺の部隊に簡易砦の再建を依頼したいという事で、女町長に呼び止められた。

 再建に参加するドワーフも呼んで詳しい話をする為、俺に屋敷に来て欲しいという事だったが、クソガキは『まぁワシの部下じゃけど、『シャナル』の為じゃし、行ってくると良いのじゃ』と送り出される事になった。

 そして、屋敷に通された後、国境にある破壊された簡易砦をどうやって再建するのか、どういう作業を担当して欲しいのかの話を、そこにいたドワーフから地図と設計図を見せられながら聞いたが、俺達にやって欲しいのは、崩れた砦を解体し、そこから使える建材を運んだり、土台作りを手伝って欲しいという事だ。

 聞けば、俺の部下達はミキの奴に『エグゾスーツ』を渡されて、発展する『シャナル』の建築作業を手伝っていて、今では指示さえすれば十分に建築関連の仕事も熟せる様になっているらしい。

 俺がクソガキに連れ回されていた間、かなりの仕事をさせられていたみたいだな。


「………で、本当は何をさせてぇんだ?」


「おや、よく分かりましたね?」


 ドワーフ連中が退出した後、俺だけが残されたんで、女町長に単刀直入にそう聞いた。

 俺は駆け引きとか、面倒過ぎて嫌いなんでな。


「ムッさん、このルーデンス領を荒らしていた元野盗の頭領で、その魔導鎧を使った実力は随一」


 女町長が机の引き出しから紙束を取り出して、それを見ながらそんな事を言い始める。

 アレは、俺の事が書いてある報告書なんだろうが、一体何を考えてやがる。

 そうしていたら、女町長はその紙束を机に放り捨てた。


「私は、お前達のそのを活用したいと考えている。 ここまで言えば分かるのではないか?」


「…………成程、俺等にって事か」


 この女、今回の問題解決の最短の方法を選びやがった。

 クリファレスからこの町に軍の一部が送り込まれるのが問題というのなら、

 つまり、国境砦の再建は建前で、実際には俺達が密かにクリファレスの奴等を排除する。

 そして、もしこの事がバレたとしても、俺達は重犯罪奴隷であり、脱走して問題を起こしたとして排除も出来る上に、俺達がこの事を言っても、重犯罪奴隷である俺等の言う事なんて誰も信じない。

 成功しても失敗しても、この女には何の問題も無い訳だ。


「恐らくお前は、私がこれを利用してお前達を切り捨てようと考えているだろうが、それは間違いだ。 私はお前達の事を評価しているし、この町の更なる発展には、お前の部下達が絶対に必要になる。 だが、正直な事を言えば、この町の戦力で、複数のオーガを相手にして倒せる者と戦うとなると、その数は限られるどころか、残念だが皆無だろう」


 確かに、この町にも強い奴等はいるが、それは全体の1割以下だろう。

 オダの奴が言ってる事が本当なら、相手はオーガを楽に狩れるような奴等であり、そんな奴等を相手にすれば、勝てたとしても再起不能か、町そのものが壊滅する。


「魔女様達に頼めれば一番なのだが、魔女様はまだ幼い。 こんな裏の事は子供が知るべきではないだろうし、ベヤヤ殿が暴れれば、逆にもっと危険な魔獣がいるとして、更に兵を送って来るだろう」


 女町長がそんな事を言ってるが、あのクソガキなら別に気にはしねぇと思うし、シロクマ野郎が叩き潰した後、次が来ても潰すだけだろ。


「引き受けてくれるなら、お前の刑期に関してヴァーツ様に減刑して貰える様に話を通すが?」


「お前等貴族様が、それを守るって保障は何処にあんだ?」


「ちゃんと誓約書を書いてあるぞ? この通り私の署名もしてある」


 女町長が取り出したのは、一枚の誓約書であり、そこには、『この依頼を達成した際には俺と部下達の減刑を約束する』と書かれ、女町長の名前がしっかりと書かれている。

 つまり、密かに依頼はするが、しっかりとした報酬は約束するという事だ。


「……良いぜ、やってやるよ。 だが、方法は俺に任せてもらうのと、もし失敗したとしても、俺等に文句を言うなよ?」


「そこは分かっている。 この話自体、もしもに備えたものだし、時間的に間に合っていない可能性もあるからな」


 そうして、俺は砦周辺の詳しい地図を受け取り、部下達を集めて砦再建の依頼を受けた事を説明し、3日後に出発するから準備をしろと伝えた後、同じ様にクソガキに女町長から再建依頼を受けた事を伝えて、暫く町から離れる事を言っておく。

 そしたら、『そうか、気を付けてのう』なんて言いやがったが、別に裏の依頼を教える必要も無いから、必要があったら砦まで来いって伝えておいた。

 必要な準備を終えた俺達は砦に向かって出発し、その準備の間に斥候役をしていた部下を集めて、本当の依頼内容を伝え、地図を見せて何処に潜んでいる可能性があるかを事前に考えさせた。


 さて、クリファレスの連中は本当に来てんのか?

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