第315話
『シャナル』への帰還中、広さ的に流石に作業を同じ馬車でやる訳にはいかんから、追加で後ろにもう一つ馬車を追加して、ワシはそこでムッさんの『強化外骨格・改』で使う特殊斧を作る。
基本は既存の斧に部品を追加するだけじゃが、実際に設計図通りに作っては組み立て、干渉したりする部分を削ったり、構造を変えたりと手直しをしていく。
普通、馬車は馬が引くんじゃが、その場合、馬では一台引くのが限界で、魔獣が引く場合でも、パワーが高い魔獣では速度は出ぬ。
じゃが、ベヤヤの場合はパワーも速度も遥かに高く、重量がある馬車でも2台引こうがあんまり変わらぬ。
お陰で空間を広く使えるのじゃ。
刃は既存の物じゃが、『強化外骨格・改』のパワーじゃと木材の柄じゃと耐えられんから、強化アダマンタイトに変更して、柄の石突の部分に強化アダマンタイトと強化オリハルコン、強化ミスリルの合金で作った鎖を付けるのじゃが、その長さを自在に調整する為、手首部分に鎖を収納する魔法袋を装着。
この魔法袋は鎖を入れるだけじゃから、収納する物を限定する事で容量を稼ぐのじゃ。
鎖の長さとしては軽く十数キロを収納し、これで斧を投げても鎖を引けば手元に戻す事が出来る様になった。
本当は、投げても自由に戻って来る様にすれば便利じゃったんじゃが、コレが凄く難しい。
最初、手の平部分に魔法陣を刻んで、斧に刻んだ魔法陣で手元に戻る様にしたかったのじゃが、試しにやったら、戻って来た棒がキャッチ出来ず側頭部に直撃した。
コレがもし作った斧じゃったら大事故になったじゃろう。
なお、ムッさんはそれでのた打ち回っておった。
なので、鎖で物理的に引き戻す事にしたのじゃ。
これならもしヤバければ、そのまま後ろに飛ばして回避出来るし、鎖を掴んでぶん回す事も出来るのじゃ。
そうして、次の野営地に到着し、前と同じ様に準備した後、二人には周囲の安全確認、ベヤヤは料理、ワシは馬車の中での作業と分担。
それが終われば自由時間じゃ。
見回りが終わったから、やる事が無くなったんで、馬車の上で寝転んで一眠りする。
一眠りと言うが、他にする事が無いからだ。
『重犯罪者奴隷』である俺が、この野営地を歩き回る訳にはいかねぇし、前にやったクソガキの実験で頭が痛ぇし。
一応、慣れるまでは、先端に錘を付けた棒で練習するんだが、周りに他の奴がいたら出来ねぇし、こうして暇になる訳だ。
「ファァア……眠ぃ………って、何だアレ」
眠気で欠伸をしていたら、夕暮れになり始めた空に小さな黒い点が見えた。
最初はただのゴミかと思ったが、それがユラユラと揺れて少しずつ大きくなってきている。
「おい、クソガキ、なんかこっちに飛んで来てんぞ?」
馬車の側面をガンガン叩き、中にいる筈のクソガキに知らせておく。
しばらくすると、側面にある扉が開いてクソガキが出て来た。
このクソガキ、見た目はガキだが理不尽極まりないガキだ。
「どうしたんじゃ? 『なんか』って何じゃ?」
クソガキが俺が指差した方を見るが、この距離で分かる訳ねぇだろ。
そうしていたら、周囲にいた他の冒険者とか行商の商人とかも気が付いたのか、何やら少しずつ騒がしくなってくる。
そして、冒険者共が武器を用意し始める。
野営地には魔獣や魔物とか、
「ふーむ、あれは……」
クソガキがそうしてる間に、どんどん黒い点が迫って来る。
そして、その姿が見えるまで近付いた。
「『ガーゴイル』だ! 気を付けろ!」
「何で『ガーゴイル』なんて来るんだよ!? 近くに『迷宮』なんて無い筈だろ!?」
「馬鹿野郎! さっさと逃げるぞ! 荷物なんて捨てろ!」
その正体を見た冒険者の一人が叫んで、それで他の奴等が護衛対象の商人に逃げるように準備を始める。
『ガーゴイル』ってのは、『迷宮』とかで出て来る魔導生物だ。
大抵は『迷宮』の中にある石像とかの中にマナが溜まって魔石を作り、まるで生物の様になった魔物。
誕生の経緯は『ゴーレム』と似てるが、『ゴーレム』と違って飯を喰ったりするし、魔術を使ったりするから、脅威度は『ゴーレム』とは比べ物にならない程高い。
確か脅威度は『ランクB』だった筈だ。
「どうすんだ?」
「どうすると言ってものう……放置する訳にもいかんし……」
クソガキがそう言ってる間にも、『ガーゴイル』はこっちに飛んでくる。
しかし、『迷宮』の『ガーゴイル』なら、外に出たとしても『迷宮』の近くにしか飛び回らねぇのに、こっちに飛んでくるのが分からねぇ。
「こっちに飛んでくるという事は……多分、アレは術者が作ったモノで、何か目印があるんじゃろうから、下手に動くのも危険じゃし」
『何があったんだ? 騒がしいけど』
白熊野郎がそんな事を言いながらやって来る。
コイツはクソガキの従魔だが、クソガキが従えてるなんて誰も思わない様で、俺の所に『譲ってくれ』と言って来やがる連中までいる。
こう言う奴等は、俺が『強化外骨格』を使って、実力で捩じ伏せて従えさせてるとか思ってるんだろうが、こんな災害指定されてる様な魔獣を、『強化外骨格』を使ったとしても従えられる訳ねぇだろ。
何より、クソガキが規格外なら、この白熊野郎だって規格外だ。
魔獣のクセに嬉々と料理とかしてやがるし、今もフライパン片手に来やがった。
「なんか『ガーゴイル』がこっちに来ておるんじゃが、どうするかのうって話をしておってな」
『へぇ『ガーゴイル』』
「倒すのも空飛んでるからメンドクセェし、地味にカテェし……」
「クソ、俺の『強化外骨格』も完成してねぇし、ムッさんのじゃ周りにも影響がデカ過ぎる、師匠なら簡単に倒せるだろうが……」
バートの奴が周りを見てるが、そこには逃げ出し始めた冒険者や商人連中がいる。
行商人の護衛依頼を受ける様な冒険者ってのは、一部の例外を除いて大抵が中途半端なランクの奴等が多い。
だから、『ガーゴイル』なんて魔物を倒せる様な奴が、運良く此処にいるとは思えない。
そんな中でも、クソガキの強さは常軌を逸している。
そんな強さを此処で見せたら、コイツ等がどうにか仲間に引き込もうとしてきて、この先どんどんうざったい事になる。
どんどん迫ってくる『ガーゴイル』をよく見れば、その手に何か槍の様な物を持っているのも見える。
普通の『ガーゴイル』は武器なんて使わないが、それなのに武器を使う個体って事は、相当強い個体って事だ。
『なぁ、ちょっと聞きてぇんだけどよ』
「ん? なんじゃ?」
『『ガーゴイル』って喰えんのか?』
この白熊野郎、トンデモねぇ事言い始めやがった。
『魔導生物』ってんだから、喰える訳ねぇだろ……
「あー……んー……どうなんじゃろ? 『迷宮』産じゃなくて術者が作ったモノなら、使っとる素材によっては喰えるじゃろうけど……」
「そうなのか?」
「実は『魔導生物』と言うのは、喰える生肉とか植物とかでも作れるんじゃ。 じゃから、アレがそう言うのを使っておればワンチャン……」
『よし、それじゃやってみるか』
フライパンをバートに押し付けて、白熊野郎が野営地の広い所に歩いて行く。
ま、白熊野郎なら別に問題ねぇか、『ガーゴイル』程度、どうにでもなるだろ。
そう思いつつ、俺は馬車の上にゴロンと横になった。
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