第346話
貰ったククリナイフの鞘として、革を煮込んで柔らかくし、別に作っておいたナイフの型に押し付けるようにして形を定着させ、蔦を煮て解して染めた丈夫な糸で縫い上げる。
縫った所と切断面には、松の様な木の樹液を塗り付けて保護する。
作った鞘を腰のベルトに固定出来る様に、金属の輪に革紐を通し、ベルトのバックルの様にした。
それを腰の方に付けて、スムーズに抜ける事を確認し、引っ掛かりも無い事を確認。
完成した鞘に納めたククリナイフを腰に固定し、森の中で薪となる枝を集める。
その時に、今までは長い枝は何とか持ち帰るか、諦めて捨てるしかなかったけど、ククリナイフによって適切な長さに切断して、持っていた蔦のロープで縛って持ち帰る。
薪の束を自宅に戻って置くんだけど、家の中に置いておくと地味に邪魔になるんだよね。
だから、自宅の隣に薪の保管場所を作る事にした。
それも自宅の中から繋げて通って行けるようにする。
まずは、増築する分の場所を掘り返し、太い柱となる枝を立てて作っていく。
これはもう自宅を作った経験があるから、最初より楽に感じる。
そして、部屋と保管場所を遮る扉を作って、害虫対策で薪の保管部屋を燻す。
燻している間に、薪を置く台を作っておくんだけど、これはもう簡単に枝を組み合わせただけ。
この時、気を付けなきゃいけないのは、積む薪が地面に触れないようにする事。
地面って言うのは意外と湿気があって、乾燥させた薪が湿ってしまうし、何より虫が地面を移動して付いてしまって大変な事になっちゃうんだ。
勿論、燻してあるからある程度は防げるけど、それでも完璧に防げるワケじゃない。
完成した保管部屋に薪となる枝を並べていたら、アミアがやって来て『コレは何!?』と質問攻めされたよ。
ちゃんと、この保管部屋の事を説明して、実際に保管部屋の中を見せる。
アミアは『凄い凄い!』と言っていたけど、オーガはこういった薪とかは共有しているから、『本当はこうして別に保管するのは、長や長老の家だけだから注意した方が良い』、と注意されてしまった。
だから、ここに保管するのは共有の薪とは別に、個人的に集めた物だけにする事にした。
何より、ロープとククリナイフのおかげで、僕の薪集めは結構簡単に終わるんだ。
他のオーガは、集めた薪となる枝をロープで縛ったりせず、脇に抱えて運ぶから実はそこまで多くの数が運べない。
これは、自分の力を異性に見せ付けるって言う意味もあるみたいで、ロープを使う事を提案したけど、有用性を理解してくれたのは女性オーガだけで、デイカー達の様な若い男のオーガ達は『そんな弱っちぃ事なんか出来るか!』と、今でも小脇に抱えて集めてる。
僕はロープで纏めた大量の枝の束と、半分程度の数の枝を纏めた束を担ぎ上げ、多い方を共有保管場所に置いて、半分程度の方を自宅の保管庫に置いた。
その後は狩猟班の所に行き、前に教えた罠がどんな感じか聞いて回る。
狩猟班に教えた罠は、括り罠とスネアトラップの二つだけど、それでも十分な成果が得られる様になっていた。
聞いて分かったのは、一部の罠が破壊されているらしい。
意図的に誰かが壊したというワケでは無く、どうやら相当に頭が良いモンスターがいて、括り罠が掘り返して破壊されていたり、スネアトラップの跳ね上げ用の枝が折られていた。
罠の場所は滅茶滅茶に破壊されていたので、相当に暴れて破壊したみたい。
これに関しては、僕らが出来る事は無いのでどうにもならない。
後で、狩猟班が調べて、対処出来るならどうにかしようという事になったけど、それでも駄目なら、不在の長が戻ってきたら一緒に狩るという話になった。
どうやら、会った事は無いけど、長は相当に強いみたい。
「……ふむ、今日は大雨、それも長雨になりそうだ」
私はその事を各家庭に伝え、雨に備えて準備をする様に注意喚起をしていく。
そして、
馬鹿達は『面倒臭い』ってブツクサ文句を言ってるけど、渋々といった感じで片付けを始めていた。
私がこうして命じれるのは、私が長老の孫であり、父親が長だから。
それでも命令する以上、私に責任があるから間違わない様に緊張はするよ?
今回で言えば、雨が降ると長老が言っていて、それを聞いていたのに準備を怠れば、この集落全体が大変な事になり、準備の命令をしなかった私の責任になってしまう。
狩猟班にも、木の実や薬になる木の根や木の葉を集中して、集める様に命じた。
これは、雨が降ってる中じゃ集めるのは難しいし、集めてる最中に怪我やビョーキになったら意味がないので、事前に集めておく。
実は去年、同じ様に長雨が数日続いて、馬鹿達が完全に腐っていた干し肉を食べて腹を壊し、大変な事になって、狩猟班が雨の中、腹痛用の薬が作れる木の根を何とか集めるという騒ぎがあった。
当然、雨が上がった後に、馬鹿達は長からぶん殴られて、その年の『戦士の儀』に参加する事を禁止されてしまった。
馬鹿達は泣いていたけど自業自得。
だって、長は長雨が降るとみんなに知らせた際、『モノが腐る可能性がある。 喰う前に確認しろ』と伝えていたんだもん。
そうしていたら、ポツポツと雨が降って来て、直ぐに凄い勢いに。
私は長老の家で、部屋の壁に立て掛けてあった薪を折って竈に投げ入れ、長老用の薬湯を作っていく。
この薬湯、オダが長老の為に作ってくれた物で、今まで体調を崩しがちだったけど、コレを飲む様になってから、長老の体調は格段に良くなった。
オダが言うには、『薬が無いからカンポーになるけど』ってよく分からない事を言って、草の根とか木の皮とか、私達でも分からないモノを集めて作っていた。
凄く苦いけど、今では私も少し飲んで『ビョーキヨボー』をしてる。
それにしても、オダは凄い。
オダは、確かに私達みたいに身体は大きくないし、力もそこまで強くないけど、私達や長老が知らない知識を持っていて、それで力の無い事を補ってる。
特に、『アトラトル』って武器は、力が強い私達みたいなのが使うと凄い威力。
狩猟班の皆が言うには、難しいけど使いこなせば『ボーディア』も簡単に倒せるって。
ボーディアって言うのは、森に棲んでる魔獣で、数が増えちゃうと木の葉だけじゃなく、木の皮まで剥いで食べてしまって、木を枯らしてしまうくらい危ない魔獣だけど、凄い警戒心が強くて、私達が近付くと逃げてしまう。
でも、アトラトルなら気が付かれる前に仕留められる。
オダが来てから、集落の皆が満足して過ごせる様になってる。
長老は、『オダは『ヤオーズの神々』が遣わしてくれたのかもしれない』なんて言ってたけど、本当にそうだったらいいな。
「長老、アミア! 大変だよ!」
長老の言う通り雨が降り始め、長老に別の薬湯を渡して飲ませていたら、雨具を身に着けたオーガの女の人が飛び込んで来た。
雨具の頭の笠を取ると、その女の人は、この集落で雑貨を作ってる『ゾーグ』さんの奥さんだった。
外はザーザーと雨が降ってるけど、奥さんは息切れもしてるし、そんな慌ててどうしたの?
長老の代わりに話を聞く為、奥さんを家の中に入れると、奥さんが息を整えた後、大変な事を教えてくれた。
「さっき、薪を使おうとしたんだけど、扉がちゃんと閉まってなくて、入り口近くの薪が半分以上が濡れちゃってるんだよ!」
えぇぇ!?
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