第360話
「と言う訳で、子供を助けてもらった対価に魔石を払ったんですけど、これからの生活も考えて、遠藤さんが僕の知識を活かした方が良いって勧められて、こうして手伝いとかをしてるんです」
小田殿がそう説明してくれたのじゃが成程のう。
つまり、小田殿は過去に地球に迷い込んだオーガの子孫で、クリファレスの地方に転移してしまったが、そこに先住しておったこの世界のオーガに助けられ、何とかそこに馴染もうとしておったが、余所者を良く思わぬオーガによって追い出されてしまい、離れた所で過ごしておったら、謎の騎士達によってオーガ達はほぼ全滅し、逃げて来た子供達や彼女さんと一緒に此処まで逃げて来たと。
「ぁ、いや、アミアは彼女じゃなくて……」
小田殿は照れておるが、時間の問題とは思うがのう。
しかし、謎の騎士のう……
多分、クリファレスの騎士なんじゃろうが、オーガを倒すのは中々大変なのじゃが、小田殿の話を聞く限り、相当な実力を持っておる様じゃ。
なお、此処で残念なのは、ワシの中で基準となる騎士や兵士の強さの基準が、ヴァーツ殿や黒鋼隊という、ぶっ飛んだ実力者ばかりで、彼等を基準にしてしまうとオーガでも普通に瞬殺してしまうし、ノエルも今なら普通に倒せてしまうんじゃ。
この場に進藤殿がいれば、クリファレスの騎士の強さがどの程度の物なのか、聞けるんじゃが無理じゃからなぁ……
それで、子供はどういう状態じゃったんじゃ?
「原因は、小さい虫でした」
美樹殿が変わって説明してくれたのじゃが、どうやら蚤やダニの様な虫による感染症のようじゃな。
森の中で移動中に噛まれておったらしく、『シャナル』の近くで発病してしまったが、この病気は通常の方法では治療が出来ぬらしい。
偶然、美樹殿の護衛として付いて来た兵士の一人が、昔、似た症状を発病した子供を村にいた老人が、それの治療をしたのを覚えておった。
必要なのは、針と糸と蜜蝋、数種類の薬草。
薬草は一部を刻んで擂り潰し、擂り潰した薬草を絞って汁を集めて糸に吸わせ、針に通して虫に噛まれた部分に刺し、糸だけを皮膚の中に残して針を抜き、蜜蝋で密閉。
薬草の残りはそのまま煮込み、煮汁を冷まして水で希釈して少しずつ飲ませ、この治療を3日も続ければ完治するという。
実際、オーガの子供は、この治療を受けて2日で回復したらしいのじゃ。
回復力が高いのう。
しかし、気になる事があるのじゃ。
クリファレス軍はオーガの住む森を襲撃したという事は、森に住むオーガ達を殲滅するつもりじゃったと思うんじゃが、小田殿達は逃げ遂せておる。
コレではまるでワザと隙を作って逃がしたような……
………いや、まさか、そうなのか?
そうだとすれば、凄まじく最悪なパターンじゃ。
「美樹殿、小田殿達の事じゃが、当然ミアン殿には説明しておるじゃよね?」
「はい、此処に収容して治療するにあたり、ミアン様にも説明はしました。 その後、ミアン様がヴァーツ様にも連絡はしたと思いますけど?」
ふむ、やはり美樹殿は知らぬか。
ヴァーツ殿の所に寄った時、ヴァーツ殿は美樹殿と同胞が現れた、とは言っておったが、その同胞がオーガとは言っておらんかった。
つまり、何処かで情報が歪められた訳じゃ。
まぁコレは悪意があって歪められたというより、流石に信じられなかったから、何かの間違いだろうと考えてしまったのかもしれん。
ワシだって、『実は同胞がオーガでした』と聞いたら、確実に『何を言ってるんじゃ?』ってなるもん。
じゃが、これはミアン殿に早く知らせた方が良い案件じゃな。
「美樹殿、すまぬが急ぎミアン殿を呼んで来てもらえんじゃろうか? もし、ワシの考えが当たっておったら、黄金龍殿並に拙い状況になっておる」
時間は遡り、オーガの集落がある森が騎士達に襲撃を受けたあの日。
白い全身鎧を来た騎士が、剣に付いたオーガの血を振って払い、鞘に戻して周囲を見回す。
そして、溜息を吐いた。
「オーガは強いと聞いていたが、唯の雑魚ではないか」
呟いて、先程まで斬り合っていたオーガを改めて見下ろす。
他のオーガと違って、一際豪華な羽根飾りを被っていたから、一番強いオーガかと思ったのだが、そこまで強い訳でも無く、途中から番と思われるメスが合流して、多少はやりがいがある連携を見せてくれたが、メスを串刺しにして、そのまま共に斬り捨てた。
周囲にいるオーガも、ほぼ全て討伐が完了したが、部下は出していた命令はちゃんと守ったのだろうか?
最近、この森で行方不明になる冒険者が増えた為、冒険者ギルドで調査隊を編成して調査をしようとしていた所に、それを陛下が知ってある作戦に利用する事を思い付き、俺達を派遣する事を決定した。
それを知った冒険者ギルドが何か言って来たらしいが、他の隊が
「団長、こっちの討伐は終わりましたぜ」
「うむ、コレで森の中で集まっていたオーガは殲滅出来たか。 それと……」
「大丈夫ですよ、命令は忘れてませんって」
俺に声を掛けて来た部下が、持っていた槍を持ったまま、頭の後ろで手を組んでふざけた様に言うが、本当だろうか?
コイツ等、偶に俺の命令を無視してやり過ぎる事があるからな。
特に今回は、我等が陛下が直接命令してくださった命令だから、『失敗しました』では済まないんだぞ。
「大丈夫ですって、まぁ副団長がちょっと忘れて、追撃しそうになりましたけど、ちゃんと止めましたから」
そう言っていたら、巨大な剣を持った男が戻って来る。
剣も持っていない手には、斬り落としたオーガの首がぶら下がっているが、本当に追撃していないんだな?
「してませんって、命令通り何匹か逃がしましたよ。 それに、平野の奴等にも見付けても手を出さないように言ってありますから」
部下が『手を出したら、副団長の相手をさせるって脅しておきましたし』なんて言っているが、ちゃんと命令を守っているならそれで良い。
この後は、本当に森の中にオーガが残っていないのか確認した後、予定通り、逃げてしまったオーガを追い掛ける。
まぁ逃げたオーガが、偶然バーンガイアに向かってしまったかもしれないが、越境行為も危険な魔物を討伐する目的がある以上仕方がない事だ。
そうしていたら別の部下達が、集めたオーガの頭から角を斬り落とし、頭と死骸を作った穴の中に放り込んで処分していく。
オーガの角は良い魔法触媒になるが、最近のクリファレスではあまり見かけないから、此処で大量に手に入ったのは嬉しい事だ。
その様子を見ていたら、部下達の数人が何かを引き摺って戻って来た。
部下が引き摺っていたのは若いオーガで、俺が倒した羽根飾りを被っていたオーガより多少体格は小さいが、その体表は赤黒い。
ただし、そのオーガは随分とボロボロで、死んだから引き摺って来たのかと思ったが、生きている様だ。
ふむ、コレは使えるな。
「お前達、そのオーガはどうした?」
「ハッ! 我が方に逃げていたので止むを得ず戦闘をし倒したのですが、トドメを刺すべきか分からなかったので、こうして持ってきたんですが」
俺の部下にしては良い判断だ。
コレでバーンガイアに入った後、コイツ等を使えば怪しまれる事も無い。
実際に、オーガがいる訳だからな。
「他に生き残りはいるか?」
「一緒にいたオーガが数匹生きてますね。 後は、他の奴等が殺してなければ」
「まぁこの数匹だけでも問題はないだろうが、今後は一応、殺さず生け捕りにし、取り敢えず、首輪を付けて生かしておけ。 次の作戦で使うからな」
これから発見したオーガに対しての命令を出し、森の中にどれだけのオーガが残っているのかは分からんが、他にもいるなら捕まえれば、次の作戦に利用出来る。
これで次の作戦は、より完璧に達成出来るだろう。
そして、俺は次の作戦の為に、消耗して必要になる物資を補充する様に、別の部下に対して追加の命令を出していく。
さぁ、陛下の為に、まずは忌々しい『ルーデンス』を落としに行こうではないか!
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