第319話




 学園長室に入ると、そこには学園長以外に魔法師団の副団長であるマルクス様もいた。

 コレはもしや、次期魔法師団の団員を我が学園から採用する為の話し合いなのか?

 そう言えば、少し前にあった教会が引き起こした問題で、国の兵士を増やす様な話が出ていると聞いた事があるが、魔法師団も募集するのか?

 そんな所に私が呼ばれたという事は、まさか私が採用されるという事なのか?

 それなら、心配するだけ無駄だったか……


「急な呼び出しをして申し訳ないな、バーラード学年主任」


「いえ、それは良いのですが、何故、此処にマルクス様がいらっしゃるのでしょうか?」


 私の言葉に学園長が頷いた後、椅子を勧められたので座ると、マルクス様と一緒にいた騎士が何故か扉の方に立った。

 まるで、この部屋から誰も出さないという感じがする。


「ソレについてだが、此処での話は他言無用だ」


 学園長がそう言うが、それはそうだろう。

 次期魔法師団の団員採用であるとすれば、話を聞いた学生達が教師に対して媚を売る様になるだろう。

 そうなったら授業どころではない。


「分かっております。 マルクス様がいるという事は、兵士か魔法師団の団員の募集の話ですね?」


 私の言葉に、学園長とマルクス様が顔を見合わせている。

 違うのか?


「団員の募集? 何の話ですか?」


「……もしかして、少し前に噂になっていた、『国が兵士を新しく増やそうとしている』という噂の事では? 」


 マルクス様が不思議そうに首を傾げ、学園長が思い出したかのように言う。

 そう、その話だ。

 今日はその話をする為に来たのでしょう?


「あぁ、あのですか……我々も困っているんですよね、連日勘違いした人が来るんですよ。 どうやら、勘違いして先走った兵が話の出所のようですが、一体どうしてそんな事を思ったのか……」


 呆れた様にマルクス様が言うが、私としてはそんな事はどうでも良い。

 募集はデマだと!?

 それじゃ一体……


「今日は、先日に起きた王城を襲った魔導生物について話を聞きに来ました」


 その言葉で、私の背中に嫌な汗が流れる。

 平常心を保ち、私は驚いた風を装う。

 私は無関係、私は無関係、私は無関係……


「王城に!? 一体誰が……」


「実は、その魔導生物の中から、核となる魔石以外に、この学園でしか使われていないモノが見付かりまして、我々は手掛かりを探しに来た、と言う訳です」


「その見付かったモノというのは……」


「うむ、実は交換したばかりの『魔導鍵』だ。 誰の物か今はギランに調べさせているが、交換の指示を出したのはバーラード学年主任だと聞いたのでな、話を聞きたいという事で呼んだのだ」


 あの魔導鍵に登録されているのは、あの小娘のマナ波動。

 つまり、登録されているマナ波動の持ち主が犯人と思っているのであれば、私は疑われていないだろう。


「確かに、私が交換の指示を出しましたが、それは誰かが学園内で窃盗を試みた様で、防犯上の理由でして……」


「ふむ、防犯上の理由か……儂は聞いておらんのだが?」


「別に何かが盗まれてはいませんし、交換だけでしたので……」


 学園長の問い掛けにも、事前に考えていた理由を話す。

 実際にはそんな事は起きていないが、今更確かめる事は不可能。


「その交換した魔導鍵は?」


「私の方で集めた後、責任を持って処分しました」


 本当は職人に渡して処分させるのが普通だが、教師から集めるのに時間が掛かると言って、私の方で集めた後に処分すると言っておいた。

 そして、他の魔導鍵はちゃんと処分しておいたので、そこから辿る事も出来ない。


「しかし、流石はマルクス様達近衛魔法師団ですね」


「ん?」


「ボロボロだったとはいえ、危険な魔導生物であるを倒すなど、流石としか言いようがありません」


 ガーゴイルはかなり強い魔物であり、個人が作れる魔導生物では最強の一角だろう。

 あれ程ボロボロだったとはいえ、そんなガーゴイルを倒せるのは、一握りの上澄みの冒険者や魔術師といった一部に限る。

 まぁ私だって倒せるがな!

 そうしていたら、ギランの奴が調べ終わった様で部屋に入って来た。

 その後ろに同じ様に入って来た魔術師が、騎士の隣に立つ。


「学園長、魔導鍵が調べ終わったのですが、登録されていたのは既に学園を辞めていた教師でした」


「……それで、誰だったのだ?」


「それが『リリー=フラムベル』嬢でした」


「何とあの娘! 考えてみれば出自も怪しい上に、妙に可笑しな行動をしていたとは思っていたが……まさか、あんな危険な魔導生物に王城を襲わせる等、一体何を考えているのだ!」


 あの小娘のマナ波動が魔導鍵に登録されているのだから、調べれば当然そうなる。

 調べたギランの奴が予想通りそう言ったので、あの小娘が犯人だと思い込ませようとしたのだが、全員が私の方を見ている。

 そして、学園長が溜息を吐いて頭を抱えている。


「バーラードよ……まさか、本当にお主だったとは……」


「ど、どういう意味ですか? それに、持ち主を調べてあの娘だったと言う事は、王城を襲撃したのはあの娘と言う……」


「彼女が態々そんな事をする等、あり得ませんね。 」


 マルクス様がそう言うと、急に私の肩を後ろにいた騎士が掴み、腕を魔術師が掴んだ。

 そして、そのまま私の足が払われて床に押し倒されて拘束されてしまった。


「それに彼女の場合、そんな事をしなくても、普通に襲うだけで終わりますし」


「それは、トレバー様でも?」


「団長なら少しは持ち堪えられるでしょうが、直ぐに押し切られるでしょう。 何よりも連れていますし、魔導鎧の強さも考えれば、あっという間に制圧されるでしょう」


「確かに、あの魔導鎧を見ましたが、近衛騎士団が総出しても、直ぐに返り討ちに合うでしょうな」


 学園長とマルクス様の話を聞きつつ、ギランがそんな事を言っている。

 一体何の話だ、あの小娘はそんな実力者には見えなかったぞ!?


「さて、そもそもどうして貴方が犯人なのか、と言う事ですが……貴方は先程、『王城をボロボロのガーゴイルが襲った』と言いましたね?」


 マルクス様が私の前に歩み寄ってくる。

 確かに、そうは言ったが……


「私は『』と言っただけで、『』とは言っていませんし、何より、そのガーゴイルがなんて事は一切言っていません」


「つまり、『犯人でなければ知り得ない情報』を、お前は知っていた、と言う事だ……」


「犯人でなければ、何故、『魔法生物』と聞いて『ガーゴイル』だと思ったのですか? 王都を襲撃するならともかく、王城の様な強固な守りを有する場所を襲撃するのであれば、こっそり近付いて『ゴーレム』を召喚する方が確実で、混乱に乗じて逃げる事も容易いですし、何より『魔法生物』と聞けば、大抵の人はあまり馴染みの無い『ガーゴイル』よりも、『魔法生物』として多く知られている『ゴーレム』を思い浮かべるでしょう」


「そ、それは……ガーゴイルが王都の外から飛んでいくのが……」


「成程、つまり、貴方はガーゴイルが王都に飛んでいくのが見えたのに、住民に警告もせず、門の兵士に報告もしなかった訳ですね?」


 マルクス様と学園長から言われ、そこで初めて自らの大失態に気が付き、何とか考え付いた理由を言ったら、更に拙い状態になってしまった。

 このままでは……


「そそんな事はっ……」


「兎に角、貴方には話を聞かねばならないでしょうね」


 マルクス様の指示で、私を拘束していた騎士に立たされ、魔術師が特殊な手錠を手にして近付いてくる。

 この手錠を装着すると、体内のマナが外に放出出来なくなり、魔術が使えなくなる。

 そうなってしまえば、魔術師は死んだも同然だ。

 そんな事認められるか!

 騎士の拘束はかなり強いが、魔術師が手錠を嵌めようとする一瞬、拘束の力が緩む。

 その僅かな時間で、私は身に着けていた自衛用の護符を引き千切ると、護符に内包していたマナが一気に開放され、騎士と魔術師が吹っ飛ばされた。

 更に、騎士はマルクス様、いや、マルクスを巻き込み、魔術師は吹き飛んだ先が学園長の机だった為、学園長が驚いて、座っていた椅子から転げ落ちている。

 だが、コイツ等が復帰する前に逃げなければ、護符はこれしか持っていない。

 こんな事なら、着替えなんてせずに来れば良かった!

 もう、こうなったら他国にでも亡命するしかない!


 瞬時にそう考えて、私は学園長室から飛び出した。

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