第330話




「……ん?」


 眠っていた我は、懐かしいを感じ、頭を天井へと向けた。

 奴は倒されてから、今まで女神様が新しくお創りにならなかったから、何処かにある『器』に入って隠れていたと思っていたが、まさかあの国にいたとは……

 今まで連絡すら寄こさなかったのにも理由はあるのだろうが、一度は様子を見に行った方が良いだろう。


「黄金の、今のは」


「白銀か。 うむ、間違いなくヤツのモノだろうが、確認の為に我は少し話をしてこようと思う」


 白銀も同じ様に感じ取ったのだろうが、一度に此処を離れる訳にはいかん。

 もし同時に離れ、前の様に我等の『器』を盗まれた場合、その被害は図り知れん事になる。


「分かりましたが、どの程度で戻るおつもりで?」


「何、確認するだけだから、そこまで時間は掛からぬだろう」


 翼を伸ばし、洞窟に白銀を残して出発する。

 目指すは力を感じ取った方角。

 そこに目掛けて、大きく翼を羽ばたかせた。




 俺が目覚め、ナグリから話を聞いて様子を見に来たアイツに今回の件を話す。

 当たり前だが、俺の『切り札』については話していない。


「それで、見付けたのが……」


「あぁ、コイツだ」


 俺達の前にある机に置いてあるのは、バーラードが『屍者コープサー』になり、倒した後に残った指輪だ。

 明らかに原因なんだろうが、俺には『鑑定』スキルが無いから調べられない。

 妹が木の枝で指輪を突いた後、引っ掛けて持ち上げている。

 アレは、もしあの指輪に厄介な『呪い』でも掛けられていた場合、直接触れて呪われない様にする為だ。


「ふむふむ、どうやら『呪い』は掛けられておらぬ様じゃが……コレはかなり厄介なアイテムじゃな」


「厄介?」


「この指輪、名を『渇望の指輪』と言うんじゃが、着用者の望みを叶えてくれる代わりに、その『魂』をどんどん変容させて、やがては魔物にしてしまうというアイテムじゃ」


 その話を聞いて、どうしてバーラードが『屍者』になったのかが分かったが、あの時、証拠品としてマルクス達に渡さなくて良かった。

 もし渡して、誰かが不用意に着用したら、大変な事になっていただろう。

 コレはこのまま妹のアイテムボックス内で死蔵するか、完全に破壊するべきだろう。

 そう話したら、妹が溜息を吐いている。


「この指輪、物理的には破壊出来ん様じゃ……どうも『不壊』が付与されておる」


「となれば、死蔵するしかない、か」


「まぁは、ワシが責任を持って死蔵するとしようかの」


 妹がそう言って、鞄の中に指輪を放りこんだ。

 これで、あの指輪は二度と世間に出て来る事は無いだろう。

 あ、そうだ、結界修復の手伝いを頼んでおくべきだな。

 『念話』が届かなかった事を話すと、どうやら学園の書庫にはカンニング対策で、外部と連絡が出来ない様に結界が張られており、それで俺達の『念話』も妨害されてしまったようだ。

 その事を話すと、『マルクス殿の使者と言う者が話を持ってきて聞いておるよ』と言って、現在はバートの奴が魔石を届けているのだという。

 その魔石は、これまで妹とベヤヤが倒したりして集めていた物、では無く、風化して『魔粉』となった魔石を再度凝固させた物だ。

 コレは森に行って作った物で、風化して粉になったのがいくらでもあるからな。

 話を聞いた後、直ぐに森に行って作ったらしい。


「王都を守る大結界は、流石に国の重要機密じゃし、魔石を渡すくらいしか出来んかったけどね」


 妹がそう言うが、名誉職である貴族になってはいるとはいえ、最高機密である筈の大結界を修復させる事はしなかったようだ。

 そりゃいくら、妹が国に対して貢献していたり、国王と親しくしていたとしても、そこはしっかりしていた様だ。

 そして、妹達は大結界の修復が終わり、上空に再度展開されたのを確認した後、『シャナル』へと向かって再出発していった。

 それを確認した後、俺は『休んだ分、依頼を熟してくる』とノエル達に言った後、王都から離れ、森の中を疾走する。

 これから起こる事を考えれば、絶対に誰かに目撃される訳にはいかない。

 かなり離れた所まで来た後、そこで受けた討伐依頼の目標である『カメレオンタイガー』と言う、カメレオンだか虎だかの魔獣を討伐する。

 見た目はカラフルな虎で、カメレオンの様に体表の色を変え、周囲の風景に溶け込む事が出来るのだが、若干臆病で探し出すのが地味に面倒臭く、冒険者ギルドでも受ける冒険者が殆どおらず、長期間放置されている事もあるくらいだ。

 今回は偶然、俺がギルドでリハビリを兼ねた依頼探しをしていたら貼り出され、誰も取らなかったので受付嬢に話を聞き、生息域がかなりの奥地で丁度良いという事で受けたのだ。




「ガォォ……ォン……」


 ドサリとカラフルな虎が倒れ、完全に息絶えたのを確認した後、剣を鞘に納める。

 ギルドで『毛皮の需要があるのに、かなり面倒で人気が無いんですよ』と言われていた通り、俺でも探すのにかなり時間が掛かった。

 今回、『ブラックウルフ』は連れてきていない。

 流石に連携も何も分からない状態で、森の中で一緒に戦うなんて自殺行為に等しい。

 『ブラックウルフ』とは、後で平原に連れて行って確認して訓練するつもりだ。

 虎を収納袋に入れた後、目を閉じて意識を集中する。

 すると、遥か遠くから、何かが俺の方に向けて接近しているのを感じ取った。


「……やはり来たか」


 溜息を吐いて、更にその場から離れ、確実に大丈夫な場所まで移動した。




 受付嬢の一人がテキパキと依頼の受注票を纏めていると、ギルドの扉がゆっくりと開いて風が吹いた。

 そこにいたのは、身に着けている防具がかなりボロボロになった黒髪の男。

 それを見て、受付嬢の一人が慌てて駆け寄っていく。


「レイヴンさん大丈夫ですか!?」


「……問題無い、ちょっと手間取っただけだ……それより、何とか達成したんだが何処に出せば良い?」


「え、もう倒したんですか!? と、取り敢えず、奥の部屋に来てください。 サイモンさーん!」


 男を奥の部屋に通し、解体担当部署の責任者である『サイモン』を呼ぶ。

 やって来たのは筋骨隆々だが、伸び放題の髭面のサイモンさん。


「呼ばれて来たが大物か?」


「はい、此方のレイヴンさんが『カメレオンタイガー』を討伐して持ち込んでくれましたので、その確認と査定をお願いします」


「おいおい、アレを討伐したって、かなりの腕だな。 取り敢えず、見せてもらっていいか?」


 サイモンさんの言葉で、レイヴンさんが部屋の床に『カメレオンタイガー』を出すと、かなりの巨体。

 それを見て、サイモンさんが唸りながら確認していく。

 最終的に、サイモンさんが『カメレオンタイガー』に付けた値段は金貨60枚。

 普通は金貨20枚くらいになるんだけど、レイヴンさんが倒した個体は、若干大きい上に傷も少ない事で、かなりの毛皮が取れたから、大幅に買取額が上がった。

 これが他の冒険者の場合、やたらに斬り掛かったり、必要以上に魔術を使ってボロボロにしてしまうので、減額されるのが普通です。

 今回は、これ以外に成功報酬として金貨40枚が支払われるので、レイヴンさんには総額で金貨100枚が払われる事になった。


 レイヴンさんは口は少し悪いが、別に横暴な訳でも無く、女性に対しても男性と同列に扱っており、約束は必ず守ってくれる上に、受けた依頼を失敗した事も無い程強い。

 更に屋敷を買える程、資産を持っている事も判明し、実は受付嬢の中にはレイヴンさんの専属担当になって、あわよくば、なんて事を考えている受付嬢もいるが、そう言う相手をレイヴンさんは見破れる様で、極力近付いてすらいかない。

 ただ、今受けている依頼を終えたら、レイヴンさんもルーデンス領の『シャナル』へと帰るという話だ。

 先輩受付嬢達には悪いけど、多分、誰もレイヴンさんの隣に立てる事は無いと思う。

 当たり前だけど、そんな事は口にしないけど。


「はーい、次の方どうぞー、依頼ですか? それとも受注ですか?」

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