第311話
学園の授業では、多くの魔術の授業をしておるが、その中で使用される魔石は、冒険者ギルドや商人等から購入されておる。
じゃがここ最近、その魔石の消費が増えており、授業に間に合わぬ事が多くなっておる。
何故、魔石の消費が増えたのかと言えば、例の寄生虫騒ぎで検知する為の魔道具を作る際、魔石を砕いて粉末にした魔粉が必要になるのじゃが、この魔道具はバーンガイア中で使用する為に相当な量が必要になった関係で、かなりの量が必要になった結果、魔石が市場からほとんど消えてしもうた訳じゃ。
まぁ完全に無くなった訳では無いんじゃが、ギルドだって学園だけに売っておる訳では無いからのう。
なので、授業で使う分を入手する方法を考えねばならんのじゃ。
手っ取り早い方法として、兄上に頼むというのも一つの手なんじゃが、それじゃと今やっておる兄上の依頼の邪魔になってしまうからのう。
そう思って、冒険者ギルドや商人ギルドで話を聞いたのじゃが、駄目じゃった。
と言うのも、今は時期が悪いのじゃ。
この寒空の下では、魔獣や魔物は冬眠するか、活動が少なくなる。
当然、普段は追いかける冒険者だって、こんな寒空の下で活動したくはないのじゃ。
『
ギルド側でも、事の重大さは理解しており、最優先で回してくれるという事にはなっておるが、それにしても、他を全て止める訳にもいかんからのう。
そうしてギルドを後にし、王都を歩いておるが、別にギルドから手に入らぬのは分かっておったので、別に残念とは思っておらん。
寧ろ、コレでギルドから購入出来たとしたら、ギルドが魔石を隠し持っておった事になるから、逆に信用を失ったじゃろう。
今ワシが向かっておるのは、ワシにとってはいつもの商売相手であるエドガー殿の所じゃ。
ギルドから買えぬのであれば、個人で商人から購入すれば良いし、エドガー殿の所は行商として各地に人を送っておるから、道中魔獣や魔物に襲われ、場合によっては、護衛の冒険者が退治しておる。
その際に入手した素材や魔石は、一時商人が買取り、後でギルドとかで売買する訳じゃが、エドガー殿の所は今では王国でも有数の大商人となっておる。
それ故に、放置しても腐らず壊れず変化せず、という魔石は売るより保管しておいて、自身の商会で使った方がお得なのじゃ。
つまり、エドガー殿の所に行けば、売って貰えるかは別として魔石はある筈じゃ。
まぁ今までの事を出して、強制的に売らせる事は出来るじゃろうが、そんな事をしたら、エドガー殿の信用を失ってしまうのじゃ。
あの
なお、実はクリファレスではこの時期、物資が減ったと聞いた勇者の思い付きで、クリファレスの商人が保有していた大量の物資が、タダ同然で買い叩かれ、代わりに『戦時優先札』と言う札が配られていた。
この札は、『戦争が終わったら国が残金を払う』と言う、所謂、一時立て替えを証明する物だったのだが、勇者の思い付きで発行が決まり、短い時間で用意する事になったのでかなり作りが粗雑で、それに気付いた悪徳商人によって、額や保障部分を書き換えた『偽造品』が作られた結果、それを知ってキレた勇者によって、いきなり廃止になり、いくつもの商人が店を畳む事になっていた。
そしてやってきたエドガー殿の商店じゃが、まぁ暫く見なかった間に凄い事になっておった。
まず、今まではポーション工場に併設されておった店舗部分が、隣にあった建物へと移動し、工場の周囲は巨大な塀に囲まれ、入り口や所々に警備の為の警備兵が立っていたり歩いておる。
店舗となった建物にも、警備兵が数名立っており、入れない客と思わしき人々が外で列を作っておった。
まぁこうもなるか。
と言うのも、エドガー殿の所では、今では行商やポーションの販売だけでは無く、美樹殿考案の化粧品事業や、ワシが作った石鹸やベヤヤの食品事業にまで、その販売が膨れ上がっておる。
美樹殿は化粧水や肌を守る為の保湿クリームなどを作り、それを明確なレシピ化した後、エドガー殿が協力して増産し、その販売額の一部が美樹殿の所に送られる契約となっておる。
ワシやベヤヤの方も似たような物で、ワシの石鹸は衛生の為に広めたいので格安で売る様にし、ベヤヤの方は大量生産して保存が効く紅茶とかを売っておる。
そんな警備兵の一人を呼び留めて、エドガー殿から渡されておる商会の紋章が刻まれたペンダントを見せて、話が出来る様に通して貰うのじゃ。
エドガー殿の紹介の紋章は、麦の穂に馬車の車輪が組み合わされた物じゃ。
それを受け取った警備兵が、店舗ではなく工場の方に向かって行ったのじゃが、エドガー殿は店舗の方におらんのか。
そして戻って来た警備兵に連れられて、工場の中を通るのじゃがそこで作業を行っていた作業員達は、今では全員が手馴れた様子で作業を行っておった。
「おぉ、魔女様、今日は何か話があるとか……」
「うむ、久々なのじゃエドガー殿、実はのう」
エドガー殿は工場に併設されておった部屋で、多くの書類が積み上げられた机を前にしておったが、ワシの姿を見て出迎えてくれたのじゃが、ちょっと疲れておる様子。
じゃが、それを気にさせる様子も無く、ワシを出迎えてくれたのじゃ。
そして、授業で魔石を使う為に必要な事を説明すると、快く融通してくれる事になったのじゃが、問題無いのかのう?
それを聞いたら、何でも前に『シャナル』から戻ってくる際、商隊が魔獣の群れに襲われて護衛についていたイクス殿達が殲滅し、大量の魔石が置かれておるらしい。
勿論、ギルドに売れば大儲け出来るのじゃが、コレだけ短期間で儲けておるエドガー殿の店は、他の商人から睨まれており、そんな現状でそれ以上に儲けてしまえば、どんな妨害をされるか分からない。
ただでさえ、コレまでも似たような商品や偽造品が出てきており、これ以上に妨害が起きても問題じゃし、店員や作業員への危害を加えられたらという危険性もあるのじゃ。
なので、エドガー殿は少しずつ売っていこうと考えておる訳じゃな。
「あ、そう言えば魔女様、魔石を融通するのは構わないのですが、少しお願いしたい事があるのですが」
「む? 一体なんじゃ?」
魔石の売買に関する契約書を書いておったら、エドガー殿からそんな事を言われたのじゃが、そのお願いと言うのは、美樹殿が作った道具の説明をして欲しいというものじゃった。
何でも、魔獣の群れに襲われた際、荷物の一部が破損してしまい、その一部の中に、美樹殿が作った道具の説明が書かれておった説明書があったらしいのじゃ。
勿論、全てでは無いし、形状や動作から予測出来るのじゃが、それでも分からぬ物や、実は間違っておる危険性があるので、使いたくとも使えなかったらしい。
そして、態々、説明書の為に『シャナル』に戻る訳にもいかぬし、失った地点は『シャナル』より王都の方に近かったので、諦めて王都に進み、次の行商時に改めて説明書を書いてもらおうと思っておったらしい。
そんな所に、ワシがやってきた訳じゃ。
まぁ見てみんと分からんが、恐らく、『
そう思って引き受け、まずは魔石の売買を行った後、エドガー殿から倉庫の一つに案内されて、美樹殿が作った道具を見てみたのじゃ。
そこにあったのは、大小さまざまな木箱で、エドガー殿が指示を出してその木箱の天板を外させて、中から色々な道具を取り出して床や机に並べていく。
その形状の大部分は見た事がある物じゃが、中には見た事が無い物もある。
形状から、組み立てねばならん物もあるようじゃが、予想出来る物であれば組み立てる事も出来るじゃろう。
こりゃ凄い数じゃが、美樹殿も頑張って開発しておるんじゃな。
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