第354話




「クソがぁぁぁっ!!」


 集落からそれなりに離れた場所にある、俺の秘密の隠れ家。

 そこは多分、昔は猪か熊あたりが住処にしていたんだろう洞窟で、今では何も住んでおらず、偶然発見した後は、俺がこっそりと荷物を集めたりして隠れ家として偶に来ていた。

 その中で、俺は怒りで叫んでいた。

 俺は『戦士の儀』で一番の大物を狩り、それを手土産にしてアミアと良い仲になるはずの予定が、あの余所者が生き残った上に、巨大猪を狩ってしまって、アミアの奴と一緒に一番美味い心臓を食べてしまった。

 あれでほぼ確実に、あの余所者はアミアの奴を手に入れるだけでは無く、次期長の座まで手に入れる事になる。

 本当なら、あの巨大猪によって余所者がくたばって、今頃は集落に平穏が戻る筈だったのに……

 巨大猪の肉が集落全員に振る舞われていたが、余所者の施しなんて俺は認める気はないから、一切手を付けずにこっそりと捨ててやった。

 そして、今では集落の全員が余所者の言いなりになって、変な事を始めていた。

 木の皮を剥がし、大事に保管していた革や布と重ねて叩き、変な服を作り始めただけじゃなく、地面を掘り返してそこに薪を並べて埋めて燃やしている。

 他にも、俺達が使っている武器にも口を出し始め、狩猟班の大人達が見た事も無い武器を持っていた。

 このままじゃ、この集落はあの余所者に乗っ取られる事になる。

 だが、あの余所者は狡猾で、集落の主だった奴等を丸め込んでいるから、俺が言っても最早誰も信じないだろう。

 むしゃくしゃしながら、洞窟の中を歩き回る。

 一番良かったのは、『戦士の儀』であの巨大猪にやられてしまう事だったが、よっぽど悪運が強いのか、まさか生き残るとは思わなかった。

 こうなったら、決闘をすれば良いのだが、それにはちゃんとした理由が必要になる。

 そして、『余所者は危険だから』と言うのは理由にはならない。

 そんな理由での決闘を許せば、集落の外からオーガを入れる事が出来なくなる。



 良い案も浮かばず、イライラしながら隠れ家の洞窟を出て、獣が入らない様に入り口を塞ぐ。

 そして、鉈を片手に森の中を歩く。

 この鉈は『戦士の儀』を終えた俺に、親父がくれた物で、俺達オーガの力にも耐えられる様に、特に頑丈に作ってある物だ。

 集落から出る際、『獲物を探してくる』と言ったので、何か適当な獲物を仕留める必要がある。

 適当とはいえ、『戦士の儀』である程度狩ってしまったから探すのは結構面倒だが、何かしらはいるだろう。

 そう考えて残された痕跡を探したが、かなり奥の方に行かないと獲物はいない様だ。

 クソ、余所者は邪魔だし、獲物は見付けられねぇし、ムカつくぜ。

 そうしていたら、何かが燃える臭いがしてきた。

 こんな森の中で、誰か焚火でもしてんのか?

 当たり前だが、森の中で焚火なんて俺達は絶対にしない。

 そんな事したら、火が燃え移って大火事になる事もあるから、大人達から絶対にやるなと教えられている。

 ったく、何処の馬鹿だ。

 そう思って臭いの元の方に向かうと、そこにいたのはオーガでは無く、数名のニンゲンだった。

 ただ、何かと戦った後なのか、全員結構ボロボロだ。

 長老や長、親父みたいな大人のオーガからは、『ニンゲンは襲うな』と言われているが、あそこにいるニンゲンはどう見ても弱っちくしか見えねぇ。

 何であんな弱っちい奴等に、俺達が遠慮しなくちゃならねぇんだ。

 そう思っていたら、なんか余計にイライラしてきた。


『sa=;qs|[:.a1d!』


 そうして隠れて見ていたら、どうやら見つかったみたいで、座り込んでいた弓を持っていたが俺の方を指差して叫んだら、周りにいた奴等も武器を構え始めやがった。

 そして、矢が飛んでくるが遅いし弱い。

 当たりそうな矢を叩き落とし、俺はゆっくりと連中の前に歩いて行く。

 こんな弱い奴等から逃げなきゃならねぇなんて、イライラするぜ。


「オォォォォッ!」


 威嚇の声を上げたら、後ろにいたニンゲンのが悲鳴を上げてコケて、隣にいた男が駆け寄ってやがる。

 もういいや、別に逃がさなけりゃ良いだけだろ。

 そう考え、俺はこのニンゲン共に襲い掛かった。




 意気込んで襲い掛かったが、勝負はあっさりと付いてしまった。

 ニンゲン共は、一番最初にデカイ盾を持った男が俺の前に立ち塞がったが、俺の鉈を叩き込んだらあっさりと盾はぶった切られ、盾男が悲鳴を上げて倒れたんで、そのまま頭を踏み潰した。

 そして、次に弓を持っていた男が何本も矢を撃ってくるが、威力は弱いし遅いんで、何本かは俺の身体に当たっても全然刺さらず、背負っていた投げ槍を掴んでその腹を撃ち抜いてやった。

 トドメを刺しに近付いたら、コケていた女から火の玉が飛んで来たんで、慌てて避けるが連発出来ないみたいだから、男にトドメを刺す前に女の方に一気に近付いて、その頭を掴んで握り潰してやった。

 それを見て弓男がなんか泣き叫んでいるけど、別に気にもならず、そのまま首を斬り飛ばした。

 本当にクソ弱いな、何でこんな奴等に遠慮しなくちゃならねぇんだよ。


 しかし、殺したのは良いが、コイツ等どうすっかな。

 このまま放置しても、他の獣が喰うかもしれねぇけど、その前に他の連中に見付かったら怪しまれる可能性がある。

 取り敢えず、隠れ家に運んでおくか……

 そう思って、ニンゲン共を隠れ家に運んで中に放り込む。

 その途中、担いでいた女の血が顔について思わず舐めとってしまったのだが、その味はまるで極上の肉に匹敵する程の味だった。

 試しに盾男の腕を斬り落として齧ってみたのだが、女の方より味は落ちるが、今まで喰っていた肉が馬鹿らしくなる程の味。

 堪らず、運んだ2を喰い、女を最後に喰ってしまった。

 そして喰い終わった後、俺の身体には劇的な変化があった。

 最初に感じたのは、身体の奥底から湧き上がる様な力。

 拳を握るだけでミキミキと音が鳴り、全身の筋肉が膨張してはち切れんばかりの力が湧いてくる。

 次に、さっきまでイライラしていたのに、今ではスッキリとしていて、嘘の様に心が穏やかだ。

 これは凄い事だぞ。

 しかし、そうなるとどうして大人達は、あんな弱いニンゲンを襲ったり喰ったりする事を禁じているんだ?

 少し考え、俺なりの答えを導き出す。

 恐らく、大人達はニンゲンを喰えば強くなれる事を知ってはいるが、俺等の様な若いオーガに教えて、今の地位から追い落されるのを警戒し、秘密にしている。

 そして、長や狩猟に出るオーガの一部にだけこの秘密を教え、今の地位を守っているのだろう。

 だが、それも此処までだ。

 俺がこの秘密を知ったからには、俺の手下共にも教え、どんどん力を強くして追い抜いてやる。

 それに、戦った感じからして、ニンゲンは群れたとしてもそこまで強くはならない。

 こっちは喰えば喰うだけ強くなれるし、ニンゲンなんて、俺達の獲物にしかならねぇ。

 ニタリと笑みを浮かべ、俺は洞窟の中で歓喜に震えた。

 これからもニンゲンを喰い続ければ、更に力が上がって俺に文句を言う奴はいなくなる。

 そうなれば、この森中に散らばったオーガの集落を一つに纏め上げ、オーガを頂点としたを作る事も出来る。

 最早オーガの長など俺には相応しくない。

 その頂点に君臨する俺は、


「ククク、ハーッハッハハッ!!」


 国の玉座に座った俺の姿を想像し、思わず声を上げて笑い、その笑い声は洞窟中に響き渡った。

 そして、国を作る為には、更に力を蓄える必要がある。

 俺は笑みを浮かべたまま、新たな獲物ニンゲンを探す為に洞窟から外へと出た。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


-人間を食べたら強くなるって言ってるけど何でなの?-


-簡単に言えば、人間はマナを体内に過剰状態で溜め込んでいます。オーガ種に限らず、肉食性の魔物や魔獣なんかは、その過剰なマナを効率的に吸収出来る為、人間などを食べたら強くなる訳です-


-でも、それなら魔物とか魔獣を食べても同じじゃないの? マナを溜め込むのはどっちも同じでしょ?-


-実は、それらは人間と明確な違いがあります。 それが『魔石』の存在です-


-それが?-


-『魔石』と言うのは、体内で過剰になったマナが核を得て凝固した物で、戦闘などの緊急時には『魔石』からマナを取り出す事が可能な、所謂、内蔵式の予備バッテリーの様な物です。 ですが、ここで過剰マナが『魔石』に流れてしまう事で、体内のマナは生活に最適な量までしか溜められません-


-なるほど-


-そして、戦闘時には『魔石』からマナを取り出すので、『魔石』自体にもそこまでマナが残っていません。 ですので、魔物や魔獣を食べたとしても、そこまで力は上がりません。 それに対して人間は、『魔石』を持っておらず、常にマナが過剰状態な上に、体内のマナが減ったとしても、周囲のマナを自然と吸収してマナの回復を行います。 そして……-


-そして?-


-体内マナが枯渇すると、生命の危機になりますので、人間は無意識下で自然と枯渇させないようにします。 ですので、比較的多くのマナが残るので、肉食性の魔物や魔獣が人間を喰うと、魔物や魔獣を食べるより強化される、という感じですね-


-へ~-


-いや、『へー』ってアナタ……-

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