第324話




 俺の能力である迷宮ダンジョンはマナを集めて、それを材料にアイテムを作る事で徐々に制限が解除されて、コレを俺なりに『レベルアップ』と呼んでいるだけで、実際には俺やダンジョンにレベルがある訳じゃない。

 例えば、俺がこの異世界に来た時に最初に作れたのは、木材とかの植物をベースにした物だけで、それを沢山作っていく事で、銅、鉄、鋼、ミスリルと少しずつ作れる幅が広がって行った。

 最初は木で武具とかを作って迷宮に置いてたが、そんなので異世界の冒険者を何度も呼び寄せて、迷宮を維持するなんて不可能。

 しかし、此処で俺は一つ閃いた。

 人と言うのは一度でも成功すれば、『また成功するかもしれない』とその成功体験を信じて、何度もチャレンジする事が多い。

 それは、この異世界でも同じで、特に冒険者はこの性質タチが強い。

 だから、地球でも問題になった『ガチャ』をダンジョンに導入した。

 『ガチャ』というのは、と、多くの人が金を注ぎ込んで、破滅する事が多いゲーム会社が考え出した凶悪な集金システムだ。

 実際には、そう言った超低確率アイテムよりも、ゴミが出る確率が高く設定されていて、滅多に良い物が出るなんて事は無いし、物によっては、そもそも一般人には出ない様に設定した『魅せアイテム』と言う悪徳な『ガチャ』もある。

 俺の場合、異世界に来た当日に、偶然、モンスターに襲われていた違法奴隷商が逃げる為に、囮に使われた違法奴隷だったロベリア達と出会い、彼女達のマナを使わせてもらって、大量のアイテム木製武具を作って物量で何とかモンスターを退治し、その時に彼女達の主人として登録されてしまい、俺自身がダンジョンマスターである事もバレてしまったが、彼女達によってダンジョンの『ガチャシステム』が完成した。

 冒険者に壁の穴にコインを入れさせる事で、その数に応じたスライムを出現させて冒険者が倒し、宝箱を出現させる。

 そして、宝箱の中身の大半は『たわし』で、植物のアイテムを最初に大量に作らなければならない俺からしたら、最適なシステムだ。

 そして、『ガチャ』で出す良い物だが、最初の頃はロベリア達が他のダンジョンで手に入れて、彼女達が不要と貰った物だ。

 彼女達は最初からかなり実力があり、俺が作れるアイテムが増えて優先して渡した事で更に強くなった。

 そうして、出来上がった俺のダンジョンは、今では違法奴隷にされて苦しんでいた人達を匿うシェルターになっている。

 その人達は『ガチャ』をする部屋の地下を、広く拡張して生活している。

 勿論、無理に閉じ込めている訳じゃなく、同じ様に違法奴隷にされて苦しむ人達を救助し、違法奴隷にされる恐怖に怯えなくて住むを作るという理念を理解し、協力してくれる人だけが残り、それ以外の人達は首輪を外して記憶を消し、安全な場所に送り届けている。



 さて、そんな俺だが、作れるアイテムを増やす為に、俗に言う『世に出せない物』も作った事もある。

 例えば、持てば無類の強さを得られる代わりに、思考能力が全て戦闘のみに支配されてしまう『狂戦士の剣』や、あらゆる攻撃や魔法、状態異常に完璧な耐性が得られる代わりに、身に着けると一切動けなくなって呼吸すら出来ず窒息する『不壊の鎧』。

 こういったアイテムは、俺のダンジョン内では破壊する事も、捨てても吸収されないので別のダンジョンに捨てるしかないが、もし拾われたら大変な事になるので、ダンジョンの奥底に『立ち入り禁止』と決めた部屋に格納していた。

 その中に『渇望の指輪』もあり、この指輪は装着した人物が望む事を実現させる力がある。

 ただし、この指輪には一つだけ、致命的なデメリットがあり、俺が世に出せないと判断した理由だ。


 そのデメリットは『使』と言うモノだ。


 一度や二度、それも小さい望みであれば影響は少なが、それが三度四度、身の丈に合わない望みを叶え続けたら……

 人の欲望には限りが無い。

 説明からして試す気にもなれないが、もし欲深い人間が使えば、碌でも無いモンスターへと変貌するだろう。

 だからしまっていたのに……


「どうして、あんな危険な物を売ってしまったんだ!?」


「わ、分からないですよー!? それに、私はコータローが売っても良いって言ったのしか売ってないです!」


 ロベリアとイラリアが言い合っているが、今は口論している場合じゃない。

 何とか回収しないと、王都が大変な事になってしまうし、何より計画にも支障が出てしまう。


「二人共、言い合うのは一旦止めて、直ぐに回収に動いてくれ」


「「分かった」」


「俺は、他にも無くなってる物が無いか、改めて調べるから」


 俺が売っても良いと判断した物しか、イラリアに渡していない筈なのに、今回、世に出すつもりが無かった物が出てしまった。

 もしかしたら、これ以外にもうっかり渡してしまった物があるかもしれない。

 こうして考えると、『鑑定』みたいなスキルが欲しくなるが、『鑑定』スキルを覚える為の『スクロール巻物』や『魔本』は、未だに製作リストにも出てこない。

 俺自身は、俺が作ったモノであれば分かるが、仲間達に『鑑定』持ちがいないから、今回みたいに俺がミスったら、そのミスを分かる奴がいない。


「もしもの為に、ポーション類は多く持って行ってくれ」


「……手遅れだった場合どうすれば良い?」


 ロベリアに神妙な顔付きで聞かれたが、まさかこんな短時間で変化するとは思えないが……


「その場合は止むを得ないと判断し、住民の安全を最優先。 ただ、あまり人眼には付かない様にしてくれ」


「分かった。 なるべく努力はする」


 ロベリア達がダンジョンの隠し通路から外に出て、王都へと向かったのを確認し、俺は『立ち入り禁止』と書かれた部屋に入って、タブレットを再起動。

 さて、他に無くなった物はあるだろうか……

 俺は、そこに積み上げられた大量の荷物を見上げながら、溜息を吐いた。




 自分の姿を相手から認識し辛くなる魔術を使用した瞬間、ズキリと胸が痛み、思わず服の上から胸の辺りを押さえた。

 隠れ家から外に出て、人が来る度に魔術を使ってやり過ごしているが、何故か胸の辺りがズキズキと痛む様になった。

 それでも、しばらく我慢すれば痛みは治まるから、ゆっくりとだが門へと向かっている訳だ。

 恐らく、門は厳戒態勢になっているだろうが、辿り着いてしまえば何とでもなる。

 それこそ、大魔術の一つでも使えば、簡単に突破出来る。

 後は、何処かで馬か、移動用の魔獣を手に入れて、クリファレスにでも逃げてしまえば……

 そう考えていた瞬間、正面から小さい黒いナニカが此方へと走って来る。


「なっ!?」


 その正体に気が付いた時には、その黒いナニカが飛び掛かって来ていた。

 ブラックウルフ。

 そのブラックウルフが、一直線に此方へと飛び掛かって来たので、慌てて革防具を付けていた左腕を使って身体を守る。

 牙が革防具に喰い込むが、幸いにして貫通はしなかった。


「クソッ! 一体何で!?」


「本当に見付けるとはな。 良くやったぞ」


 その言葉が聞こえてきた瞬間、背筋がまるで氷魔術を受けたかのように冷たく感じ、ブラックウルフごと横に跳んで離れる。

 そこには、学園で吹き飛ばした筈のマルクスと騎士団、そして、黒い武具を身に着けた黒髪の男。


「貴様は……」


「かなり強力な『認識阻害』の魔術の様だが、臭いまでは誤魔化せない様だな」


「ふむ、逃げた犯罪者を追うのに使えそうですね」


 男とマルクスがそう言いながら此方に歩いてくる。

 このままでは……


「えぇい! いい加減離せ!」


「ギャイン!?」


 噛み付いていたブラックウルフの腹を、思い切り殴り付けると、その痛みでブラックウルフが悲鳴を上げて離れた。

 そして、自由になった左手も使って短杖を構える。


「水よ! 大河と成りて眼前の全てを押し流せ! 『タイダル・ウェイヴ』!」


 切り札である水の魔術により生み出された大津波が、奴等を飲み込むべく突き進む。

 普段であれば此処までの威力は出せないが、今の私は『効率上昇の指輪』のお陰で何倍も強い魔術を発動させる事が出来る。

 このまま奴等を押し流し、そのまま私は悠々と逃げる、そう考えていた。


「手助けは必要か?」


「この程度であれば、必要ありませんね」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、生み出した大津波は一瞬で凍り付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る