第349話




 オーガの集落に来て数ヶ月、僕を取り巻く環境はかなり変わっていた。

 まず、他のオーガ達から、色々と頼られるようになった。

 長雨によって薪の半分以上が駄目になったから、それの対策として、僕の家の様に薪の保管には棚を使う様になり、寝る場所も、地面に寝るのではなく、ベットを使う様になった。

 それらを作る際、多くのオーガが僕の所に話を聞きに来たり、どうすれば長持ちするようになるのかと作り方を学んだり、家で快適に過ごす方法を考えたりと忙しくなった。

 その中でも一番の問題だったのが、食糧に関する事だった。

 オーガの主食となっている干し肉も、ただ薄く切ったりした肉を天日で干すだけで、塩とか香辛料を使っている訳じゃないから、そこまで長持ちする訳じゃなく、定期的に干し直す必要がある。

 新しく畑を作り、採取して来た作物を植えているけど、それが実って食べられるようになるまでは、それなりに時間が掛かるし、収穫出来ても物によってはそこまで長持ちしない。 

 そこで、収穫しても長持ちする様に色々と保管方法を考えた。

 長老の話では、僕らの住んでいる地域は冬になると、動き難くなる程に雪が降るらしく、コレを利用しない手はない。

 つまり、降った雪を利用した氷室を作れば良い。

 ただし、氷室というのは管理するのがかなり難しく、共有の薪保管庫の扉をちゃんと閉めずに駄目にしてしまった事から、管理する方法をしっかりと徹底しなければならない。

 これは長に任せるしかないんだよね。

 そして、その氷室を作る場所だけど、本当は洞窟が一番良いんだけどこの森にそんな洞窟は無いので、今回は地下室を作る事にする。




ぼん、深さはこのくらいで良いのか?」


 僕の目の前で、一人のオーガが肩に木製のスコップを乗せて、掘り返された巨大な穴の底から聞いて来た。

 オーガの身長は大体2メートルくらいだけど、そのオーガが完全に埋まるくらいの深さで、広さは僕らの家が3件くらい入るくらい広い。

 うーん、広さは良いけど深さはもう少し必要かな?


「ふぅむ、そのヒムロ?と言うのは結構面倒なんだな」


 そう言いながら、担いでいたスコップを地面に突き刺し、また掘り返していく。

 この穴が浅いと、地表に当たる熱で氷室の中の温度が上がって、中の雪が溶けちゃうんだ。

 穴を掘り終えたら、底に小石を敷いて、壁には灰と土、粘土を混ぜたコンクリートもどきを塗って、天井に森から切り出した木を使って、その上に小石、土を被せる予定になっている。

 そして、使用する小石だけど、凄い量が必要になるから、流石に一人二人で集め切るのは無理!


「オダー、これで足りるー?」


 アミアが数人の子供を連れてやって来た。

 アミアも含め、子供達は全員が籠を背負っていて、その籠の中には多くの小石が入っている。

 残念だけど、このくらいじゃまだまだ足りないんだ。

 多分、コレで半分くらい?


「これで半分か~、結構小石使うんだね」


 そりゃ、巨大な地下室の床と天井に使う予定だからね。

 いくらあっても足りないよ。


「ねぇ、そこ等辺の石を砕いたのとかじゃ駄目なの?」


 アミアが指差してるのは、集落の外にある岩。

 これ、彼女は冗談で言ってるんじゃなく、オーガのパワーならあのくらいの岩なら簡単に砕けるんだ。

 でも、岩を砕いて小石にしても、それじゃ使えないんだ。

 氷室に使う小石は、定期的に水を汲んでいる川で角が削れて丸くなった小石だ。

 これが岩を砕いた小石だと、砕けた石は角が尖っていて、それが刺さると凄く痛い。

 オーガは素足で森の中でも歩き回るくらい足裏の皮が厚いけど、これは子供の頃から歩き回っているからであって、僕はそこまで厚くないので、蔦を使って草鞋の様な物を履いてる。

 こっちに来た時の靴は、僕が成長したのか小さくなってしまって既に履けなくなった。

 一応、砕けた小石でも使えない訳じゃないんだけど、床に並べる際に注意すれば良いだけなんだけど、それじゃ時間が掛かり過ぎる。

 大変だけど、川で集めてね?


「冗談冗談、ちゃんと川で集めるって、それじゃ皆また行くよ~」


「「「はーい」」」


 アミアと子供達が、穴の近くに浅く掘っておいた場所で籠をひっくり返し、入っていた小石をジャラジャラと出した後、また川の方に出発していく。

 僕も石拾いを手伝いたいけど、実はさっきから地下室に降りる為の階段部分に使う木材や、コンクリもどきを流し込む型を作ってるから、手が離せないんだ。

 そうして掘り終えた地下室と、その地下室に降りる為の通路だけど、事前に長老から『暫く晴れが続く』と聞いておいたので、急いで型を使って階段を完成させる。

 灰と粘土と土を壷に入れ、水を入れて混ぜ合わせて若干緩くなるくらいに練って、型の中に流し込む。

 本当は、型の中に鉄筋を入れたいけど、そんな物は無いし、木材を入れても腐るから入れる訳にもいかないので、今回は、上から太い枝を叩き付け、押し固めてから型を嵌め込んでコンクリもどきを流し込む。

 そして、コンクリもどきが少し固まった所で、集めてもらった小石を押し込んで並べていく。

 見た目は昔の風呂場の小石で作られたタイルみたいになるけど、コレは見た目だけじゃなく、出来る凹凸によって滑り止めの意味もあるんだ。

 このコンクリもどきが完全に固まったら、地下室の床と壁も同じように固める予定だけど、先に天井用の木を伐り出して置いてもらう。

 そして、切り出した木は真っ二つに切断して乾燥させ、仮の屋根用に柱を組んで雨除け用の枝を積んで屋根を作っておく。

 そもそも、そんなに急いで天井を作る必要はないんだよね。

 だって、雪が降るまで氷室が使えないし、入れる物がないから、急いで作っても仕方無い。

 でも、急いで材料を集めているのは、今は比較的安全でオーガ達も手が空いているからで、これから暑くなる季節になると、気軽に動き回れる事が出来なくなる。

 何より、モンスターが活発に動く様になるから、森の中を動き回るのも難しい。

 だから、集められる時に集めてしまおうという事で集めている訳なんだ。

 何より、長に『氷室』を作る提案をして話をしていたら、『私も何か手伝いたい!』とアミアに詰め寄られ、そこで量が必要になる川での小石集めをお願いした。

 長にもちゃんと許可を得てるけど、流石に護衛も無しと言う訳にもいかないので、ちゃんと護衛も付けてるよ。




 そうして過ごし、集落の皆にも頼られながら過ごしているけど、頼られてばかりでは無く、僕も皆を頼る事もある。

 その中でも一番頼らないといけないのは、やっぱり素材を集める事だね。

 木の枝とか石とか植物系統は、集落の近くを歩き回って拾い集める事が出来るけど、動物やモンスター素材は集める事が出来ない。

 その採取中に襲われたりしても、僕らの近くには大人のオーガが護衛でいるから大丈夫だけど、中にはデイカーの様に、勝手に対処するオーガもいるけど、大抵は大人に怒られる。

 理由としては、モンスターは生命力が凄まじく強く、頭を砕かれたり心臓を貫かれても動く事があるからで、それを知らないでいると大怪我する事があるからだ。

 この集落に来て一度だけ、狩猟班のオーガの一人が大怪我をした事がある。

 その時の原因も、若いオーガが仕留めたと思っていた猪に不用意に近付き、猪が最後の力で襲い掛かったのをベテランのオーガが庇って大怪我をしてしまった。

 あの時は凄かったよ。

 猪の牙でお腹を大きくザックリ裂かれてしまって、腸がこう、デローンと……

 これまでであれば、出てしまった腸を押し込んで布で巻き付けて、後はオーガ自身の回復力に頼るだけで、下手をすれば傷口や体内が化膿してそのまま死亡、という荒療治しかしていなかったけど、僕が大慌てで治療をした。

 と言っても、やった事は生理食塩水を作って腸と傷口を洗浄し、中に押し込んで傷口を縫い合わせた。

 この時に使った針と糸だけど、服を縫う時に使う針を焚火で熱し、枝に当てて曲げ、糸も縫う時の糸を使った。

 そして、見付けていたヨモギの様な草の葉を使って傷薬も使って消毒したら、凄い勢いで回復し、三日くらいで動き回るくらいに回復していた。

 まぁそう言う事もあって、条件を満たしていないオーガは対処しては駄目なのだ。

 その条件と言うのが、『戦士の儀』と言う儀式?を終える事で、一年に一回行われているらしい。

 基本、男は全員、女性も希望者は受ける事は出来る様になっているけど、どういう事をしているのかは、僕はこの集落に来たばかりで、多分対象にはなってないと思うから聞いてないんだよね。

 その時に助けられたお礼と言って、猪の牙や革を貰ったので、手が空いた時に防具を作っている。

 貰った革で今回作ろうとしてるのは、致命傷を防ぐ為の鎧の様な防具だけど結構難しい。

 革だけじゃそこまで強くならないけど、前に盾を作った時の様に布や木の皮を挟んで、スライムを倒した時に残る粘液を糊代わりにして、何度も叩いて圧着すると結構強くなる事が分かってる。

 作るのは難しいけど、これが完成したら狩猟班のオーガが怪我をする割合も減るから、集落の利益にもなるよね。

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