第343話




 遭遇したオーガは、額からは二本の角が伸び、身長2メートルを超えた筋肉ムキムキの赤黒い肌に、革製らしきズボンを履いて、その手には斧の様な武器を持っている。

 他のオーガ達も棍棒なんかを持っていて、その内の何人かは、狩ったのだろう鹿の様な動物を抱えていた。


「ここ等じゃ見た事ねぇ奴だが、此処で何をしている?」


「見た限り、デカくねぇしまだ子供だよな? 親は何処行った?」


 返答に困っていると、多分リーダーだと思うオーガに頭を掴まれ、ビクッと驚くがそれも構わずに額から伸びていた角をかなりの力で押された。

 オーガ基準だと、そこまで力を込めてはいないつもりなんだろうけど、かなり痛い。


「ふむ、ニンゲンがオーガに化けている訳では無いようだな」


 そんな事を言いながらも、オーガリーダー?はずっと力を入れ続けている。

 痛い痛い、本当に折れる折れちゃう!?


「どうする?」


「こんな子供を放っておく訳にもいくまいが、長老に相談するしかないだろう」


 やっと解放されたが、どうやらオーガの中では僕は子供であり、親もいないのにこんな森の中に放置するという考えはないらしい。

 そうして、僕はオーガの一団に連れられて森の中を移動する事になった。 

 その間、オーガの皆からは色々と聞かれるが、当たり障りのない事しか答えられない。

 流石に、異世界から来ましたって言っても分からないだろうし、気が付いたらこの森にいたという事にした。

 そう言ったら、『苦労したんだな』とか『大変だったろう』とか言われたけど、確かに最初の頃は大変だったけど、一度生活基盤が出来てしまえば後は楽になる。

 こういう時、そう言った知識があるというのは、かなり有利な所になる。




 連れられて来たオーガの里は、里と言うには小さく、集落と呼ぶ方が正しい規模。

 住居は地球で言う所の、縄文時代とかで使われていた竪穴式住居の様な物で、一家族で一つ使っている。

 その住居に併設して、ウズラの様な鳥が柵で囲われて飼われていた。

 住んでいるオーガの人達の姿も、何と言うか原始人の様な格好だった。

 ただ、オーガの女性もいたけど、ちゃんと服の様な物を着ていたから安心して見れた。

 身体の大きさはオーガの男女で大差はないけど、男と違って女性オーガの角は額に1本しか生えておらず、家事の方が優先されているみたいだ。

 そして、鳥の世話をするのが子供の仕事の様だ。

 その様子を珍しそうに見ていたが、オーガリーダー?に集落の外れに近い場所にあった住居に連れて来られた。

 中に入るとそこにいたのは、外にいるオーガと比べても一回りくらい大きく筋肉もあったが、老人と言っても差し支えない老いたオーガだった。


「長老、森の中で子供を見付けたのだが、我々では判断が出来ない。 長老の判断を仰ぎたい」


 オーガリーダー?が頭を下げると、長老と呼ばれた老オーガが僕の方を見る。

 その眼はエメラルドの様な緑色だが、まるで僕の内面まで見透かす様な感じがした。

 案内してくれたオーガリーダー?は、そのまま家を出ていってしまった。


「ほう、珍しい事もあるものだ。 我等氏族以外のオーガとは……」


 そして、老オーガと話をしたけど、この老オーガの知識量は凄い。

 僕の話を聞いても、最初から否定せず、どうしてそうなったのかを聞いて、思案して再び問いかけて来る。

 逆に、僕の方からも質問すると、ちゃんと答えてくれる。

 その結果から言えば、僕はこの集落で生活する事を許された。

 ただ、親がいないので全てを一人で行う必要があり、身体も小さいから、最初は集落内の仕事を手伝って、身体が大きくなって条件を満たしたら、狩猟班で狩りを手伝う事になった。

 と言う訳で、集落の端に住居を作る事になったんだけど、通常は親のオーガがメインになって作って行く事になるけど、僕にはいない。

 なので、最初は簡単に作れるフレーム式のシェルターを作り、竪穴式住居は時間をかけて少しずつ作っていく事にした。

 まずは斜めに長い柱を固定して、その柱の左右に長さの違う枝を組み合わせていく。

 それが終わったら、組み合わせた壁の枝部分に葉が付いた状態の枝を重ねる事で、雨が降っても中に漏れないようにする。

 これで、一応寝るだけの仮住居は出来たので、次は本住居を作る為の準備をしたかったが、既に周囲は暗くなり始めているから、新しく枝や柱を集める事は出来ない。

 そこは残念に思いながら、火を熾して作ってあった干し肉を夕食として食べる。

 そして就寝。

 次の日から、僕はこの集落の一員として仕事が始まった。

 最初の仕事は、集落の近くで燃料になる枝や落ち葉を集め、一ヵ所に纏める。

 この集落では、こういった燃料は共有財産として扱い、助け合って生活し、何処の家庭が独り占めしている、と言う事は出来ない様になっている。

 ただし、枝集めをしなかったり、サボっていたりすると、から注意される事になり、それでも改めない場合は、別の仕事をする事になる。

 あ、長と言うのは長老とは別のオーガの事で、この集落には長と長老と二人のトップがいると思うだろうが、実際の所は長の方がトップであり、長老はただの御意見番と言う感じで決定権は持っていない。

 ただ、長老は非常に長生きしていて様々な知識を持っているので、集落で困った事態が起きて解決する事が出来ない時に相談したり、昔の事を子供達に教えたりして、知識を引き継いだりと実はそれなりに大変だったりする。

 そして、その長だけど今は不在。

 何でも、定期的に別の集落同士で集会の様な物があって、長は集落一番のオーガ数人を護衛として連れて、その集会に参加しに行っているらしい。

 そんな話を、仕事中にオーガの女性から聞いた。


 さて、こうして生活していて気が付いたのが、オーガの集落での生活レベルの低さ。

 確かに原始的な生活をしていると思っていたけど、食糧は狩猟で得る以外では、木の実や野生の根菜を掘り返し、水はその日の朝に川から汲んできたりしている。

 狩猟に使っている武器や防具も基本は木製で、刃部分は黒曜石の様な石を加工した物を嵌め込んだりしているくらい。

 それを使って男衆がイノシシやシカの狩猟をしてるけど、それも成功率が低い。

 まだオーガの男達は怖いが、拾ってもらった恩を返す為、僕の出来る事をする事にした。

 最初に長老に新しい方法を提案し、狩猟をする数名のオーガの協力の元、武器と防具を作った。


 それが、アトラトルと呼ばれる投げ槍の補助具だ。

 構造的には巨大なお玉で、これに槍をセットして投げる事で、その飛距離と威力を飛躍的に上げる事が出来る。

 確か、地球の一般人でも100メートルくらいは軽く飛ばせるのだが、遥かに強力なオーガの腕力の場合、その飛距離と威力は対戦車ライフル並だった。

 何せテストの段階で、投擲した槍は的を粉砕し、的を固定していた木を貫通した。

 協力してくれたオーガ達も、この威力には驚いていたのだが安定性が低いのを気にしていたので、それならと石突の方に鳥の羽を割き、矢のように矢羽やばねを付けてみた。

 そして、何度かテストし、槍はショートスピアの様に短くなってしまったが、狩猟に行くオーガ達から満足のいく武器が完成。

 防具の方は、木の皮や板、革をニカワで接着して叩いて圧着する事で、重量は増加するけど複合装甲の様な構造にした盾にして、ただの板よりも防御力も上げた。

 片手でも扱えるサイズだけど、この重量増加に関しても、オーガの体力とパワーなら十分対応可能だと判断。


 他にも、これまでは森の中で得る事をしていた木の実や根菜を集め、集落の一部で畑を作って栽培する事で安定した食糧を得られる様にもする。

 ただ、異世界の野菜になるので、何処まで地球の知識が通用するのかは分からないので、失敗しても良い様に少しずつ試す。


 そうやって、僕は知識を提供し、集落の生活レベルを徐々に引き上げていった。

 当たり前だが、生活の質が上がれば、オーガの皆は感心したり感謝したりしてくれる。




 ただ、そういった行為をありがたがるオーガがいる一方で、その行為を妬むオーガ達もいる事に、この時の僕は気が付いていなかった。

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