第316話
上空から地上の開けた場所を見下ろすと、その広場に体内にあるマナと同じ波動を感じる。
自分が『創造主』から命じられたのは、『体内のマナ波動が同じ相手を攻撃しろ』と言う命令。
その命令を遂行する為、邪魔になりそうな相手は排除する事も命じられているのだが、あの広場にもまるで邪魔するかの様に立ち塞がっている相手がいる。
その邪魔者はマナの量がかなり多いが、その形状は大型の熊の魔獣。
創造主から渡された槍は総ミスリル製であり、この槍であれば熊の魔獣程度、簡単に排除出来るだろう。
広場の上空を旋回し、熊の隙を伺いつつ、バサリと翼を翻して一気に熊目掛けて急降下していく。
そして、狙い通りに熊の腹に槍が当たり、ズドンと轟音を響かせた。
ミスリルの槍に素材に石材を使用し、その重量と急降下の速度を合わせた攻撃を耐えられる相手など、殆ど存在しない。
この邪魔者を排除した後は目標を……
そう思った瞬間、自分の腕が掴まれた。
そして、そのまま凄まじい力で引かれ、その勢いのまま地面に叩きつけられる。
叩きつけられた反動で体が浮くと、そのまま逆側に叩き付けられ、それが何度も繰り返される。
何故だ、この熊は串刺しになった筈では!?
空をグルグルと旋回しているガーゴイルを見てるが、何と言うか喰い出はなさそうだな。
背中にある翼は蝙蝠みたいだが、その身体は骨と皮だけみたいに細いし、肌の色は灰色。
その手にはなんか青白い槍を持ってるが、アレで攻撃してくんのか?
そう思ってたら、ガーゴイルの奴が一気に急降下してきた。
どうやら、ガーゴイルの狙いは後ろにいるちっこいのみたいだが、その前にいる俺が邪魔だから先に片付けようと考えたようだ。
俺からすれば、ガーゴイルからは何の脅威も感じ取れないが、ガーゴイルの狙いは俺の腹か!
そして、槍が俺の腹に突き刺さり、凄まじい轟音がした。
確かに、凄まじい攻撃なんだろうが、俺の腹筋を抜くには些か力不足だな。
む、ガーゴイルが持ってた青白い槍がグシャグシャになって、丁度掴み易い所に右腕がある。
コイツが気が付く前にっと、ガシッとガーゴイルの腕を掴む。
で、この後は、トドメを刺す前に動きを止めるのが一番か。
そうなると、俺の爪で攻撃したりすると動きを止める前に倒しちまうから……
「グルァァァッ!(オラァァァッ!)」
ガーゴイルの腕を掴んで力一杯振り回して、そのまま地面に叩きつける!
それこそ、一度じゃなく、何度も何度も何度も何度も。
叩き付ける度に『ギャッ』『グェッ!』『ギィッ!』って声が漏れるが、この手の奴は意外としぶといからな、念入りに叩きつけて完全に動けなく……
あ、掴んでた腕が捥げちまった。
その捥げた腕の断面を見ると、どう見ても肉じゃないなコレ。
何というか、土っぽいというか石みたいだし、骨みたいなモノもない。
とてもじゃないが喰えるようなモンじゃないな。
肉が喰えんとしても骨があれば、それを煮込んでみたいと思ったんだが……
「グァゥ……(駄目だなこりゃ……)」
持っていた腕をポイッと捨てる。
ガーゴイルがベヤヤ目掛けて急降下し、ベヤヤに槍を突き刺した。
急降下して全体重を槍の一点に集中した攻撃じゃから、ズドンと凄い音が響いておるのう。
「師匠、アレ大丈夫なのか?」
バートにそう聞かれるが、あの程度でベヤヤがどうにかなる訳が無いのじゃ。
ほれ、その証拠にベヤヤがガーゴイルの手を槍ごと掴んでおる。
で、ベヤヤがそのまま振り回して、地面に叩き付けまくっておるじゃろ?
アレじゃガーゴイルと言えど一溜りもないじゃろう。
あ、腕捥げた。
そして、ベヤヤが捥げた腕の断面を見ておるが、その表情を見る限り、食用には適してなかったようじゃのう。
「グァゥ……(駄目だなこりゃ……)」
ベヤヤはポイッと捥げた腕を捨てると、吹っ飛んだガーゴイルに近付いていく。
そのガーゴイルじゃが、地面に叩きつけられまくって機能不全を起こしておるのか、僅かに藻掻くように動いておるだけじゃ。
まぁ藻掻いておるというか、ピクピクと痙攣しておる、と言う方が正しいのかもしれんが、まぁもう動けないのは間違いないのじゃ。
しかし、首謀者がガーゴイルを作ってまでワシを狙って来たのであれば、此処で倒したとしても、次から次に狙われる事になるのう。
それこそ、今度はガーゴイルじゃなくて、ガーゴイルを作れるような腕があるなら
………合成魔獣は魔導生物と違って、材料は魔獣限定じゃから、なんか
「グァッ(よっと)」
ベヤヤが藻掻いておると言うか、痙攣しておるガーゴイルの頭を踏み潰し、それでガーゴイルは完全に機能停止したのか、徐々にその身体がボロボロになって崩れていくのじゃが、その胸の辺りから何か出て来たのじゃ。
砕けた魔石以外に、なーんか見覚えがある物が見えるのう……
それを拾い上げると、それは四角い長方形の薄いカード状の物。
ははーん?
「それって……アレだよな?」
「……何でソレがそっから出て来んだ?」
成程成程、つまり、ワシを狙った相手はあそこにおるという事じゃな。
全く、ワシを狙う等、何を考えておるのか……
「取り敢えず、コレはちょーっとオシオキが必要じゃな」
「具体的にはどうすんだ?」
ムッさんが馬車の上からそう言ってくるが、そうじゃのう……
ワシが直接何かするというのは、ちょっと違う気がするのじゃ。
それに、ワシが直接手を下した場合、事情を知らぬ者が『ワシが攻撃してきた』と首謀者に吹き込まれる危険性があるから、手を下すのは避けたい。
……あ、良い事思い付いたのじゃ。
「この方法なら首謀者は困って破滅するじゃろうな、ケケケケ」
「うわぁ、ひっでぇ顔」
「顔以前に、何だその笑い方」
バートとムッさんがツッコミをしてくるが、魔女っぽいじゃろ?
『どんな理由だ』
「ま、取り敢えず……仕込みをしたら王都に戻るぞーって、そう言えば、ベヤヤの腹は大丈夫なのじゃ?」
そう言ってベヤヤの腹のあたりを見るのじゃが、まぁ真っ白。
見た限りでは傷一つないが、何かダメージを受けておるかもしれぬ。
『ちょっとチクッとしたくらいだぞ? あ、コレどうする? いるか?』
あの攻撃でチクッとしたくらい……
確かに『エンペラーベア』は最終進化を終えて相当な強さになってはおるが、石材を元にしたガーゴイルの急降下攻撃、それもミスリル製の槍を無傷で耐えられる訳が無いんじゃが、まぁベヤヤじゃし、そこ等辺は考えたら負けじゃな。
多分、ワシが見ておらん所でも訓練しておったんじゃろう。
……まぁそれでノーダメージになるのかと聞かれたら、答えにくいんじゃがね。
相変わらず、ベヤヤはフィジカルお化けじゃな。
そしてベヤヤが、転がっておった槍だった物をワシに見せて来たのじゃ。
ガーゴイルが持っておったのは、穂先から柄まで全てがミスリル製で出来た槍じゃが、まぁグッシャグシャに折れ曲がりまくっておる。
穂先も曲がっておるから、このままじゃ武器としては完全なゴミじゃな。
一応、純度は低いようじゃがミスリルじゃから使い道はいくらでもある。
ゴミを受け取った後、それをインゴットに加工してインベントリに収納しておくのじゃ。
「さーて、ワシに喧嘩を売った馬鹿者を、盛大に後悔させてやるのじゃ」
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