第333話
ドガンと音がして、赤い強化外骨格が地面に叩き付けられる。
そこに、若干ボロくなった薄緑色の強化外骨格が踏み付けるように足を踏み下ろすが、それを赤い強化外骨格が横に転がる事で回避し、直ぐに立ち上がって構えを取る。
『倒れた後に攻撃すんのは卑怯だろ! 』
『ハッ、実戦で同じ事言うつもりか?』
そう言って、ボロい強化外骨格が構えを解いた瞬間、赤い強化外骨格が一気に加速して殴り掛かるが、あっさりと横に避けて、足を引っかけられて赤い強化外骨格が再び転んだ。
だが、そのまま地面に拳を叩き付けて体勢を立て直すと、再び殴り掛かる、と見せかけて急停止、そこから蹴りを放つが、ボロい強化外骨格側はそれを掬い上げる様にいなすと、その腹部に拳を叩き込んで、赤い強化外骨格を吹き飛ばした。
そんな様子を見ながら、馬車の前でワシは座禅を組んでおる。
今おるのは、『シャナル』への帰り道の途中にある休憩所で、丁度、ワシ等以外に誰もおらんから、バートとムッさんが訓練として強化外骨格で戦っておるワケじゃ。
ただし、バートは改造した強化外骨格で、ムッさんは素体状態じゃが、それでもムッさんの方が強い。
もし、ムッさんが強化外骨格・改で戦っておったら、始終圧倒して勝負にすらならんじゃろう。
「さて、そろそろ晩御飯じゃから終了じゃぞー」
組み合っておる二人に終了を告げ、戻ってきた二人がベヤヤの用意した椅子に座る。
そして、ベヤヤが作っておった晩御飯を食べつつ、さっきの模擬戦の話になったのじゃ。
「ムッさんが実際に戦ってみて、バートの改造強化外骨格はどうじゃった?」
「あ? まぁ強いと言えば強いんじゃねぇか?」
「どういう意味だよ」
普段、毒舌なムッさんには珍しく歯切れが悪い。
それもその筈、バートの強化外骨格は改造したとはいえ、性能が順当に上がっておるだけで、何か突飛した特徴が無いのじゃ。
ムッさんの強化外骨格・改の場合、機動性を捨てる代わりに、他の性能を上げておる。
「つまりは、バートの改造は従来の強化外骨格の性能をそのまま上げただけで、ムッさんからすれば、別に対処出来ぬ訳ではなかったと」
ワシの説明にバートが肩を落としておるが、素の強化外骨格で戦えるムッさんが可笑しいだけじゃから、そこまで気にする程ではないと思う。
じゃが、バートからしてみれば、改造で強くした筈なのに、無改造状態の強化外骨格に手も足も出なかったのはショックじゃったんじゃろう。
「じゃぁどうしろって言うんだよ、正直、機動力を確保するんじゃ重く出来ないから防御面はそこまで上げられないし、攻撃面だって使える武器が頭打ちなのに……」
バートが強化外骨格を使っておる時の武器は、右腕に付けた拳の部分にスパイクを付けておるスパイクガントレットじゃ。
逆の左腕には、相手の攻撃をいなす為に、ナイトシールドと呼ばれる逆三角形の盾を付けておる。
格闘戦を重視しておるので、脛の部分にも装甲を増やしておるが、見た目は若干大きくなっただけじゃ。
剣も持っておるが、不慣れじゃからあまり使ってはおらん。
「頭が良い奴特有の馬鹿な考えだな」
「何だと?」
「
ムッさんがそこで言葉を止め、なんかワシの方を見ておる。
「このクソガキの改造見てみろ、何処をどう考えたらあんなぶっ飛んだモンになるんだよ」
「なんじゃ、ワシは普通に改造しただけじゃろ」
「その改造がぶっ飛んでるって言ってんだよ!」
「……まぁ、ムッさんの言う通り、バートの改造はもう少し大胆に改造しても良いと思うぞ? それこそ、何かに特化させても面白いじゃろうし」
「それと、近付くのは良いが攻撃手段が少な過ぎるな。 格闘以外にもなんか武器を使えた方が良いだろ」
その言葉でバートが考え込んでおるが、勘違いして欲しくないのは、決してバートの強化外骨格が弱い訳では無い。
多分、Aクラス冒険者とかでも普通に圧倒出来るくらいの強さがあるのじゃが、周りにおるのが皆規格外じゃから、自信を持てぬのも無理はない。
まぁ、バートの事じゃから解決する案も思い付くじゃろうし、大丈夫じゃろう。
「師匠、魔石ってまだ余ってるか?」
「まぁ余ってると言えば余ってはおるが、どうするのじゃ?」
「もう少し思い切った改造をする。 ただ、どういう結果になるかは分からねぇけどな」
バートがそう言い残して、ワシが道中でムッさんの武器を作るのに使っておった馬車に入って行く。
どうやら、これから設計する様じゃな。
それはそれとして、ムッさんにも聞いておかねばならん事がある。
「で、ムッさんから見て、どの程度じゃった?」
「戦闘技術が低いのを、無理矢理に強化外骨格の力で補おうとして、そのせいで動きに無駄が有り過ぎる」
まぁ酷評。
そもそも、バートの戦闘技術はそこまで高くはない。
これは、今まで直接指導を受けた訳でも無く、魔術適性もそこまで高い訳では無かった事で、魔道具に傾倒しておった事が原因じゃろう。
最近は兄上とかに訓練をして貰ったりして、そこそこ技術は上がったようじゃが、それでもそこまで高い訳では無い。
今後に期待じゃな。
「それと、作った武器についてじゃが、どんな感じじゃ?」
「悪かねぇが、慣れが必要だな」
ムッさんに渡しておったのは、ゴゴラが作ったとはいえ、殆ど既存の斧を改造した物じゃ。
一応、そのままでは面白くないと思って色々と改造したんじゃが、その改造で斧自体が威力に耐えられんと言う問題が残されておる。
イクス殿や兄上の剣みたいに専用の物を作りたいのじゃが、アレは移動中に作れんし、野営地の休憩所で作るには周囲の目がある。
前にゴゴラ殿にワシの作り方を見せたのじゃが、鍛造と言うのは珍しいと言われたのじゃ。
この異世界に限らず、大量に同じ武器を作る場合、一度に大量に作れる鋳造品が主流で、ワシがやったような鍛造品は少ないのじゃ。
それに、ワシの作り方は魔法でやっておるから、下手に見られて自分にも作って欲しい、と言われても対応出来んし、ワシに利点が無い様な相手では作る気も無い。
なので、『シャナル』に戻ってから作るつもりじゃが、そもそも、全力で使う様な事は無いじゃろうから、戻ってもしばらくは作らんでも良いかなぁとは思っておるんじゃけど、黄金龍殿みたいに急遽、強敵と遭遇して戦わねばならん場合もあるじゃろうから、戻ったらなるべく早く作らんといかん。
「それじゃ使わん剣の方は回収するんじゃが」
「あの剣は予備に持っておくから、別にいい」
ムッさんがそう言って、馬車の中に入って行く。
まぁ手数が多い方がいいじゃろうが、そういえば、ムッさんの『
今は『重犯罪奴隷』になっておるから、前の『職業』は知らんのよね。
そう考えれば、最初に鑑定しておくべきじゃったなぁ……
そうすれば、適切な武器とか分かったんじゃろうけど、もう後の祭りじゃな。
流石に、勝手に『重犯罪奴隷』を解除したら駄目じゃろうし、バレたらこの国にいられんじゃろう。
こう言うのは本人に聞く訳にもいかんが、昔から斧を使っておったと言うし、本人が斧の方が使い易いと言っておるから、まぁ良いじゃろう。
さて、ワシも寝るつもりじゃが、ベヤヤはどうするんじゃろ?
「グァゥ?(料理の準備するが?)」
あ、そっすか。
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