第350話




 蒸し暑い日、集落のオーガ達が集会所となった場所に集まっていた。

 その日、朝にアミアがやって来て、急に『集会所に集合!』と言われて来たんだけど何だろ?

 集まっているオーガ達も、何かソワソワしてるし……

 そう思って見回していたら、デイカーと目が合ったんだけど、なんかニヤって笑っている。


「よし、全員集まっているな」


 デイカーの様子も気になるけど、一体何の集まりなんだろうと不思議に思っていたら、羽根冠を被ったラウルさんがやって来て、全員を見回している。

 その手には大きな槍を持ち、『戦士の装い』と言われている鎧の様な防具を着て、その表情はいつもより険しい。

 まさか、何か問題が起きて大規模な戦いがあるとか……


「これより、今年の『戦士の儀』を始める!」


 ラウルさんの言葉を聞いたオーガ達が『オォォォォッ!!』と声を上げて、僕は思わずビクッと肩が跳ねた。

 前から聞いていたけど、『戦士の儀』ってオーガの子供が大人として扱われるようになる為の儀式だっけ。

 地球で言う所の成人式とかそう言うものなのかな?

 そう考えていたんだけど、オーガの『戦士の儀』はそんな生易しいものじゃなかった。

 参加するオーガの子は数日間の間、森に入って各々が獲物を狩り、その大きさで自身の勇気を大人に示し、オーガの中での優劣を決めるのが、オーガの『戦士の儀』なのだという。

 当然、危険でもあるし、過去には多くの子供が命を落としているが、これによってより強く、優れたオーガが残っていく。

 ただ、あまりに弱い獲物を狩っても認められず、何度も失敗すると集落内でも『角落ち』と呼ばれて、額の角を切り落とされ、集落内の雑用係にされる。

 まぁ、ラウルさんや長老が訓練方法を苦心したのか、この集落にはいないんだけど他の集落にはいるらしい。

 隣にいたアミアに説明されて、『へー』って関心していたんだけど、これは過酷な環境で暮らす上で、より強い個体を残そうとするオーガなりの生存戦略なのかな。


「では、戦士として恥じぬ事の無い様にせよ!」


 ラウルさんがそう言うと、狩猟班のオーガ達がそれぞれ狩猟で使う物を、参加するであろうオーガの子供達に手渡していく。

 渡されるのは、長めの槍、毛皮、蔦を編んだ長いロープ、怪我した際に止血等に使う薬草を擂り潰し、脂を混ぜて作った軟膏の様な薬、そして木の実を潰して色々混ぜ込んで焼いた、固焼きクッキーみたいな保存食と干し肉、そして木を削って作られたコップと水を入れる為の小さめの革袋。

 そういった槍以外の道具が大きな革袋に入っている。

 何で分かるのかって?

 僕にも槍と大きな革袋を渡されたからだよ!

 何で!?


「そりゃ、オダも参加するからじゃない」


 アミアがそう言ってるけど、僕は部外者なんだから参加する必要無いじゃん!?

 そう言ったら、アミアがキョトンとした表情を浮かべた後、大きく溜息を吐いてる。


「オダって自分の立場って物を分かってないよね。 この集落でコレだけ貢献してるのに、いつまでも部外者って思われてるワケないじゃん。 それに、オダでも獲物は狩れると思ったから、長も参加を認めたんでしょ」


 参加を希望しても長が許可しなければ、『戦士の儀』には参加出来ないらしい。

 逆に、長が『実力がある』と認めていれば、本人に参加する気が無くても参加させられる。

 ここ等辺はオーガの気質なんだろうけど、日本人の感覚ではすっごい有難迷惑なんだけど!

 でも、ラウルさんが僕なら出来るって思ってくれてるなら、少しは頑張ってみようかな……

 あ、何かやっちゃいけない事とかあるの?


「基本的には何でもアリだよ。 それこそ罠とかも使っても良いけど………あ、一個だけあったわ、毒とかは使っちゃ駄目」


 アミアに注意点を聞いたらそんな事を言われた。

 なんでも、狩った獲物は食べるから致死毒とか使うと大変な事になるし、毒を使うのは勇気とは違うという事らしい。

 とは言っても、獲物によっては毒を使う事もあるらしいけど、それは余程危険なモンスターに対してだけで、これは『狩り』と言うより『駆除』と言う感じ。

 つまり『戦士の儀』では使っちゃ駄目と。

 そうだ、それなら完成したも使ってみよ。

 革袋を背負って一旦自宅に寄って、完成したばかりの自信作を取り出す。


「うっわー、ナニソレ」


 自宅から出ると、アミアが僕の姿を見てそんな事を言って来た。

 まぁ見てくれは良くないのは分かってるんだ、何せ、着れる様になったのが昨日だったからね。

 そう、遂に実用に耐えられそうな状態になったんだけど、見た目までは……


「………なんていうか木?」


 僕が作ってたのは、剣道とかで使う防具みたいなもので、昔の鎧武者が使っていた大鎧と呼ばれる鎧だ。

 ただし、急所の部分は複合装甲みたいに木の皮や布、革を何層も圧着したから、オーガの投げた槍でも完全貫通させるのがかなり難しいくらいの防御力になっている。

 この圧着作業がかなり難しくて、完成したのはこの一着だけで実践テストもまだ。

 そして、見た目が悪いのは、一番外側を木材にしたので、今の見た目は『人型の木』みたいになっちゃってるんだよね。

 本当は、これに色を塗りたいんだけど、乾かす時間も無ければ何色にすれば良いのか考え中だったり。


 さて、問題としてはどうやって獲物を狩るか、なんだけど、僕の場合だと防具を身に着けていても、直接戦闘は避けたい。

 何せ、僕はオーガとはいえそこまで力はないから、直接戦闘になるととても弱い。

 となれば、僕が取れる選択肢は多くない。


 罠、それも仕留める為の罠では無く、動きを阻害したり、拘束して動けなくするタイプ。

 そして、動けなくした所で仕留める。

 なので、狙うのは鹿辺りが良いだろう。

 なんで鹿かと言うと、動けなくさえしてしまえば、僕でも簡単に仕留める事が出来るからだ。

 何せ、この集落近くにいるモンスターで僕らが倒せる様なのって、猪か鹿くらいで、猪の場合だと、仕留めるのがかなり難しい。

 そして、この異世界での猪の場合、凄く頑丈で凄く危険。

 何せ、大人のオーガの全力ですら、仕留めきれない事があるくらいなんだ。

 大型の猪になると、狩猟班でも一撃で仕留められるのは数人くらいで、何度も攻撃して倒すと、必要以上の攻撃は獲物を嬲っているとして嫌われる。

 なので、獲物を仕留めるなら一撃、もしくは二撃、それ以上になりそうなら諦める。

 でも、鹿の場合だと、確かに普通の鹿より頑丈だけど、拘束して首の部分を狙って全力で振り抜けば、猪よりも首が長いから、首の骨を折って仕留める事が出来る。

 だから、僕が狙うなら鹿一択。

 となれば、必要になる罠はっと……




 森に入るオーガ達が、地面に残った足跡を見たり、齧られている落ちた木の実を拾ったり、木に残っている毛を見たり、獲物の痕跡を自分で調べ、それぞれ目星を付けた場所に向かって行く。

 それだけで直ぐに獲物が見付かる訳では無いが、これで次の手掛かりを見付けやすくなる。

 当然、直ぐに獲物を見付ける運の良いオーガもいる訳で……


「オラァッ!!」


「ピギュィィィィッ!」


 仲間のオーガ達によって追い詰められたツリーディアの胴体に、持っていた槍を叩き込むと、突き刺さった胴体から血飛沫が飛ぶ。

 このツリーディアはそれなりに大きいが、角も小さいし、まだまだ時間があるからコイツはイバンの奴にでもくれてやる。

 別に狩った獲物を他の奴に渡したら駄目って言われてねぇしな。


「デイカー本当に良いのか? 残りでアレよりデカイのが見付かるって限らねぇのに」


「あァ?」


 ツリーディアをくれてやったイバンが喜んでいるのを、ダミアーノの奴が見ながらそんな事を言ってるが良いんだよ。

 それに、俺は確実に仕留められる場所を知ってるから、コイツはタダの腕慣らしだ。

 寧ろ、お前等の方が仕留められない可能性の方がたけぇんだぞ?

 それに今回は、別の目的もある。


「それで、あの余所者はどうしてんだ?」


「……本当にやるのか? もしバレたら……」


 これ以上、あの余所者が出しゃばって、この集落の秩序を乱される方が問題なんだよ!

 何より、俺のアミアに手を出してやがるのが一番腹が立つが、この儀式が終わるまでは、直接手を出す訳にもいかねぇ。

 だから、親父の話だと昔は死んだ奴もいたり、いまでも大怪我を出してるこの儀式で、あの余所者を合法的に始末する。

 その準備も前々から進めて来た。

 ただ、それにはあの余所者より早く獲物を狩る必要がある。

 あの余所者、適当にそれなりに大きい獲物を狩ったら、直ぐに戻るつもりだろうしな。

 だから、さっさとお前等の獲物を狩っちまうぞ!

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