第348話
長老から長雨が降るとアミアに注意され、家の中で出来る作業をやっている。
今は長い枝を火で炙って曲げ、蔦で巻いて固定して、3個目の椅子を作っている最中。
実はベッドはもう作ってある。
家具を作った理由だけど、家を作った後、毛皮とかを敷いて寝た際に結構冷えたのが理由。
オーガの身体能力でも、このまま寝てたら風邪を引きそうだったから最優先で作ったんだ。
地面って地味に冷えるんだよね。
僕の『
でも、地球では今まで自分で作る事も出来なかったから、こうして作れるのはすごく楽しいんだよね。
そうして椅子を作ってたら、外が騒がしくなったけど、火を使ってるし、此処で止める事は出来ない。
気にはなるけど、集落が襲撃を受けた訳じゃ無さそうだし……
「オダー、いるー?」
「ん? いるけど何か用?」
家の外からアミアの声が聞こえたけど、何だろ?
そう思ってたんだけど、何でこうなったんだろ?
僕の前には、出来上がったばかりの椅子に腰掛けているアミアと、インディアンの様な羽根飾りを頭に被った、一際大きいオーガの男の人。
流石にこの人が座れるサイズの椅子は作ってないので、申し訳ないけど加工前の丸太を3個ほど束ねて蔦で縛り、それに座ってもらっている。
でも、男の人の方は初めて見る人だけど誰なんだろ?
「ふむ、俺がいない間に新しく入ったと聞いたが、コイツが?」
「そう、この子がオダ、長老みたいに色んな知識を持ってるんだよ」
アミアがそんな事を言ってるけど、腕組みしてるオーガの男の人って誰なの?
なんとなくだけど、予想は出来るんだけどさ。
「あ、オダは始めてだよね、この集落の長で私の父親の」
「ラウルだ。 アミアの父でこの集落の長だ」
ラウルさんがアミアの頭を撫でながらそう言ってるけど、やっぱり長なんだ。
他のオーガの皆と比べても体格も大きいし、あんなに目立つ羽根飾りを被ってるから、特別なオーガとは思ったけど。
でも、そんな長が僕に何の用なんだろ?
確か、今まで何処かに行ってて、多分帰って来たばかりなんだよね?
あ、もしかして、さっきの騒ぎは長が帰って来たのと、僕が来たから長も様子を見に来たのかな?
「いや、様子を見るのもあるが、今回は別の件だ」
別の件?
「オダにも言ったけど、雨が降るって言ったでしょ? 他にもちゃんと伝えてたんだけど、馬鹿がやらかして共有用の薪が濡れちゃったのよ」
えぇ!?
それってすごく拙いんじゃ……
「拙いよ。 このままだと薪が足りなくなっちゃうの」
それで、僕の所に来たと……
確かに、薪の余裕はあるけど、どのくらい必要なの?
「それなんだが、どの程度なら融通出来るんだ?」
そうですねぇ……多分、3日くらいならどうにか……
うちにある分の大部分になるけど、集落の皆が困ってるんだし、このくらいは渡しても良いと思う。
ただ、その事を聞いたラウルさんが驚いた表情を浮かべてる。
「3日!?」
「でも、それだとオダの分が無くなっちゃうんじゃないの?」
あー確かに、無くなっちゃうけど、薪はまた集めれば良いんだし。
そう言ったら、アミアが頭を抱えてるけど、何か変な事言ったかな?
「……オダ、雨が上がってすぐの薪は、拾えても湿ってるから使えないの忘れてない?」
………あぁぁぁ! そうだよ、雨が止んでも濡れてるんだから直ぐには使えないし、乾かす必要が有るから晴れてないと駄目じゃん!
この雨ってどのくらい降るのかな?
僕が慌てたのに気が付いたアミアが溜息を吐いてる。
でも仕方無いじゃん、こんな事始めてなんだし……
「薪は節約すれば良いだけだから、そこまでの量は不要だが、問題は節約するとなると、夜に暖が取れないという点だ」
「今って、まだ夜は寒いでしょ? だから、薪を消費しないで暖を取る方法って何か無いかなって」
薪を消費しないで暖を取る方法……
炭があれば火鉢とか使えるんだけど、炭作りまでは手が回ってないから、この方法は使えないんだよね。
でもそうだな……
それじゃ、懐炉とか?
「カイロ?」
はい、こう、竈の隅で石を焼いておいて、寝る時に厚めの皮袋に入れて、近くに置いておけば一晩くらいは持つと思います。
ただ、小さい石だと直ぐに冷えちゃうし、大き過ぎると表面だけ焼けてあんまり熱が保持出来ないって問題がありますけどね。
それと、石によっては熱すると弾けるって言う事もあるか。
アミアは知ってるでしょ?
長老の腰痛対策に使ってるアレが懐炉だよって説明したら、アミアが『あぁ、アレの名前ってカイロって言うのね』と言っていた。
後は、僕の家みたいに、直接地面に寝るのを控えるとか……
「今のままだと駄目なの?」
駄目って言うか、地面を触ってみれば分かると思うけど、結構ひんやりしてるよね?
そんな所に革とかを敷いてるとはいえ、直接寝てると体温がどんどん地面に吸われちゃうんだ。
余程厚い革を使ったり干し草を積んで寝れば、ある程度は防げるだろうけど、直接地面に触れているからじわじわと奪われる事に変わりはないんだよね。
だから、ベッドみたいに浮かせれば、直接地面に体温が奪われる事は無いし、室温が保たれていればそこまで冷える事も無い。
そう説明したら、ラウルさんが腕組みをして悩んだ後、僕の部屋にあるベッドの方を見た。
「あの細工をするのは流石に無理だ」
あ、僕のベッドはただ趣味で枝を曲げて作っただけなので、別に太めの枝を使って組み立てても問題無いですよ?
ただ、ちゃんと縛らないと寝てる間に解けて、ベッドが崩壊する所が注意点かな。
そうして、ラウルさんといくつか話し合い、僕の保管してた薪を半分ほど提供して、懐炉に使えそうな石を幾つか集めて実際に試す事になった。
その時、僕の保管庫の構造をラウルさんが見て、共有用の保管庫も同じように棚を使って保管する事にもなったよ。
ただ、ラウルさんが皆を集めてそう話していた際に、デイカーが僕の方を睨んで来てたんだけどなんでだろう?
オダと言う少年から薪を融通してもらう事で、何とか集落の薪問題はどうにかなった。
あの知識量と判断力、そして、集落の連中からの信頼を考えれば、余所者ではあっても次期長候補として入れても良いと思うが、問題はデイカー達だな。
俺が集落の全員に話をしていた際、デイカーはオダの方を睨んでいた。
それだけで処罰する訳にもいかんし、実力はあるから次期長候補から外すという事も出来ん。
ただ、このままの状態が続けば、信頼を積み上げるオダが長になる可能性が高いな。
「それで、今回はかなり長かったが、やはり例の件か?」
父、いや長老の前に座った俺は、ゆっくりと頷いた。
俺達が住むこの森には、俺の集落以外に複数のオーガの集落があり、各集落の長が定期的に集まって情報交換をしている。
大抵は、獲物となる動物が何処に行って増えたとか、木の実がどれだけ集まったとか、作った道具を何処と交換するかとかの話しかしないのだが、今回はそれとは別の緊急性が高い事を話し合う事になっていた。
「前からニンゲンが森に入っていたのは、『ルスコール』の集落の奴等が確認していたが、その数が少しずつ増えているらしく、このままでは、我等の集落のどれかとぶつかる可能性がある、どうすれば良いと話し合っていました」
「それで、結論は出たのか?」
「この森は我等の物でニンゲンは排除すべきだという意見と、今ニンゲンと事を構えるのは早計、様子を見るべきだという意見、直ぐに此処から逃げるべきだという意見で分かれて纏まらず、今回、集会を主導していた『ミオトール』の集落の長が主張していた『一旦様子を見た方が良い』と言う事で一時解散となりました」
俺の言葉に、長老が目を閉じて天井の方を見上げている。
ちなみに、俺は『逃げるべきだ』と主張した。
暫くそうして天井を見上げていた長老が、ゆっくりと俺の方を向いた。
「皆にも、ニンゲンを見掛けても手を出さず、息を殺してやり過ごす様に伝えなさい」
長老の言葉に頭を下げる。
一部のオーガは反発するだろうが、もしニンゲンに手を出せば、俺等を討伐する為に延々とニンゲンがやって来る事になる。
それは流石に遠慮したい。
しかし、薪を融通してくれたオダには何か礼を……と、思ったが、アイツは家にアミアを入れているのだから問題無いか。
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-家に入れてるからってどういう意味?-
-これはオーガの習性と風習に関係する事でして、基本的にオーガは一家族一軒で暮らしております-
-まぁ、それは何処でも普通?よね?-
-ただ、オーガの住む竪穴式住居の構造上、部屋の数は一つ、多くても併設して二つしか無いので、家族では無い他人を入れる事は実はしないんですよ。 集会所みたいな所は別ですが-
-ふむふむ-
-ですので、オーガが『自分の家に他人を入れる』という行為は、『招き入れたオーガは家族になっても良い』って事になるんですよ-
-成程なるほ……ぇ、それマズイんじゃないの? 長の娘よね?-
-小田君はそんなオーガの風習知りませんし、あの娘が来ても『友達が家に来たから家に入ってもらおう』って感覚です-
-彼、その風習を知った時が一番大変そうね……-
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