第332話




 宿の一室、そこで集合した私達は机に置いた魔道具を起動した。

 一瞬、何かが身体を通り抜ける感覚がするのを感じた後、魔道具から薄い板の様な物が空中に浮かび上がった。


「流石、幸太郎の魔道具だな。 王都の大結界でも問題がないとは」


 思わず呟くが、コレは仕方無いだろう。

 この国バーンガイアの大結界は、間者対策として外部との通話が出来ない様にされている。

 その為、間者が入り込んでも、外部に知らせる方法は王都から出て報告するしかない。


『どうやら、大結界はマナを遮るだけで、科学的な通信方法までは妨害出来ないみたいだな。 それでこんな時間に通信して来たって事は、回収出来たのかい?』


「………すまない、回収出来なかった」


 半透明の薄い板の向こうには、薄暗い部屋にいるのであろう幸太郎の姿があり、目的を果たせなかった事を伝えた。

 私達の目的、不注意で流出してしまった指輪の回収。

 それによって引き起こされたであろう大騒ぎにより、一時、王都は混乱したが、今は安定して復興が行われている。

 その復興作業に参加し、その戦いがあった場所を見たのだが、そこは無残に破壊されたと言うより、文字通り何も無くなっていた。

 そこ場にあった筈の建物や、地面、樹木が全て無くなっていた。

 被害にあった建物は、まるで最初から無かったかのように、途中からスッパリと途切れていた程だ。

 そして、その復興作業中に私達は指輪を探したのだが、それらしい物を目撃した者もおらず、拾われてもいない様で、これ以上探しても駄目だろうと判断し、こうして報告をしている。


『……そうか……誰かに拾われて盗まれたか、もしくは戦闘で破壊されたかな?』


「それについて気になる事がある。 あの場には『蒼炎』『万弓バンキュウ』『瞬魔シュンマ』の3人、魔法師団の副団長、それに黒髪の冒険者がいたらしい」


『噂に名高い冒険者チームと副団長……それに黒髪の冒険者か』


 画面の向こう側で、幸太郎が腕を組んでいる。

 『蒼炎』、戦いで大剣に蒼い炎を纏わせ、それによって相手を攻撃する赤毛の剣士。

 『万弓』、遥か遠距離から矢を放つが、その矢はあらゆる属性を持ち、相手に合わせて瞬時に切り替える青毛の弓使い。

 『瞬魔』、様々な魔術を使いこなし、その発動速度は他の魔術師の追随を許さず、瞬時にその場を制圧する緑毛の魔術師。

 彼等はごく最近、頭角を現した冒険者達で、これ等の呼び名はその戦い方から付いた二つ名だ。

 これ程の強さの冒険者が、これまで有名にならなかったのは、彼等の主だった活動が特定の商人の護衛をしていただけで、討伐依頼や殲滅依頼を受けていなかったからだ。

 それにしても、此処まで強さを隠していたとは考えにくく、本当に最近まではそこまで強くは無かったのだろうが、商人の護衛依頼の最中にナニカを手に入れて強くなったのではなかろうか?

 そして、魔法師団の副団長は、エルフの血が混じっている事で、使う魔術も常軌を逸している事から、指輪によって強くなった相手でも十分に戦えたのであろう。


『……違うな。 多分、やったのは黒髪の冒険者だろう』


「その根拠は?」


『前にうちの迷宮ダンジョンに来たヤツだと思うが、あの時、俺の所でもその動きを完全に見れなかったくらいのスピードだった。 アレを考えてみたら、他にも隠し玉を持っててもおかしくない』


「……それじゃ、これからどうしたら良い?」


 そう聞いたのはメラニーだが、目的を果たせなかった以上、次の行動を決めなければならない。

 私達の最終目的の為に、今の段階で見付かったり、私達の存在を知られる訳にはいかない。


『うん、見付からなかった物は仕方無いけど、これ以上探しても見つかりそうにないかい?』


「……コレだけ探しても見付からない以上、多分無駄だろうとは思うが……」


『それじゃ、これ以上探した所で見付かるとは思えないし、一度戻ってもらえるかい?』


 少し考えた私の答えに対し、幸太郎がそんな事を言って来た。

 本当ならもう少し探したいのだが、幸太郎の考えでは、これ以上は無駄だと判断したのだろうが、諦めが早いのでは?


『そろそろ次の段階に移るから、こればっかりはロベリア達がいないと駄目なんだ』


「……遂に次の段階に移るんだな?」


「…………あぁ、これが終わればに移るよ」


 そうか、もうそこまで進んでいたのか。

 確かに、次の段階では、その内容的に私達がいなければ進める事が出来ない事を、前々から言われていたので納得する。

 勿論、私達以外にも候補者はいたのだが、私達が一番高い結果を残せたので、私達が担当する事に決まっていたのだ。

 そうなれば、早く戻らなければならない。


「了解した。 なるべく早く戻る」


『気を付けてな』


 そう言い残し、浮かんでいた半透明の板が消え、机の上にある魔道具が光を失って機能を停止する。

 魔道具を手に取り、服の内側に縫い付けた魔導袋マジックバッグに収納する。

 そして、その場にいたメラニーとセリーナに視線を向けた。

 彼女達は不安そうな表情を浮かべている訳でも無く、私と幸太郎の話を聞いても、普段通りの表情のままだ。


「と、言う訳だ。 今の依頼を終え次第、拠点に戻るが、どのくらいで終わりそうだ?」


「今受けている依頼は、復興作業での荷物運びだが、私達の担当分は終わっていて、それ以上に運べば、その量に応じて報酬額が上がると言われているだけだから、終わりとしても問題は無い」


「一応、続けて欲しいとは声を掛けられていますが、別に問題は無いと思います」


 メラニーとセリーナが言う通り、別に私達が続ける必要はない。

 今までは、怪しまれない為に協力する必要があったが、次の段階に移行すれば、私達は拠点に引き籠る関係で動きを知られる事は無くなり、怪しまれるも何もなくなる。

 となれば、これ以上、依頼を受ける必要はない。


「よし、それなら直ぐに戻るとしよう」


 私の言葉に二人が頷いた。

 とはいえ、もう既に日は落ちて、今から王都の門を抜けて外に出る事は不可能だ。

 幸太郎が作った使い捨ての転移用の魔道具も持っているが、アレは逃げる際の切り札として残しておきたい。

 私達は、はやる気持ちを押し殺し、日が昇るまで宿に籠る。

 日が昇れば、私達は幸太郎仲間達が待つ迷宮に戻り、計画の為に動く事になる。

 勿論、幸太郎から計画を聞いた当初、私達に戸惑いが無かった訳では無いのだが、実情を見て来た私達は、今では幸太郎の計画を成功させる事に戸惑いはない。

 そうして、私達は宿に残っていた荷物を纏め始めた。




 迷宮のコアルーム。

 ダンジョンコアがある部屋で、俺は計画の次の段階に進む事を皆に告げた。

 この場にいるのは、俺や仲間達がこれまで集めただ。

 そして、その為に必要な作業を伝え、俺自身は計画に必要な物を、集めていたポイントを使って作り出していく。

 そこには、この異世界には存在しない筈のがあった。


「さて、ポイント的にも一回限りの大博打だ。 絶対に成功させないと」


 異世界でも、地球の科学力が通用する事は分かっている。

 だが、それでも限界はあるだろう。

 だから、対処法が知れ渡る前に、一気に終わらせる必要が有る。

 その為には、取集したポイントを全て使い果たしたとしても、電撃作戦で終わらせる。


「あ、ロベリア達が戻ったら、を訓練する必要が有るな……部屋を増やすか」


 手元の操作盤で階層を増やすが、今はポイント的に物を配置する余裕が無いな。

 取り敢えず、最初は何もない状態からスタートしてもらうしかない。

 だが、数日もすればポイントもまた溜まるだろうから、その時になったら、追々増やせば良いだろう。

 後は、効率的に進める為に必要な物がある。


「さて、頼んでいたのは出来たかい?」


「おう、コータローのぼん、一応出来たは出来たが、こんなんで良いのか?」


 コアルームの隣にある別室に入って声を掛けると、そこには毛むくじゃらのドワーフが3人いた。

 ビビン、ザザン、ギギンの3人で、うちにいるドワーフ達の中で一番手先が器用だったので、彼等には今回の計画に必要な物を作ってもらっていた。

 そして、そんな彼等の目の前にあったのは、巨大な街の模型。

 この模型は、外で活動するロベリア達に頼んで、色んな場所をカメラで撮影してもらった写真を、彼等に渡して作って貰ったジオラマだ。


「かなり精巧に作りはしたが、流石にあそこのまでは再現出来てねぇんだ……スマン」


「いやいや、コレだけ作ってもらえれば十分だよ」


 作ったビビンは残念そうだが、この異世界で地球並のジオラマを作れるのは凄い事だ。

 コレさえあれば、これからの計画をスムーズに決める事が出来る。

 そのジオラマを大事にコアルームに運び、その周囲に俺達の代わりとした旗を置いた。


「さて、どうやって落とすのが一番効率が良い?」

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