第361話
切っ掛けは何かは分からぬが、クリファレスはルーデンス領を落とす為に、ワザとオーガを見逃し、ルーデンス領へと向かわせる道以外に騎士を配置すれば、逃げたオーガ達は自然とルーデンス領に向かってしまう。
コレをワシ等は調べる事は出来ぬし、相手が『危険な魔物を討伐する為』と言う理由では、拒否する訳にもいかん。
勿論、町の中で行動を制限する事は出来るじゃろうが、町の外ではそれも難しい。
かと言って、監視を付けるにしても人数が分からんし、多ければ監視も出来んし人員が足らん。
となれば、どうするべきかと言う事を、急遽呼んでもらったミアン殿と相談しておるんじゃが、一向に決まらん。
コレは困った事になった。
「取り敢えず、小田殿の事は早急にヴァーツ殿に報告し、やってくるであろうクリファレスの事も考えねばならんのう」
「私は、何処で報告が変わってしまったのかの調査もしなければなりませんね」
ミアン殿がそう言っておるが、まぁコレに関しては悪気があったとは思えんが、ちゃんと同じ報告をせねばならんから、調査自体はした方が良いじゃろう。
どういった処分になるかは、ワシには分からんけど。
しかし、ヴァーツ殿に報告するのは早い方が良いんじゃが、今から出発しても時間が掛かる。
ベヤヤが全力で走れば、確かに短縮は出来るんじゃが、もしもの時に備えてワシは残りたいし、かと言って他の者では多分、途中で振り落とされて全身ヤスリ掛けをする事になるじゃろうしのう。
やはり、通信用の魔道具は作った方が良いかもしれんが、問題はどうやって距離を稼ぐかじゃなぁ。
マナを電波の様に飛ばすとしても、最初に大パワーで送信する必要があるから巨大な魔石が必要になる。
かと言って小さい魔石が使う場合、途中途中で増幅させる為の魔石を内包させた中継器を置く事になり、確実に盗まれるじゃろうな。
まぁここら辺は後々考えるとして、今はどうやってヴァーツ殿に報告するかじゃ。
一応、ムッさんの強化外骨格・改に開発中の追加パーツを取り付けて走らせれば、ベヤヤ並に早く移動は出来るんじゃが、ムッさんは重犯罪奴隷じゃから、勝手に一人で行動させる訳にはいかんのじゃよ。
その日は家に帰って、どう対策すべきかを悩みつつも、ヴァーツ殿に約束しておった『洗脳』対策として魔道具を作ったのじゃが、デザインは目立たぬ様、あまり飾り気の無いブローチ型にしておいた。
赤子用の魔道具は、デザインをどうするか悩んだのじゃが、カチューシャの様にして、アクセントに小さい魔石を付けたのじゃ。
効果としては、着用者の精神を穏やかにし、不安を軽減する程度のものだけにしておいたのじゃ。
そうして悩みながら過ごし、時たま美樹殿の所に顔を出しておったら、バートが『シャナル』に到着して、ワシ等を探しておる事が報告された。
ふむ、コレはもしかしてどうにか出来る？
「師匠達、何を話してたんだ？」
案内されたバートが、初見の小田殿に驚き、そんな事を言っておったので、これまでの事を簡単に説明すると、腕を組んで唸っておる。
「で、どうすんだ？ やっぱり師匠達が走って報告しに行くのか？」
「いや、申し訳無いんじゃが、バートに頼もうと思う」
「俺が行くのは構わないが、行くとしても時間が……」
「そこは問題は無いのじゃ。 ワシが作った強化外骨格用の追加部品があるから、それを付ければかなりの速度が出せる様になっておる」
ワシがそう言うと、バートの視線がジトーッと冷たい。
なんじゃ、その視線は。
「いや、どんなぶっ飛んだ部品なんだよ、ソレ」
大丈夫じゃって。
一応、試験は済んで安全は確認してあるから、問題は無いのじゃ。
取り敢えず、取り付けて説明するから、バートの強化外骨格を出して欲しいのじゃ。
ワシが急かすと、バートは訝しみながら、鞄の中から強化外骨格を出したのじゃが、それを見た小田殿が『おぉーアイア〇マンだ』と興奮しておる。
これは後で小田殿用の、オーガのパワーをより強化する強化外骨格でも作ってやるかのう。
しかし、バートはあの模擬戦の後、独自に改造しておるかと思ったんじゃが、殆ど弄っておらんみたいじゃな？
「時間が無くて、大規模な改造は出来なかったんだよ。 だから、素体に戻したままなんだが……これだと追加部品は付けられないのか？」
「いや、寧ろ素体状態の方が追加部品は付けやすいから、こっちの方が助かるのじゃ」
強化外骨格を自立させた状態にし、鞄から追加部品を取り出し、ムッさんの協力の元、どんどん組み付けていく。
そうして取り付けが終わった強化外骨格じゃが、背中に巨大な可動ユニットが取り付けられ、両足の脹脛の部分にスカート状のカバーが付き、両肩部分にはバランスを取る為に重力魔術を付与したバランサーが付けられた姿となっておる。
簡単に言えば、ムッさんの強化外骨格・改の様に、僅かに空中に浮かび、背部巨大ユニットで加速、両肩の重力バランサーで姿勢制御を行う。
ぶっちゃけ、ホバー移動するド〇方式じゃが、〇ムと違うのは背部ユニットが全推進力を賄っており、両足の浮遊パーツは本当に浮くだけで、推進力は全くないという事じゃ。
少しだけバートが強化外骨格を着込んで動きを確認したのじゃが、問題は無いようじゃな。
ただ、このパーツはまだまだ開発途中の試作品に近く、使い方を間違えると大変に危険。
強化外骨格のモニターに追加しておるパワーゲージで、絶対にレッドゾーンには上げない様に注意しておいたのじゃ。
「もしそこまで出力上げたらどうなるんだ？」
「まぁ、お星様になるじゃろうなぁ……色んな意味で」
忠告を無視して上げ続けたら、文字通り消し飛ぶか、重力を振り切って空の彼方に向かってすっ飛んでいくじゃろう。
実はテストをした際、遠隔操作で最大出力を試そうとしたのじゃが、レッドゾーンに到達した時、固定してあった土台を発生した熱で融解させ、危険と判断して止めようとしたんじゃが、完全な暴走状態になって大爆発。
ギリギリで結界を張って被害は無かったんじゃが、結界が間に合わなかったら、あの爆発力なら学園の一部が完全に吹き飛んでおったじゃろうなぁ……
じゃから、絶対に、警告が出たら出力を落とすんじゃぞ？
強化外骨格にもリミッターを付けてあるから、一応大丈夫じゃとは思うが、意識しておくべき事じゃ。
「いや、その説明だと怖ぇんだけど……」
仕方無いじゃろ。
奇跡的に爆発しなくとも、暴走状態の大推力じゃと、星の重力を振り切ってしまうじゃろうな。
もし、あの大推力を暴走させず、自在に使える様になれば、空を自在に飛べるようになるじゃろうが、暴走させぬとあの大推力にならんので、現段階では正直難しいと言うほかないのじゃ。
それに、マナの消費量が馬鹿にならんし。
そうしておる間に、ミアン殿が改めてヴァーツ殿宛てに手紙を書き、移動中に不審者として通報されぬ様に、ヴァーツ殿の家紋が入った旗を立てて、それを掲げながら移動する事になった。
遠くから見ると、まるで戦国時代の旗の様じゃが、コレなら通報される事も無いじゃろう。
バートは、背部ユニット用に大量の交換用魔石とフル充填状態の交換用ブルーメタル、そしてワシの作った魔道具とミアン殿の書いたヴァーツ殿宛ての手紙を鞄に入れ、領都『ルーデンス』に向けて出発したのじゃ。
その際、今回追加した部品は、そのままバートにくれてやる事になったのじゃが、何か思い付いたのかもしれんのう。
バートは盾を前面部に構えた状態にして、少しずつ加速しながら『シャナル』を出発して行ったのじゃ。
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