第345話
さて、仕事を楽にするにはどうすれば良いか?
簡単なのは、仕事の作業を自動化する事だけど、この異世界だと技術的に不可能な所がある。
例えば機械化。
地球では機械は電子機器によって制御されているけど、異世界では電子機器なんてものは無いから、それに代わるモノが必要になる。
その時、最初に思い付いたのは、地球で読んでいたラノベで、ゴーレムをロボットの様に使って自動化させていた方法だけど、これは早々に諦めた。
何故、簡単に諦めたかと言えば、僕にはゴーレムを作れなかったからなのと、そういったゴーレムを作る方法が分からなかったからだ。
一番の知識を持っている長老にも聞いたりしたけど、流石に分からないと言われてしまった。
なので、仕事を簡単に熟せる道具を作って、作業時間を短縮する事にした。
今やっている仕事の中で、時間が掛かっている作業と言えば、狩猟以外では毎朝やっている水汲みだ。
水汲みは、朝起きて何人ものオーガが集団で川に行き、一人一人が持っている大きな
しかも、運んでいる最中に零す事も多く、足を取られて完全に零してしまう事もある。
コレを解消する方法として、一番理想的なのは集落まで水路を引いてしまう事だけど、これは時間も掛かるし、水路自体を保護する方法が無いのでかなり難しい。
そこで考えたのが、天秤棒という両端に水桶を吊るした棒。
これなら、一度に2個の水甕を運ぶ事が出来るし、揺れて零れる事も少なくなる。
何より、オーガの体格と体力なら、かなりの大きさを運ぶ事が出来るから、何度も水汲みに行く必要が無くなる。
そう考えて、急いで長い棒を作り、両端部に窪みを付けて甕を吊るせる様に蔦を編んだ。
そして、出来上がった天秤棒を持って、水汲みに向かうオーガに使い方を説明し、使い方を実践しながら実際に試してもらうと、水汲みが非常に楽になったと好評だったので、かなりの量を作っていたら、アミアが出来上がった天秤棒を各家庭に配ってくれた。
その際に、『オダが皆の為に作った』と説明もしてくれた様で、集落での僕の立場が少しだけ向上したようだった。
他にも気が付いた事があったら、少しずつでも直していこうっと。
「………こうして、我がオーガの一族は、この地へとやって来たという訳だ」
椅子に腰掛けた長老が、長々とオーガの歴史を話してくれた。
オーガの歴史を知らない僕にとっては、この手の話はかなり興味深い。
簡単に言えば、此処のオーガ達は、別のオーガ達と意見が対立し、共存出来ないとして袂を分けてこの地に来たのが始まりだと言うのだが、その対立した意見と言うのが、これ以上、人間を襲う事を止めようというものだった。
オーガと言えば、人を襲って食い殺す、危険な種族と言うのが大半の考え。
でも、この集落では、人間を襲って食べている様な様子は無く、道具や武器なんかは別の集落との取引で手に入れた物で、人間が使っているような武器や道具は無い。
この集落で生活している時に不思議に思っていたけど、長老の話で合点がいった。
つまり、此処にいるオーガ達は、人間を襲う事を止めようと提案したオーガの子孫で、人間とは接触しない様に生活してきたんだろう。
「長老様、ニンゲンと出会った場合はどうしたら?」
「勿論、襲われていないのであれば、我々からは手を出してはならぬ」
オーガの子供が聞いたら、長老はそう答えた。
自衛の為の戦闘であれば人間とも戦って良いけど、此方から襲う事はしてはいけない、と言う事だね。
「ケッ、何で俺等が
「だよなぁ」
「ニンゲンなんて、弱いって聞くし、倒しちまえば良いんじゃねーの?」
そんな事を言っているのはデイカー達だ。
実は此処に住んでいるオーガの子供や若者は、『戦士の儀』という儀式?を終えるまでは、こうして長老の話を聞いて、学ぶ事が義務付けられているんだ。
それこそ、見た目は大人みたいなテイガー達も例外じゃない。
「テイガーよ、人間は確かに弱い、だが、此方から手を出せば、それは人間に我等を狩る理由にされてしまうのだ」
「ハンッ、人間が襲ってきたとしても、全部返り討ちにしてやれば良いだけだろ」
長老がテイガーを窘める様に言うが、テイガーは完全に人間を舐めていた。
それを見て、長老が溜息を吐いているが、その視線が僕の方を向いた。
「オダよ、もし人間を襲ってしまった場合、何が起きると思う?」
「えっと………人間を襲った場合、最初は勝てると思います。 でも、最終的には負けると思います」
急に話を振られたので、色々と考えてから自分の考えを話した。
確かに、オーガは人間に勝てるとは思うけど、それは最初だけで、数が多く、多彩な能力を持っている人間の報復によって負ける。
人間は様々な魔術とかスキルが使えるのに対して、オーガが使える魔術は少なく、スキルは肉体強化系しか持たないので、対処されやすい。
なにより、一番の問題はその人数差だ。
この集落にいるオーガの人数は50人程度しかいないけど、その中で戦えるオーガはデイカー達も含めたとしても、20人もいない。
他の場所にいるオーガの集落も同じような人数らしいし、全部合わせても300人程度しかいないのに、人間は大規模駆除をやる場合、1000人以上の人数を集めて行う事もある。
偶然が重なって対処して勝ったとしても、次はもっと人数を集め、もっと強い人間を連れて来る事も考えられる。
それが繰り返されれば……
「という感じで、戦えば最終的には負ける、と言うのが僕の考えです」
「うむ、正しくその通りだ。 人間の脅威的な所は、我々より力は劣るかも知れんが、その知恵と数でその劣る部分を補っている事だ」
長老は、僕の考えを聞いて満足そうに頷いているけど、テイガーは憎々し気に僕の方を睨んでる。
そう睨まれても、僕としては聞かれたから答えただけなんだけど……
その後は、長老から人間と出会った際は、慌てずにどうすれば良いのか、逃げる場合に気を付ける事などを聞いた。
当然、真剣に聞いている子供もいれば、一部は
そして、長老の話が終わって、各自が帰る際に長老に呼び止められた。
どうして呼び止められたのか疑問に思いつつ、長老の前に座ったけど、長老は何かを背後から取り出して僕の前に置いた。
置かれたのは、見事な造りのククリナイフだった。
「今回呼び止めたのは、ここに来てからのお前のやっている事に対して、礼をしようと思っていたからだ」
「礼なんて、僕は皆が楽になればと思っただけで……」
「そこよ、他に与えるだけで自らは何も欲しない。 お前には欲が無さ過ぎる。 まるで我等が崇める『ヤオーズの神々』よ」
長老が溜息を吐きながらそう言うけど、オーガにも信仰している神がいる事を初めて聞いた。
しかし、『ヤオーズの神々』と言うのは何だろう?
そう聞くと、長老が教えてくれた。
『ヤオーズの神々』と言うのは、『この世のありとあらゆるものには、全て神が宿っている』と言う一種の自然信仰で、その神々はただ与えるだけで、何かを要求する事は無い。
なので、この集落のオーガ達は、日々の暮らしに感謝し、道具は大事に使ったり無暗に殺生をしない事で、神々に礼を返している。
いつからそんな風習があるのかは、今の長老でも知らず、長老がまだ幼かった頃に、長老と呼ばれていた老オーガから『ヤオーズの神々』の事を聞き、その長老もまた幼い頃に、と言った感じらしく、かなり昔から信仰されてきているらしい。
「尤も、最近の若者は感謝する事も忘れてしまったようだがな……」
長老は悲しそうに言った。
そして、僕の目の前に置かれたククリナイフは、そう言った僕に礼をしたいというオーガが長老に相談し、長老が手配して手に入れてくれた物なのだという。
確かに、作業を手伝って『何か礼をしたい』と聞かれても、まだまだ集落の一員と言うには早いと思って、『別に良いよ』と断っていた。
ここまでされて断ると、そう言ったオーガ達や長老の心遣いを無碍にしてしまう。
「分かりました、コレは大事に使わせてもらいます」
長老に頭を下げ、置かれたククリナイフを受け取って大事に布に包んだ。
家に戻ったら、余ってる材木と革で鞘を作ろう。
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