第314話
王都から出発し、いくつかの村を通りながら『シャナル』へと進んでいく。
と言っても、『シャナル』に到着するのは一ヶ月は掛かるのじゃ。
普通なら二ヵ月以上は掛かるが、そこはベヤヤのパワーと特製馬車の機動力で、かなりの時間を短縮出来るのじゃ。
今日は野宿となるのじゃが、こういった野宿する場所と言うのは、街道に専用の場所が併設されておるのじゃ。
と言っても、別に宿があったり、何か建物がある訳では無く、専用の場所は小さい広場で、そこに何人も冒険者や行商人の馬車が止まっておる。
こういった場所は、盗賊とか魔物や魔獣対策として柵が作られており、ちゃんとゴミを捨てる場所もある。
そのゴミの捨て場じゃが、基本、利用した者が処分するというのが、暗黙の決まりとなっておるらしい。
そうしないと、そのゴミに惹かれて、魔獣や魔物がやってきてしまうのじゃ。
大抵は、魔術師が火魔術で焼き払っておる。
そこに馬車を止めた後、馬車の下にある固定用の足を引き出して地面に固定、馬車の所々から机や椅子を出したり、天幕を引き出し、天井から引き出した棒にランタンを取り付けたりと色々と準備するのじゃ。
この特製馬車、ぶっちゃけキャンピングカーを参考にしておるから、こういった事が出来るのじゃ。
「『プチ・フレア』『
そう呟いて指先に火を灯し、それをゴミが溜まった穴に放り投げると、一気に火が燃え上がり、ゴミが灰になっていく。
その後、隣に新しい穴を作っておく。
今回は、利用者達の中に魔術師がおらんかった様じゃな。
そうなると、処理の為には油を掛けて火を付けて、何かで扇いで風を送り続ける必要があるので、出発する最後の日に行うのじゃ。
「こっちは終わったのじゃが、そっちはどうじゃ~?」
「あぁ終わったよ」
『取り敢えず、近くにヤバそうな奴はいなかったぞ』
ムッさんが巨大な剣を肩に担いでそんな事を言っておる。
バートとムッさんには、森の中の安全を確認して貰っておったのじゃ。
そしてベヤヤじゃが、普通に馬車の隣で料理をしておる。
お陰で、馬車の近くには美味しそうな匂いが漂っており、行商人とか冒険者達が此方を見ておる。
実は、此処に来る前の所で、行商人が『分けて欲しい』と言って来たのじゃが、ワシ等の食事じゃから無理じゃと断っておるのじゃ。
ベヤヤからすれば、別に提供しても良いと思ってそうじゃが、一度でも提供すればその話が広まって、野宿する度に集られる事になるのじゃ。
じゃから、例え金を払うと言われようが、提供する事はしてはならぬのじゃ。
「で、バートの方はどんな感じなんじゃ?」
「一応、完成と言えば完成だけど調整が中々終わらなくて、本格的に使うのはまだまだ先だな」
ベヤヤが作ったシチューとパンを食べながら、バートが改造しておる『強化外骨格』が気になったので聞いてみたのじゃが、やはり調整の所で躓いておるようで、運用するまでまだ時間が掛かりそうじゃな。
あ、そう言えば『強化外骨格』で思い出した事があるのじゃ。
「バート、ちょっと渡してあった『素体』を出して欲しいのじゃ」
「そりゃ問題無いけど、何するんだ?」
「うむ、ちょっと『補佐プログラム』を追加しておく必要があってのう。 安全性はムッさんで試してあるから大丈夫じゃぞ~?」
バートが取り出した『素体』を受け取り、その背中側のパーツを外し、ワシが取り出した水晶の様な物と繋げると、水晶がチカチカと点滅し始めたのじゃ。
暫く点滅を眺めておると、その点滅の間隔が少しずつ長くなっていき、最終的に光が消えた。
コレで『補佐プログラム』のインストールが終わったようじゃじゃ。
「よし、コレで良いじゃろう」
「へぇ、音声で色々補佐してくれるのか、コレなら調整も捗るな」
バートが『素体』を着込んで、少し動いてその有用性に早速気が付いた様じゃ。
この補佐プログラムじゃが、ムッさんの『強化外骨格・改』に追加したあの音声プログラムじゃ。
本来は『強化外骨格』の難しい操作を補佐する目的で作ったプログラムじゃが、それ以外にもマナ残量を一々確認する必要が無いし、搭載しておる武装をスムーズに切り替えたりも出来る様になるのじゃ。
あの様子なら、直ぐに慣れるじゃろう。
前にバートの『強化外骨格』の改造案を見せてもらったが、この補佐プログラムがあれば、相当楽になるじゃろう。
「ムッさんは何か希望はあるかのう?」
「……そんじゃクソガキ、コイツを変えられるか?」
そう言ってムッさんが取り出したのが、『強化外骨格・改』で使っておる剣じゃ。
取り付けておる魔石と、その線が怪しく光っておるから、本当にラスボスが持っておる武器に見えるのう。
それを受け取るのじゃが、この剣、切れ味や耐久力を上げたり、自然回復する様にしてあったのじゃが、何か不満があったのかのう?
「剣より斧に出来ねぇか? なんか使い辛ぇんだよ」
使い辛いとな?
此処まで見る限り、普通に振り回しておる様に見えたんじゃが……
ほれ、ここに来るまで、木でも魔獣でもぶった切っておったじゃろ?
「いや、
「成程、確かにムッさんの言う通りじゃな……で、どんなのが良いんじゃ?」
物を破壊する場合、普通に剣を振るより余計にマナを消耗する。
そして、ムッさんの希望では剣より斧の方が使い易いとの事。
そう言えば、ムッさんは最初斧を使っておったな。
しかし、普通の斧では面白くないから、ちょっと遊び心を仕込むとしよう。
「……変なモン付けんなよ?」
「変なモンとは失礼な。 それに普通の斧じゃ意味がないじゃろ?」
「例えばどんなモン付けるつもりだったんだよ」
「基本的には剣と同じ物を付与する予定じゃが、それだけじゃと面白くないからのう、何か仕掛けを付けようと思っておるが……どんなものが良いじゃろ?」
一応、『強化外骨格』で使う用として、前に斧を作ってもらってあったんじゃが、本当に何の変哲も無い斧じゃから、面白味に欠けるのじゃ。
馬車から引き出した机に紙を広げ、斧の改造案の候補を書き込んでいく。
候補の一つは、刃の延長線上にマナを収束して、刃を大きくして攻撃範囲を拡張しようと考えた案があるが、コレには重大な欠点があるのじゃ。
「マナを節約しようってのに、マナ使ってどうすんだよ」
「そこは分かっておるよ、ちゃんと使用する際だけ起動する様にしておくのじゃ」
後は、この斧は片手用の片刃じゃから、持ち手を延長して両手で振り回せる様にして、中央には魔石を付けるのじゃが、構造的に反対側に仕掛けを付けてみたいのう。
しかし、どんな仕掛けにするか悩むのう。
こう、刃の延長機能以外に、あったら便利な機能が良いんじゃが……
防御の為に盾でも発生させようかのう?
「いや、武器に盾なんかいらんだろ、それならコイツの機能に組み込めば良いじゃねぇか」
まぁムッさんの言う通りじゃな。
斧に盾の機能を付けたとしても、その斧を手放してしまったら使えんし、それなら『強化外骨格』に機能の一つとして組み込んだ方が良い。
ふーむ。
「攻撃性能としちゃ、剣にある機能がそのまま使えるし、コイツの性能を考えりゃいらねぇんだから……攻撃の補佐をするのが良いんじゃねぇか?」
「補佐、か……ふむ、確かに考えとしてはソレが正しいのかのう」
例えば、手から離れた際に自動で手元に戻って来る様にするとか、普段は軽いけどインパクトの瞬間時にだけ重量を増やして衝撃力を上げたり、事前に魔術を吸収しておいて攻撃時に刃に纏って威力の底上げをするとか……
それなら、ここをこうして、こっちに魔法陣を追加して……む、面積的にこれ以上魔法陣を刻むのは無理じゃな……
そうすると、魔法陣じゃなく仕掛けで解決するしかないのう。
「取り敢えず、『シャナル』に戻るまでに完成させる様にはするが、出来たらムッさんはテストじゃな」
「……大丈夫なんだろうな?」
「まぁそのテストで大怪我したり、死んだりしたりは~……………多分、きっと、恐らく…………ないじゃろ」
「信用出来ねぇ!」
ワシの言葉でムッさんが叫んでおるのを見て、バートは溜息を吐いておった。
いや、本当に大丈夫なんじゃが、少し脅し過ぎたかのう。
そうして、ムッさんの『強化外骨格・改』用の武器を作りながら、のんびり『シャナル』へと帰って行くのじゃ。
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