第352話
はい、意気揚々と罠を仕掛けてどうにかしようとか思ってすみませんでした!
巨大猪に追い掛けられ、隙を見て罠を仕掛けるけど、大型ダンプ並の大きさの相手のパワーに勝てる訳も無く、罠に掛かっても、普通に引き千切られている。
手持ちの武器ではダメージを与えられないから、攻撃はせずに罠を仕掛ける事に集中出来るけど、その罠で足止めにすらならないのは大問題。
こういう時、お話の主人公とかだと良いアイデアとかを急に閃いて、強力なモンスターを倒したり出来るって展開が良くあるけど、そんな都合良く閃いてたら苦労しない。
僕に出来るのは、罠を仕掛けながら逃げることだけ。
でも、これだけ罠による足止めが効果が薄いとなると、別の方法を考えなくちゃいけないんだよなぁ。
一応、一度引っ掛かると10秒くらいは時間が稼げるけど、それで逃げ切れる相手でもない。
逃げながら罠を仕掛け、その罠を引き千切られ、と繰り返して気が付いた事がある。
この巨大猪、最初の内は罠を警戒して引き千切るのに時間が掛かってたけど、今では完全に何の警戒もせずに引き千切っている。
使っている罠は、括り罠やスネアトラップなどのロープを使った罠だけど、ロープが植物性だから耐久力はそこまで高くない。
本当は金属製のワイヤーとかであれば、あのサイズの猪でも早々簡単に引き千切れない罠に出来るんだろうけど、無い物ねだりをしても仕方無い。
罠の定番、落とし穴も考えたけど、相手は巨大ダンプサイズ。
そんな巨大サイズを落とせる落とし穴なんて、掘っている時間は無い。
スネアトラップを仕掛け、直ぐにその場を離れると、巨大猪がそこに突っ込んできて、スネアトラップが起動して右前足に引っ掛かるが、そのまま引き千切って僕の方に向かってくる。
アハハハ、どうにもならなーい。
そうして逃げていたら、目の前が急に開けた。
別に森を抜けた訳では無く、そこは森の中を流れている川の上流で、足元にはゴロゴロとした石が転がっている。
コレは罠を仕掛けながら逃げるのには適さないけど、ある意味では幸運だ。
ここは足場が悪く、猪も速度を出せない。
一瞬、この川に潜って僕に付いたであろう血の臭いを消す、なんて考えたけど、この川はそこまで深い訳でも無く、逃げている間に僕自身の臭いを覚えられただろう。
でも、猪の速度が落ちるのは助かる。
それに、この川は集落で水汲みに使っている川でもあるから、ここを逃げれば集落の方にも異常が伝わる可能性が高い。
そう考えて、足元に注意しながら川を下っていくと、後ろの方で『ズガン!』と凄い音が響いて、驚いて振り向くと、そこには、横になった大木を牙に突き刺した猪が……ってまさか!?
「ギュブィィィィィッ!!」
「ちょっ、マジかよぉぉぉっ!?」
『足場が悪い? なら均してしまえ』と言わんばかりに、猪が横にした大木を使って地面を抉りながら、凄まじい勢いでこっちに迫って来る。
その様子は、まるでブルドーザーで砂利を均していくよう。
問題は、均しているのが砂利じゃなくて、一つ一つが拳より大きい石って事だけどね!
慌てて範囲から出るけど、猪はそのまま通り過ぎ、通り過ぎる瞬間に僕の方を見てから方向転換をした。
これってもしかして、木が邪魔になって僕の事があまり見えてない?
……もしかしなくても、これはチャンスなんじゃ?
確かに、この巨大猪の毛皮は強く、アトラトルで撃ち出したショートジャベリンでも傷が付かないし、罠を引き千切るパワーがある。
でも、牙に突き刺した木は森に生えていた普通の木で、それにならショートジャベリンは刺さる。
頭をフル回転させ、どうすれば良いか考える。
そして、遂にこの巨大猪をどうにかする方法を思い付いた。
最初にやったのは、下流に向かうのではなく、反対の上流へと走る。
当然、猪ブルドーザーが追って来るけど、その速度は少しずつ落ちていく。
その理由は単純で、上流に向かうに連れて少しずつ転がっている石が、拳大から子供とか、物によっては大人みたいな大きさになり、流石の巨大猪も1個とか2個ならともかく、ほぼ同時に4個、5個と増えていけば、更にパワーが必要になっていく。
ただ、牙に突き刺している木が耐えきれなくなって砕けた瞬間、僕の命運も尽きる事になるから、これからやろうとしている事の前に砕けないで欲しいと願いながら、良い場所を見付けた。
そこは巨大な岩が3個あり、川幅が狭くなっていて、木々が川の方に迫り出している。
大急ぎでショートジャベリンに、複数のロープを縒り合わせて頑丈にした長いロープを繋ぎ、同じ物を数本作って、ロープの先を巨大な岩に結び付ける。
そして、速度はかなり落ちているけど、変わらずに迫ってきている猪が突き刺している木目掛けてアトラトルでショートジャベリンを連続で撃ち出す!
予想通り、普通の木なんだから、ショートジャベリンは突き刺さるね!
そして、アトラトルはもう使えないからその場に捨て、次の作戦の為にロープを肩に掛けて走る。
ガツンと音がしたから振り返ると、巨大な岩に木が引っ掛かった音で、流石にあの岩を弾き飛ばす事は出来なかったみたいだが、猪は押し退けられないと判断したのか、器用に牙に刺した木を持ち上げて巨大な岩を乗り越えて来る。
ここまでは予想通り。
猪は変わらずに僕の方へと向かってくるが、その速度もかなり落ちている。
流石に、ヘバッて来たんだろうね。
そして、遂に木に繋がったロープが伸び切って、完全に張った状態になって千切れそうに張り詰める音が響いたが、猪は自身の速度と勢いによってその場で鼻面を支点にしてひっくり返った。
一本なら直ぐに引き千切られるだろうけど、寄り合わせて強くしたロープ達は耐えてくれた。
普通、ひっくり返っても直ぐに起き上がる事は出来るが、この巨大猪の場合、牙に長い木を横にして突き刺している関係で、木が引っ掛かって簡単に起き上がる事が出来ない。
だが、このまま放置すれば、牙から木が外れたりして起き上がってしまうのは確実。
その前に、大急ぎで周囲の木にロープを巻き付け、ひっくり返って藻掻いている巨大猪に近付いて、その足にロープを投げて何本も巻き付け、引っ張って固定してしまう。
そうして、完全にひっくり返った状態になった巨大猪だが、その状態になっても頭を振ったりして暴れている。
こうなってしまえば、最早、この巨大猪の脅威は取り敢えず無くなったと考えて良い、と思った瞬間、その場に倒れてしまった。
今まで命の危険を感じていて、興奮状態でアドレナリンが出続けた状態で必死に行動していたから、疲れてはいても疲れを感じていなかったのに、その緊張が解けた瞬間、疲労と緊張の限界で全身から力が抜けてしまった。
でも、この巨大猪どうしよう……
このまま放置する訳にもいかないし、かと言って流石に命を狙われた以上、逃がす訳にもいかない。
仕留めるにしても手持ちの武器では難しいし、集落に戻ってる間に逃げられたりしたら目も当てられない。
そして、周囲を改めて確認すると、川の中で何かが光るのが見えた。
何とか立ち上がって川に入り、光っていた物を拾い上げると、それは、所々がくすんだ薄い青い色をした剣身の折れていた一本の剣だった。
見た限り、人が作った鋼鉄製品かな?
ただ、僕が持っているククリナイフよりも切れ味は良さそうに見える。
試しに、巨大猪の後ろ足の方から近付き、毛を掴んで刃を滑らせてみると、スルリと切れてしまった。
コレなら、猪の毛皮を切る事が出来るけど、次の問題は剣の長さ。
今の見た目は刃渡りが30センチくらいで、元々は持ち手も合わせて1メートルくらいの長さだったのかな?
でも、これでこの巨大猪を仕留めるとなると……
僕は折れた剣を持って巨大猪の頭の方に向かい、猪の首に剣の刃を押し当てた。
「……ゴメンよ……」
そう言って、僕は猪の首に押し当てた剣を勢い良く引いた。
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