第305話
その日、生徒達の授業を引き継ぐ為に、ドリュー先生の実力を上げなければならないという事で、テントで知識とかやり方を詰め込んだのじゃが、ドリュー先生の実力は中々高い。
まず、魔術の構築速度はかなり早いのに、十分なマナを籠められておるから、実戦でも十分強いじゃろう。
じゃが、早いと言っても従来の方法じゃから、ワシとかと比べれば遅い。
そこら辺を矯正する為の詰め込みじゃが、まぁ今まで教えておった内容と違うから、それを変えるのは難しい。
と言っても、1からちゃんとどうしてそうなるのかを説明しながら教え、最終的にはドリュー先生も『魔法』を使える様になったのじゃ。
まだ『魔法』の構築速度が遅いのは仕方無いのじゃが、それでも今の状況でも魔術と比べればかなり早いのじゃ。
しかし、ドリュー先生の場合、魔術の構築速度が速い上に十分なマナを籠められれるという事は、魔術の発動と同じ時間を魔法でも掛ければ、魔法の方が強くなる訳じゃ。
後は只管自主練習じゃな。
まぁ引継ぎ作業が終わってテントから出た後、ドリュー先生はゲッソリしておったけどな。
因みに、テントに入る際、加齢せぬ様に一時的に年齢を止めるというポーションを飲ませた後、時間感覚を麻痺させるポーションも飲ませておいたので、中にどれだけいたのかは分からぬ様になっておる。
ドリュー先生の感覚では、テントに入った後は夢を見ていたような感覚になっておるじゃろうが、テントの中で覚えた技術はテントから出た後もしっかりと覚えておる。
これで心残りは無いのう。
まぁ生徒達にも、ワシからのプレゼントを渡す予定じゃけどな。
そのプレゼントじゃが、ワシが使う『グラビトン・レールガン』から派生させて作った3つの魔術じゃ。
随分と昔、『グラビトン・レールガン』を魔術として構成するのは、その工程が多過ぎて不可能と考えたのじゃが、それなら可能なレベルまで細分化すれば良いと考え、その結果、3つの魔術として構成する事に成功したのじゃ。
一つ目は『グラビティ・シールド』。
これは『グラビトン・レールガン』で砲弾を撃ち出す際の保持重力バレルを、そのまま盾として展開する事が出来るという魔術であり、空間を圧縮しておるから、従来の盾を作る魔術と違って実際に防いでおる訳では無く、圧縮された空間を攻撃が通っておるから到達するまで時間が掛かるだけで、それで防いでおる様に見えるだけじゃ。
しかし、他の盾の魔術と違って、何かが必要になる訳では無いので、どんな状況、どんな魔術相手でも使える訳じゃ。
二つ目は『グラビティ・フィールド』。
砲弾を撃ち出す際の押し出す力を、そのまま自身の周囲に展開して相手の動きを阻害したり、自身に使って軽くして動きを早くしたり出来る斥力フィールドを形成する。
これの利点は『相手に気が付かれにくい』という一点じゃ。
例えば、この魔術を展開した状態で、相手が魔法や遠距離武器を使って来た場合、自身に攻撃が届く前に地面に落ちる。
当然、爆発系の魔術の場合、斥力フィールドの向きを変えて上に向ければ、上空にすっ飛んでいく。
最後の三つ目は『グラビティ・ボム』。
砲弾を圧縮するのを利用し、空間を高圧縮した状態で設置、任意のタイミングで開放して周囲の空間を破壊する。
まぁ先程の二つと比べれば随分と大人しいと思われるじゃろうが、実際は凶悪な破壊力になっておる。
ぶっちゃけ、超高圧状態のガスボンベとか酸素ボンベが爆発するのと同じじゃ。
この3つの魔術を組み合わせ、ちゃんと構築出来るようになれば、ワシが使う『グラビトン・レールガン』になる訳じゃが、生徒達が使えるようになるのはいつになるかのう。
そんな事を思いつつ、重力魔法用の『
ワシ等が帰還へ準備を進めておる中、他の者はどうしたかといえば、今回、兄上は王都に残る事になっておる。
と言うのも、兄上が受けておる依頼が終わっておらんから、兄上は帰る事が出来ぬ。
依頼が終わり次第帰る事になっておるんじゃが、どの程度ズレるかのう?
そして、バート達じゃが、ワシと一緒に帰る事になっておる。
バートに渡した『強化外骨格』の素体じゃが、既に後は組み立てるだけになっており、移動の最中にでもゆっくり組み立てるつもりらしい。
そんな中、ベヤヤの方でちょっと問題が起きておる。
まぁ問題と言うか、ベヤヤが手紙とか出す際に商業ギルドで手土産として色々と料理を作って渡しておったのじゃが、ベヤヤが帰ればもう手に入らぬと、受付嬢達が嘆いておった。
じゃから、代わりに作れる料理人を探す事になっておったのじゃが、何故か
ちゃんとした料理人もいれば、レシピを独占して専売しようと考えておる商人もおり、下手な相手に教えればそれだけで問題になる。
そんな中で、受付嬢達が絶賛しておったスィーツのようなレシピを開示する訳にもいかず、ベヤヤはベースとなるクッキーのレシピを商業ギルドに登録し、後は商業ギルドに判断は投げた訳じゃが、まぁそれだけでも大混乱。
結局、そんな混乱の中、ベースクッキーのレシピは公開された訳じゃが、ベヤヤ程美味しい物は作れておらぬらしく、受付嬢達が嘆いておるらしい。
その事を知ったベヤヤが、王城の料理長達と相談した所、王城の料理人が作っても良いが、あまり商業ギルドに出入りする事が無いので、作って持っていく訳にもいかない。
そこで、料理長が腕は良いが王城勤めは出来なかった元料理人や、知り合いの引退した料理人に声を掛け、下町で菓子専門店として店を開店させるという方法を提案したらしく、料理長が忙しく走り回っているという。
そんな料理長は、ベヤヤが作る菓子も完全に作れるようになっており、今では惣菜パンにチャレンジしておる。
で、菓子専門店を開く為に商業ギルドに話を持っていった所、あっさりと店舗用の土地や材料の仕入れ先等が決まって行ったのじゃ。
まぁ殆ど受付嬢の伝手で凄まじい勢いで決まった、と言うのが本当の所じゃが、店舗は『もしものトラブルに対処する為』と言う事で、なんと商業ギルドのお隣、材料とかは『取り合いになって混乱を避ける為』に、商業ギルドから購入する事になった。
当然、売上が見込めなければこんな事は出来んのじゃが、商業ギルドの受付嬢と言うのは、色々な付き合いがあったりしてかなり舌が肥えておる女性達が多い。
当然、ベースとなるクッキーのレシピを買った者達からすれば、たまった物じゃ無いと思われるが、この店では同じ商品は売らぬ予定になっておる。
将来的には売る予定ではあるが、あくまでもメインは別の菓子にするのじゃが、その店の目玉となる菓子を作る必要があり、それがベヤヤの問題になっておる。
『どうすっかなぁ……』
俺の前に並んでいるのは、ここ最近で作った新しい菓子類。
元々、新しい店舗を作るなんて予定は無く、ベースクッキーのレシピを出した後は、料理人同士で研鑚すれば良いと思ってたんだが、弟子みたいな真面目な料理人は少ないようで、俺のレシピとして売りに出ていたクッキーを食べたんだが、材料をケチっているから、ハッキリ言って美味くない。
弟子もそれを知って、『こんなのを師匠の味と思われるのは問題だ!』と大騒ぎ。
結局、知り合いに声を掛けて専門店を作る事になったのだが、その店では同じクッキーを売る事は出来ないから、他の料理を目玉にする。
当たり前だが、弟子達も別に作っているが、やはり俺も新しい料理を作りたい。
だが、ここで問題になるのが店で売りに出す関係で、長時間おいて置いても変化しないと言う点だ。
時間経過で変化してしまう様な物を店においておくと、最初と最後に買う者で印象が変わってしまう。
そう考えると、クッキー系が売れないのはかなり厳しい。
『放置しても変化しないって事は、生野菜を使う惣菜パンは駄目だな……』
まぁ菓子屋って事だから、野菜を使う様な物はそもそも駄目か……
その中で思い付いたのが、コワ粉を薄く延ばして焼き、それにクリームや色々な果物を包んで食べるというモノ。
だが、これだけじゃ弱いし、真似しようと思えば簡単に真似出来る。
いっその事、『この店でしか食べられない!』と言うのが良いとは思うが、何も思いつかねぇ。
料理なら色々と思い付くんだが、菓子となると流石に直ぐに思い付かねぇ。
そう思っていたら、調理場から甘い匂い。
そう言えば、少し腹が減ったから、竈の隅に林檎放り込んでたな。
意外かもしれないが、果実って火を通すと甘くなんだ。
それを齧りながら新しい菓子をと思ったんだが、流石に林檎だけじゃ逆に腹が減るな。
適当に鞄から固めのパンを取り出し、火の通った林檎を切ってパンに乗せて齧る。
果実の水分がパンから滴り落ちるが、皿で床に落ちるのを防ぐ。
ふーむ、新しい菓子ねぇ……
もぐもぐと喰っていたら、普通にコレを売りに出せば良いんじゃね?って思った訳だ。
だが、それだとただ焼いた果実をパンに乗せただけ。
流石にそれを菓子と言うのは無理があるだろう。
そうなると、似たような感じで作れば良いのか?
そう考えて、最初に作ったのはジャムを中に練り込んだ物だが、ただのジャムパンじゃねーかって事で没。
そして出来上がったのが、ミートパイの肉の部分を果実のコンポートに変えた物。
コンポートもただ煮込んだ物では無く、形を出来るだけ保った状態の物を円形に並べる。
煮込みの途中で形が崩れても、パイの見えない部分に仕込む。
フルーツパイは、季節によって使う物を変えればいつでも出せるし、果実はコンポートにしておけば保存も効く。
後は、作る奴等が改造して行けば良いだろう。
作る際の注意点とか書き纏め、後で弟子経由で店舗の奴等に渡してもらう。
その店舗の奴等だが、今は別の場所で練習をしているらしいが、弟子の知り合いだけあって、ギルドで売ってるクッキーのレシピで作ったクッキーは、普通に美味かった。
あの腕なら、この菓子のレシピも問題無いだろうし、後は弟子達がどうにかするだろう。
そうして暫くの後、新しい菓子を売り出す店舗が王都に誕生し、庶民から貴族まで楽しめる菓子専門店として人気となった。
その店のシンボルは、白いクマのシルエットが銀のフライパンを持っているという物だった。
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-この熊だけ、住んでる世界観が違う件について-
-別に料理するクマがいたって良いじゃないですか。 それに、コレでもかなり料理の幅は絞ってるんですよ?-
-どこ等辺が絞ってんのよ。 好き放題に作ってる気がするんだけど?-
-卵が使えませんから-
-ぁー……確かに-
-料理に卵を使えないってなると、途端に幅が狭くなるんですよね。 卵って代替品も少ないですし、異世界料理物で定番のプリンとかオムライスとかが作れません-
-少ないって事はあるのよね?-
-植物由来の物で作られる『代替卵』って物なんですが、異世界では材料を集めるのが難しいんですよね-
-あの熊の執念なら、集めそうだけど?-
-私が調べた限り、材料の一つに『豆腐』や『豆乳』が多く使われていまして、『豆乳』はともかく……-
-なるほど、確かに『豆腐』は『海』から採れる『にがり』が無いと作れないわね-
-まぁ、無くても作れない訳じゃないんですが、それにはミネラルを多く含んだ天然塩が必要でして-
-それなら、製塩の時に出る『にがり』を使った方が早いわね-
-そう言う事です-
-卵が定期的に手に入る様になったら、あの熊はもっと好き放題に料理しそうね-
-でしょうね-
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