第318話
ジェイソンという魔道具師の話を聞き、私達はその魔導鍵が使われている場所へと来ていた。
その場所こそ、『マグナガン学園』であり、ジェイソンの話ではこの魔導鍵に対応している最新型の魔導錠を使っているのは、現在の所では此処だけであり、他の所ではまだ提供していない、と言う話だった。
コレは、学園側から『最高の防犯機能を』という要望を受けて、開発が終わったばかりの最新魔導錠を使った為で、学園の評価を見てから販売を開始しようと考えていたので、まだ何処にも売ってはいなかった。
一つ前の物も同じ構造で、最新型はコレに加えて、登録されたマナ波動が何処で使われたかの情報が常に記録される様になっている。
なので、王城に
そうして、学園長に協力を頼むべくこうしてやって来たのだが、流石に何十人もの兵や魔術師を連れて来たら、犯人に逃げられる恐れがある。
なので、今回は私と私が信頼する部下数名と、サーダイン公爵様から腕に覚えのある騎士を数名連れてきた。
これで犯人に逃げられたら全員クビだな。
「……コレは確かに、学園で採用した魔導鍵ですな」
学園長がそう言って、眺めていた魔導鍵を騎士に渡した。
まず、本当に学園で使われている物かを確認して貰った訳だ。
そして、本題となる私達が来た目的を学園長に話したのだが、学園長も唖然としている。
私だって、実際に見ていなければ同じ反応をしただろう。
「……話は分かりました。 直ぐに調べさせましょう」
学園長の指示で、魔道具に詳しい教師が呼ばれたのだが、その教師は眠そうな目でやって来た。
しかも、見慣れない多脚の虫型ゴーレムに乗った状態でだ。
その教師が魔導鍵を手に取り、何かの装置に繋いでいる。
「あの、それは?」
「これはこの魔導鍵に登録されているマナ波動と、学園の教師陣のマナ波動を比較して登録情報を調べる装置ですよ」
聞けば、この魔導鍵を採用した際、魔導錠に全職員の情報を登録し、この魔導鍵には所有する教師のマナ波動だけを登録したので、あの装置には、現在この学園にいる全教職員のマナ波動が登録されており、該当する人物を特定出来る様になっているらしい。
繋げて暫く待っていると、装置からピーピーピーと音が鳴った。
それを受けてその教師が首を傾げた後、もう一度装置に繋ぎ直してみるが、同じ様に音が鳴る。
「可笑しいですね、この魔導鍵に登録されているマナ波動の教師は当学園にはいません」
何?
その話が本当であるなら、ジェイソンが嘘を言った事になるが……
「ふむ、それなら別の方法を試しますか……ちょっと時間が掛かりますが、お借りしても?」
「流石に一人にする訳にはいきませんので、此方のフレデリック、ベルナールの両名と一緒でなら良いでしょう」
流石に犯人がいるかもしれない所で、唯一の証拠品を我々の目の届かない所に持ち出されるのは拙い。
だが、何か調べる方法があるらしいので、私と一緒に来ていた魔術師のベルナールと、騎士のフレデリックと共に教師が出て行った。
これで所有者が判明すれば良いのだが……
「しかし、王城に魔導生物とは……」
「まぁ、相手が何をしたかったのか、目的が分かりませんね」
あの
一体何の目的があったのか謎だが、団長が調べて何か分かれば良いが、崩壊してしまった魔導生物から分かる可能性は限りなく低い。
崩壊する前に捕獲すれば、その術式から目的を調べられるのだが、崩壊してしまうと術式も一緒に崩壊してしまう。
部分的に分かる所もあるが、それで術式の全体像を把握する事は至難の業だ。
「学園長は犯人に心当たりはありませんか?」
「ううむ、魔導生物を作れるとなると、相当な実力があるんでしょうが……教師の中で出来るのは恐らく数人、と言った所でしょうが、実力を隠している場合もあるでしょうから、絶対……とは……」
学園長が申し訳無さそうに言うが、流石に全員の実力を把握するのは難しいだろう。
しかし、その情報だけでもありがたい。
数名の名前を書き留め、後でその人物達と個別に話をする事にしようと考えていたら、先程、教師と共に出て行ったフレデリックが戻って来た。
ただ、一緒にいるのは出て行った教師とは別の青年だ。
「マルクス様、此方の教師が少し気になる話を」
「何?」
その青年も教師らしいが、先程一緒に出て行った教師が持っていた魔導鍵を見て、気付いた事があったらしく、声を掛けて来たのだという。
一応、ベルナール達は調べる為に別室に向かったが、フレデリックだけは青年を連れて戻って来たという訳だ。
そして、青年の話を学園長と共に聞き、その内容を学園長に聞いたか確認したが、『そんな話は聞いておらん』と言われた。
犯人が絞れてきた、と言うより、これはほぼ確定だろう。
「……学園長、直ぐに呼んでもらっても良いでしょうか?」
「う、うむ……まさか彼がやったとは信じられないが……」
学園の教師を信頼しているのだろうから、学園長が信じたい気持ちは分かるが、我々としては犯人を捕まえねば国の威信に関わる。
それに、王都中に響く警戒の鐘の音や、王城に飛来する物体も目撃されているだろうから、このまま内密に処理する訳にもいかない。
そうして、学園長は一人の教師を呼び出す様に指示を出した。
飛び去る
相手は直線に進むが、此方は木々に邪魔されてどうしても速度が出せず、どんどん離されていく。
王都の壁が見えてきた辺りで追跡を諦め、同じ方角から現れたら怪しまれると考え、更に迂回して別の門へと向かう。
王都に入る際、門番の兵士に学園の身分証を見せるだけで中に入れる。
他人が見たら不用心だと思われるが、これは学園の教師であると言うだけで充分な保障になるから、兵士は殆ど調べないだけだ。
それに、一々詳しく調べていたら、時間が足りなくなって殆どの人が王都に入れなくなる。
そのままの足で学園へと戻ったのだが、学園内が少々騒がしい。
通った教師の一人を捕まえて事情を聴くと、魔法師団の副団長が数名の部下を連れて訪れているらしく、何の目的があるのかで騒ぎになっているらしい。
それを聞いて、一瞬、あの魔導生物が何かしたのかと思ったが、それなら数名しか部下を連れて来ていないのは変だろう。
カモフラージュ用に用意していた薬草を治癒師科の教師に届けて、授業で使う試薬にする様に指示を出しておく。
そして、自室に戻って今後の事を考える。
まず、自分と魔導生物を結び付ける事は不可能だ。
私が外に出ている記録はあるが、魔導生物が飛来した方角とは別方角だし、そもそも、私が魔導生物を作れる事は学園には話していない。
更に魔導生物を作った際に使用したのは、森の中の素材ばかりで、核にした魔石も手に入り易いオークの魔石だ。
目標となる小娘を追いかける為に、小娘のマナ波動が記録されている魔導鍵を埋め込んだが、それを調べた所で私に辿り着く事は無い。
問題は無い。
問題は無い筈だ。
そう思っていたら、部屋の扉が叩かれた。
「……何の用です? 今日は授業は無い筈ですが……」
「失礼しますバーラード学年主任、学園長がお呼びなので、至急来てもらっても良いでしょうか?」
そう告げられ、一瞬眩暈がするが直ぐに立ち直る。
大丈夫だ、証拠は無きに等しいのだから、きっと何か別の用事だろう。
もしかしたら、次期学園長を決める学園長選についての話かもしれない。
「分かりましたが、今、着替えをしているので、着替え終わり次第直ぐに向かいます、と学園長にそう伝えてください」
本当は着替えてなどいないが、多少は時間を稼いでから向かった方が良いだろう。
「いえ、一緒に来る様に、との指示なので此処でお待ちしています」
クソッどういう事なんだ!
待たせると面倒な事になりそうだから、本当に着替えるが、身を守る護符といった物は身に着ける時間はないので、その殆どを置いて行く事にした。
まぁ、学園の中なのだから身の危険など無いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます