第341話
やっと家に戻ってこれたのだが、俺の目の前にあったのはキチンと整えられた畑。
かなり放置したから、雑草やら落ち葉とかで荒れ果てているのを覚悟し、最初は畑の草むしりやら整え直しだと思っていたので、コレはかなり予想外だったのだが、もしかして、あの
そして、その妖精共が畑に生えていた雑草の芽を掴んで引き抜いて、隅にあった捨て場に捨てたのを見て、コイツ等が管理していたらしい事が分かった。
まぁ、妖精共じゃ野菜を収穫したりするのは無理だろうから、嬢ちゃんが管理出来ない時に、見様見真似で手伝いをしていたんだろう。
「あ! クマなのです!」
「やっと帰ってきたです!」
「頑張ったワタシ達を褒めるです!」
「報酬に御菓子を寄こすです!」
「はりーはりーなのです!」
で、俺がいる事に気が付いたちっさい妖精共が、そんな事を言いながら俺の方にすっ飛んで来た。
わらわらと集られるが、手伝いしてたんじゃないのか?
「ニンゲンは偶にしか来ないから、ワタシ達が頑張ったです!」
その内の一匹が、胸を張ってそんな事を言うが、そのちっさい身体で出来んのか?
そう言ったら、そのちっさいのが『見てるです!』と言って、他の妖精共を集めて、畑の横に置いてあったカラの桶を集団で持ち上げ、家の隣にある井戸の所に運び、何匹もが協力して井戸から水を汲み上げ、水で満たした桶を畑に運んで水を畑に撒いた後、何かの魔術で畑の土を掘り返したり、それで出て来た土の中にいた芋虫を遠くへと捨てに行っていた。
成程、コレはすげーな。
「この通り、ワタシ達が頑張ったのです!」
指示を出していたちっさい妖精が、再び俺の前に飛んで来て胸を張った。
分かった分かった、此処まで見せられたら礼くらいはしねーと悪い。
それじゃ、王都で手に入れた菓子とかで……
「頑張ったワタシ達はお腹が空いたのです!」
「やっぱり御飯を所望するのです!」
「あいむはんぐりー!」
要求が菓子から飯に変わりやがった……
そうは言ってもなぁ、流石に窯は触ってないよな?
ちっさい妖精共に集られながら、家の裏にある俺が作った窯に向かうと、まぁこっちは予想通り、雑草は抜かれているが、中には蜘蛛の巣みたいな糸が張られ、積んでいた薪も湿気を吸っていてすぐには使えそうにない。
だが、コイツ等も頑張っていたんだからどうにかするか。
「グァ(よし)」
湿気った薪を手に持ち、『
取り敢えず、使う分だけの薪から湿気を抜き、窯の中には『
多分、蜘蛛もいて巻き込まれただろうが、俺の窯に巣を作った時点で慈悲は無い。
焼き払った後、窯の中を『念動力』で作った水球で綺麗に洗い、火を起こして窯の中を乾燥させる。
これでやっと料理が作れるぜ!
で、料理を作るんだが、コイツ等、見た目以上に喰うんだよな。
それに、ちっさいから普通の料理だと全身がベッタベタになって、後で森にいる
つまり、コイツ等用の小さい料理を作る必要がある訳だ。
いつもの様にボウルに小麦粉を入れて、水や油を混ぜて慎重に捏ね上げ、机に打ち粉をして、生地を薄く薄ーく伸ばしていく。
そして、その薄く伸ばした生地に、作り置きしてあるトマトソースを塗り、更に細かく刻んだ野菜とチーズを散りばめる。
このまま焼くとただのピザだが、それだとコイツ等がベッタベタになっちまう。
だから、ソースを塗った方を内側にして巻いて、それを更に巻いて円状にしてみる。
ピザを焼く場合、普通は高温で一気に焼くんだが、巻いた場合だと同じ様に焼いたら、外が焦げて中身は生のままになっちまうから、窯の温度を低めにしてじっくりと焼く。
薪の量を調整し、慎重に温度を上げ過ぎない様にしながら、巻いたピザ?を窯の中で回しながら焼く。
そうしていたら、次第に焼き上がる時の良い匂いが窯から漂い始める。
「良い匂いですー!」
「これです! これなのです!」
「早く食べさせるのです!」
「もう我慢出来ないのです!」
周囲にいるちっさい奴等が興奮して飛び回ってるが、絶対に窯に近付こうとはしない辺り、火が付いている窯が危険だという事は理解している様だ。
まぁこの大きさだと、火が付いたら大惨事になるしな。
そして、暫くして焼き上がったと判断して取り出し、机のまな板の上に置いて慎重に切り分けていく。
包丁に溶けたチーズが付いてビヨーンと伸びる。
うむ、丁度良い感じに中にも火が通ってるな。
その様子を机の周りでちっこい奴等が集まって見ているが………なんか最初にいた数より増えてねぇか?
「ガゥァ、グゥァ……(出来たぞ、熱いから……)」
「「「「突撃なのですー!」」」」
皿に乗せてちっこい奴等に出した瞬間、コイツ等、我先にと巻いたピザを取っていく。
この巻いたピザのサイズは、そこまで大きくは無いから、全身ベッタベタにはならねーだろうが、コレだけいるとなると数足りるか?
まぁ予想通り、食べれない奴等も出て来たんで、追加で何回か焼く事になった。
で、コイツ等が食べている間に、使った調理器具を洗って片付ける。
「やっぱり、クマの料理は美味しいのです!」
「ニンゲンが作るのも良いですけど、やっぱりコッチが良いのです!」
「美味しいは正義なのです!」
「でーりしゃすなのです!」
妖精共がそんな事を言ってるが、俺とニンゲンが作る料理に何か違いがあるんかねぇ?
そんな事を考えつつ、片付けを終えた俺は新しい野菜を植える準備を進めていく。
一応、この時期に植えられない物はいくつかあるが、それは時期になるまで待っておけばいい。
植える予定の芋やらトマトの苗を並べ、まずは畑の横で作っていた野菜クズや雑草なんかを混ぜて作っていた肥料を、一直線に穴を掘ってそこに投入して土を被せていく。
水を撒いてから畝を作り、畝の植える所に穴を掘っていく。
この時、畝ごとに丸い穴の所と長細い穴の所を別に掘っていくが、これには理由がある。
普通の穴にはトマトとか、普通の苗を植える為の物で、細長い穴は土芋を植える為の穴だ。
特に、土芋は未成熟の奴でも折れやすいし、皮が弱いのか直ぐに傷付いてしまうから、慎重に掘った穴の中に埋めて、蔓の部分を出して、比較的真っ直ぐな枝を隣に刺して蔓を巻き付けておく。
そして、喰い終わった奴等が戻って来て、畑にトマトの苗を植える手伝いをしてくれたんだが、まぁ予想通り、手伝いの報酬で今度は菓子を要求してきた。
一応手伝ってくれた訳だし、今度は普通にクッキーを焼いて配ったんだが、また増えてねぇか?
気が付けば、畑の周りを大量に小さい妖精共が飛び回り、植え終えた所に水を撒いている。
で、それが終わったら俺の所に来て、クッキーを貰って家の手摺やら屋根の上に飛んで行って齧っている。
まぁ、この調子なら直ぐに畑も植え終えるかな。
そして、全部の作業が終わる頃、妖精の数は更に増えたが、畑の植え付けは完全に終わり、妖精共は思い思いの場所に座ってクッキーを齧ってる。
まぁ、あのちっこいのが帰ってくるまでに終わったから、晩御飯の準備もしてぇんだが、帰って来る様子がねぇけど、どうしたんだ?
一応、帰って来たばっかで疲れてるだろうから、簡単に喰えるようなモンを用意してたんだが……
「美味かったですー!」
「明日もコレで頑張れるのです!」
「また手伝いに来るです!」
「あいるびーばっくなのです!」
あ、クッキーを喰い終わった妖精共がワラワラと帰っていく。
しかし、あの様子だとこれからも定期的に来る気がするな。
仕方ねぇ、今度来た時の為にあいつ等用の小さいタルトでも作っておくか……
確か、鞄の中に果実の瓶詰とジャムがあった筈だから、ソイツを使えば簡単に作れるから、作って鞄に保存しておけば、急に来ても対応出来るな。
そうして、ちっこいのが帰って来るまで、俺は家の裏で小さいフルーツタルトを焼き続ける事にした。
完全に日が落ちて暗くなった頃、ちっこいのが帰って来て、『匂いが凄く甘ったるいのじゃ!』と言ってるが、試作したミニタルトを喰わせて黙らせた。
予想通り、次の日から妖精共はちょくちょく来る様になり、手伝いをしてからクッキーやらタルトを食べて帰っていく。
ただ、コイツ等だけが食べて、森にいてこっちに来て手伝えない妖精共の長が喰えない、というのは可哀想だから長用にクッキーとタルトを小さい籠に入れて妖精共に持たせる。
渡す際に『コレは長用だからな』と妖精共に言っておいたが、いくら食い意地が張っているとはいえ、長用に手を出す勇気は無い様で、後日、妖精の森で採れる果実がいくつも送られてきた。
うん、この果実は中々美味いな。
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-小田君の過去話だと思った? 残念、熊回だ-
-何やってんのよ-
-いやぁ、何事にも息抜きって必要ですよね?-
-そりゃそうだけど、何事にも流れってモノがあるでしょ-
-取り敢えず、妖精達は定期的にベヤヤの畑に来て、雑草抜きやら畑を掘り返して管理してました-
-意外と力強いわよね、あの子達-
-見た目は小さいですけど、マナで身体能力とか強化してますし、美樹ちゃん達が自衛の戦い方を教えていますので、意外と戦いもいけます-
-忘れてるかもしれないけど、あの子達、ゴーレムも使えるのよね-
-はい、森の愉快な仲間達がいますね-
-愉快……かなぁ?-
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